おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第二章 赤竜討伐戦

第73話 正妻戦争(23)

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「ベック! ここら近辺は避難が済んでいるとニードルス伯爵が言っていた。とりあえず、俺の魔法じゃなくて、何かしらの要因が原因でエルナのように倒れた人たちを一回救出に向かうぞ!」
 
 俺の言葉に、ベックが「マジっすか!」と、言う表情を見せてくるが、俺の意思が固いと見ると馬車を山猫族、狼族と戦った場所へと走らせる。
 現場に到着すると、穴から這い出てきた獣人たちが地面の上で失神していた。
 
「旦那……。本当のところ、どうなんですか?」
「何かを言いたいならはっきりを言ってくれないと困るな」
「……これって、どう見ても旦那が関与していますよね? 俺の鼻に詰めた物とかも含めて――」
「おいおい、何を言っているんだ? 憶測で他人を犯罪者のように言うのは間違っているだろう? それより……だ」
 
 俺は獣人をベックの幌馬車に乗せながら思考を目まぐるしく回転させる。
 正直、石鹸の件といい匂いの魔法といい俺にも落ち度があったことは間違いない。
 ただ問題は、エルナを相手にしていた以上、こちらにも切れる手札がそんなに多くなかったことだ。
 
 ――つまり、俺は悪くない。
 
 だが! 不可抗力の悲しい事故であったとしても、そこに他人が共感して無罪放免してくれるかと言うと難しいところだろう。
 それに広がり続けている気体――、異世界人には苦手な匂いをどうするかも問題だ。
 下手したらテロリスト扱いされかねない。
 そこまで考えると、俺が匂いを作ったとは言い出すのはリスクが高いだろう。
 
「ベック」
「なんすか?」
「お前は、以前に商人として大成したいようなことを言っていたよな?」
「まぁ……、そうですが――」
「俺は以前にベックに任せるのは塩の取引という話をしたが……」
「そうっすね……」
「香辛料とかも取り扱ってみたいと思わないか?」
「そ、それは――!?」
 
 さすが商人、
 俺が何を言いたいのか、その意味を察してくれたようだ。
 
「旦那、俺は奴隷を扱う商売をしてから塩を取り扱うようになりましたが……、犯罪の片棒を担ぐような――」
「売り上げの3割だ」
「……」
「売り上げの4割でどうだ?」
「俺っちは何も見ていませんでした!」
「だろう? 何かあっても何も見ていなかったと証言とかもしてくれると嬉しいんだがな……」
「もちろんですぜ! 俺は旦那についていきます!」
 
 ――ふう。
 これでベックへの根回しと俺のアリバイ確保は出来たな。
 あとは……。
 
「旦那、ついでですから今回の問題も何か脅威が現れたってことにすればいいのでは?」
「ふむ……」
 
 俺は、最後の獣人を幌馬車に乗せたあと、倒れている兵士の下へと近づく。
 兵士たちは鎧を着ていることもあり一人で持ちあげるのはきつい。
 ベックと二人掛かりで幌馬車に乗せていく。
 
「どんな脅威が現れたってことにするんだ? 俺は、その辺には詳しくないんだよな」
「旦那は、元々は冒険者ですよね?」
「ああ、そうだが……、覚えることがたくさんあってな――」
 
 この世界に転移してきてから覚えることが多すぎて、いちいち細かいことまで覚えていられないのだ。
 若ければ何とかなったのかも知れないが。
 
「――そうですか……」
「何かいい案があるのか?」
「……とりあえずドラゴンとか出て毒の霧を吐いたみたいなことにすればいいのでは?」
「そんなに上手くいくものなのか? そもそもドラゴンが姿を現さないのに、ドラゴンのせいもないと思うんだが……」
 
 俺は溜息をつく。
 どうも上手い言い訳というか工作が思いつかない。
 
「旦那、そっちの足を持ってくださいよ」
「分かっているって! 膝が痛いんだよ」
 
 ベックの問いかけに言葉を返したところで、北の方からドラゴンっぽい咆哮が聞こえたが――、きっと気のせいだろう。
 
 兵士たちを馬車へ乗せたあと、もしかしたらと思い俺とベックは、南へと馬車を走らせていた。
 
「だ、旦那――、俺……、もう――」
 
 どうやら匂いは南部に流れているらしい。
 
「ぎゃああああああ、つめてええええ」
 
 鼻栓だけでは、耐え切れなくなったベックが何度か意識を飛ばしかけている。
 俺は、幌馬車の手綱を握っているベックに向けて彼が意識を飛ばしそうになったら事故にならないように、その都度、生活魔法で作り上げた氷水を頭から被せている。
 
 ――そのおかげもあり事故にはなっていない。
 
「だ、だだだ、旦那……手が震えて体が寒くて風が当たって――、頭が熱いっす」
「大丈夫だ! 問題ない。それより早く幌馬車をニードルス伯爵がいる場所へ走らせるんだ」
「――で、ですが……旦那。いまから向かったところでどうにかなるようには……」
「お前は何も分かっていないな」
「――どういうことっすか?」
「つまりだな。人間は窮地に追い込まれた時に、死に瀕した時に助けられると大きな恩が売れるんだ」

「――!」


 俺の言葉にベックがなるほど! と言った表情を見せてくる。
 どうやら、真意が理解できたようだな。
 
「さすが旦那。問題を起こしておいて、それを逆手にとって相手を篭絡するとは……、やっていることがゲスいですぜ!」

「人聞きの悪いことを言うな。俺は、あくまでも人道的配慮の立場から、助けに向かっているに過ぎないんだからな」





 
 
 
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