73 / 190
第二章 赤竜討伐戦
第73話 正妻戦争(23)
しおりを挟む
「ベック! ここら近辺は避難が済んでいるとニードルス伯爵が言っていた。とりあえず、俺の魔法じゃなくて、何かしらの要因が原因でエルナのように倒れた人たちを一回救出に向かうぞ!」
俺の言葉に、ベックが「マジっすか!」と、言う表情を見せてくるが、俺の意思が固いと見ると馬車を山猫族、狼族と戦った場所へと走らせる。
現場に到着すると、穴から這い出てきた獣人たちが地面の上で失神していた。
「旦那……。本当のところ、どうなんですか?」
「何かを言いたいならはっきりを言ってくれないと困るな」
「……これって、どう見ても旦那が関与していますよね? 俺の鼻に詰めた物とかも含めて――」
「おいおい、何を言っているんだ? 憶測で他人を犯罪者のように言うのは間違っているだろう? それより……だ」
俺は獣人をベックの幌馬車に乗せながら思考を目まぐるしく回転させる。
正直、石鹸の件といい匂いの魔法といい俺にも落ち度があったことは間違いない。
ただ問題は、エルナを相手にしていた以上、こちらにも切れる手札がそんなに多くなかったことだ。
――つまり、俺は悪くない。
だが! 不可抗力の悲しい事故であったとしても、そこに他人が共感して無罪放免してくれるかと言うと難しいところだろう。
それに広がり続けている気体――、異世界人には苦手な匂いをどうするかも問題だ。
下手したらテロリスト扱いされかねない。
そこまで考えると、俺が匂いを作ったとは言い出すのはリスクが高いだろう。
「ベック」
「なんすか?」
「お前は、以前に商人として大成したいようなことを言っていたよな?」
「まぁ……、そうですが――」
「俺は以前にベックに任せるのは塩の取引という話をしたが……」
「そうっすね……」
「香辛料とかも取り扱ってみたいと思わないか?」
「そ、それは――!?」
さすが商人、
俺が何を言いたいのか、その意味を察してくれたようだ。
「旦那、俺は奴隷を扱う商売をしてから塩を取り扱うようになりましたが……、犯罪の片棒を担ぐような――」
「売り上げの3割だ」
「……」
「売り上げの4割でどうだ?」
「俺っちは何も見ていませんでした!」
「だろう? 何かあっても何も見ていなかったと証言とかもしてくれると嬉しいんだがな……」
「もちろんですぜ! 俺は旦那についていきます!」
――ふう。
これでベックへの根回しと俺のアリバイ確保は出来たな。
あとは……。
「旦那、ついでですから今回の問題も何か脅威が現れたってことにすればいいのでは?」
「ふむ……」
俺は、最後の獣人を幌馬車に乗せたあと、倒れている兵士の下へと近づく。
兵士たちは鎧を着ていることもあり一人で持ちあげるのはきつい。
ベックと二人掛かりで幌馬車に乗せていく。
「どんな脅威が現れたってことにするんだ? 俺は、その辺には詳しくないんだよな」
「旦那は、元々は冒険者ですよね?」
「ああ、そうだが……、覚えることがたくさんあってな――」
この世界に転移してきてから覚えることが多すぎて、いちいち細かいことまで覚えていられないのだ。
若ければ何とかなったのかも知れないが。
「――そうですか……」
「何かいい案があるのか?」
「……とりあえずドラゴンとか出て毒の霧を吐いたみたいなことにすればいいのでは?」
「そんなに上手くいくものなのか? そもそもドラゴンが姿を現さないのに、ドラゴンのせいもないと思うんだが……」
俺は溜息をつく。
どうも上手い言い訳というか工作が思いつかない。
「旦那、そっちの足を持ってくださいよ」
「分かっているって! 膝が痛いんだよ」
ベックの問いかけに言葉を返したところで、北の方からドラゴンっぽい咆哮が聞こえたが――、きっと気のせいだろう。
兵士たちを馬車へ乗せたあと、もしかしたらと思い俺とベックは、南へと馬車を走らせていた。
「だ、旦那――、俺……、もう――」
どうやら匂いは南部に流れているらしい。
「ぎゃああああああ、つめてええええ」
鼻栓だけでは、耐え切れなくなったベックが何度か意識を飛ばしかけている。
俺は、幌馬車の手綱を握っているベックに向けて彼が意識を飛ばしそうになったら事故にならないように、その都度、生活魔法で作り上げた氷水を頭から被せている。
――そのおかげもあり事故にはなっていない。
「だ、だだだ、旦那……手が震えて体が寒くて風が当たって――、頭が熱いっす」
「大丈夫だ! 問題ない。それより早く幌馬車をニードルス伯爵がいる場所へ走らせるんだ」
「――で、ですが……旦那。いまから向かったところでどうにかなるようには……」
「お前は何も分かっていないな」
「――どういうことっすか?」
「つまりだな。人間は窮地に追い込まれた時に、死に瀕した時に助けられると大きな恩が売れるんだ」
「――!」
俺の言葉にベックがなるほど! と言った表情を見せてくる。
どうやら、真意が理解できたようだな。
「さすが旦那。問題を起こしておいて、それを逆手にとって相手を篭絡するとは……、やっていることがゲスいですぜ!」
「人聞きの悪いことを言うな。俺は、あくまでも人道的配慮の立場から、助けに向かっているに過ぎないんだからな」
俺の言葉に、ベックが「マジっすか!」と、言う表情を見せてくるが、俺の意思が固いと見ると馬車を山猫族、狼族と戦った場所へと走らせる。
現場に到着すると、穴から這い出てきた獣人たちが地面の上で失神していた。
「旦那……。本当のところ、どうなんですか?」
「何かを言いたいならはっきりを言ってくれないと困るな」
「……これって、どう見ても旦那が関与していますよね? 俺の鼻に詰めた物とかも含めて――」
「おいおい、何を言っているんだ? 憶測で他人を犯罪者のように言うのは間違っているだろう? それより……だ」
俺は獣人をベックの幌馬車に乗せながら思考を目まぐるしく回転させる。
正直、石鹸の件といい匂いの魔法といい俺にも落ち度があったことは間違いない。
ただ問題は、エルナを相手にしていた以上、こちらにも切れる手札がそんなに多くなかったことだ。
――つまり、俺は悪くない。
だが! 不可抗力の悲しい事故であったとしても、そこに他人が共感して無罪放免してくれるかと言うと難しいところだろう。
それに広がり続けている気体――、異世界人には苦手な匂いをどうするかも問題だ。
下手したらテロリスト扱いされかねない。
そこまで考えると、俺が匂いを作ったとは言い出すのはリスクが高いだろう。
「ベック」
「なんすか?」
「お前は、以前に商人として大成したいようなことを言っていたよな?」
「まぁ……、そうですが――」
「俺は以前にベックに任せるのは塩の取引という話をしたが……」
「そうっすね……」
「香辛料とかも取り扱ってみたいと思わないか?」
「そ、それは――!?」
さすが商人、
俺が何を言いたいのか、その意味を察してくれたようだ。
「旦那、俺は奴隷を扱う商売をしてから塩を取り扱うようになりましたが……、犯罪の片棒を担ぐような――」
「売り上げの3割だ」
「……」
「売り上げの4割でどうだ?」
「俺っちは何も見ていませんでした!」
「だろう? 何かあっても何も見ていなかったと証言とかもしてくれると嬉しいんだがな……」
「もちろんですぜ! 俺は旦那についていきます!」
――ふう。
これでベックへの根回しと俺のアリバイ確保は出来たな。
あとは……。
「旦那、ついでですから今回の問題も何か脅威が現れたってことにすればいいのでは?」
「ふむ……」
俺は、最後の獣人を幌馬車に乗せたあと、倒れている兵士の下へと近づく。
兵士たちは鎧を着ていることもあり一人で持ちあげるのはきつい。
ベックと二人掛かりで幌馬車に乗せていく。
「どんな脅威が現れたってことにするんだ? 俺は、その辺には詳しくないんだよな」
「旦那は、元々は冒険者ですよね?」
「ああ、そうだが……、覚えることがたくさんあってな――」
この世界に転移してきてから覚えることが多すぎて、いちいち細かいことまで覚えていられないのだ。
若ければ何とかなったのかも知れないが。
「――そうですか……」
「何かいい案があるのか?」
「……とりあえずドラゴンとか出て毒の霧を吐いたみたいなことにすればいいのでは?」
「そんなに上手くいくものなのか? そもそもドラゴンが姿を現さないのに、ドラゴンのせいもないと思うんだが……」
俺は溜息をつく。
どうも上手い言い訳というか工作が思いつかない。
「旦那、そっちの足を持ってくださいよ」
「分かっているって! 膝が痛いんだよ」
ベックの問いかけに言葉を返したところで、北の方からドラゴンっぽい咆哮が聞こえたが――、きっと気のせいだろう。
兵士たちを馬車へ乗せたあと、もしかしたらと思い俺とベックは、南へと馬車を走らせていた。
「だ、旦那――、俺……、もう――」
どうやら匂いは南部に流れているらしい。
「ぎゃああああああ、つめてええええ」
鼻栓だけでは、耐え切れなくなったベックが何度か意識を飛ばしかけている。
俺は、幌馬車の手綱を握っているベックに向けて彼が意識を飛ばしそうになったら事故にならないように、その都度、生活魔法で作り上げた氷水を頭から被せている。
――そのおかげもあり事故にはなっていない。
「だ、だだだ、旦那……手が震えて体が寒くて風が当たって――、頭が熱いっす」
「大丈夫だ! 問題ない。それより早く幌馬車をニードルス伯爵がいる場所へ走らせるんだ」
「――で、ですが……旦那。いまから向かったところでどうにかなるようには……」
「お前は何も分かっていないな」
「――どういうことっすか?」
「つまりだな。人間は窮地に追い込まれた時に、死に瀕した時に助けられると大きな恩が売れるんだ」
「――!」
俺の言葉にベックがなるほど! と言った表情を見せてくる。
どうやら、真意が理解できたようだな。
「さすが旦那。問題を起こしておいて、それを逆手にとって相手を篭絡するとは……、やっていることがゲスいですぜ!」
「人聞きの悪いことを言うな。俺は、あくまでも人道的配慮の立場から、助けに向かっているに過ぎないんだからな」
38
お気に入りに追加
609
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
両親が勇者と魔王だなんて知らない〜平民だからと理不尽に追放されましたが当然ざまぁします〜
コレゼン
ファンタジー
「ランス、おまえみたいな適なしの無能はこのパーティーから追放だ!」
仲間だと思っていたパーティーメンバー。
彼らはランスを仲間となどと思っていなかった。
ランスは二つの強力なスキルで、パーティーをサポートしてきた。
だがそんなランスのスキルに嫉妬したメンバーたちは洞窟で亡き者にしようとする。
追放されたランス。
奴隷だったハイエルフ少女のミミとパーティーを組み。
そして冒険者として、どんどん成りあがっていく。
その一方でランスを追放した元パーティー。
彼らはどんどん没落していった。
気づけはランス達は、元パーティーをはるかに凌駕していた。
そんな中、ある人物からランスは自身の強力なスキルが、勇者と魔王の固有のスキルであることを知らされる。
「え!? 俺の両親って勇者と魔王?」
ランスは様々な争いに次々と巻き込まれていくが――
その勇者と魔王の力とランス自身の才によって、周囲の度肝を抜く結果を引き起こしてゆくのであった。
※新たに連載を開始しました。よければこちらもどうぞ!
魔王様は転生して追放される。今更戻ってきて欲しいといわれても、もう俺の昔の隷属たちは離してくれない。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/980968044/481690134
(ページ下部にもリンクがあります)
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる