おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第二章 赤竜討伐戦

第72話 正妻戦争(22)エルナ VS 神田栄治

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 しかし……。
 生活魔法で出来るかどうか使ってみたが本当に使えるとは……、それに効果は絶大。
 やっぱり人の形をしていても獣人と言ったところか……。
 
「ぐぉおおおおお」
 
 後ろを振り向くと地面の上でゴロゴロとのたうち回るベックの姿が見えた。
 
「――ふむ」
 
 どうやら、獣人というより異世界人には苦手な匂いだったようだ。
 なんとなく察したあと、エルナの方を見る。
 すると、口から泡を吹きながら体を痙攣させて倒れていた。
 
「……お、おい! 大丈夫か!」
 
 走って近づく。
 どうやら意識が無いようで地面の上に力無く倒れている。
 
「これは……、まずいかも知れん。すぐに移動したほうがいいな。お、おい! ベック!」
 
 ベックのほうを見ると、そこには白目をして泡を吹いたベックが地面の上で倒れていた。
 
「おい! 起きろ!」
 
 俺は鼻栓を生活魔法で作りあげるとベックの鼻に詰めてから氷水をぶっかける。
 
「ぎゃあああああああ! つめてええええええ」
「良かった。目を覚ましたか」
 
 やれやれ、手のかかるやつだ。
 
「だ、だ、だんな。い、一体――。何が……」
「事情は後で説明する。早く馬車を出せ!」
「――え!? ですが――、あ、はい」
 
 俺の腕の中で倒れているエルナを見て何かを察したのかエルナを抱えて馬車に乗ったのを確認するとベックが馬車を走らせ始めた。
 
「まずいな……」
「旦那、どうかしたんですか?」
「いや――」
 
 ベックと問いかけに曖昧に答える。
 本当の事を言ったらパニックになりかねない。
 
 俺も久しぶりの本格的な戦闘ということで読み違えてしまっていた。
 俺が作り出したキツネが苦手な匂い。
 それを、俺は石鹸を100個作る感覚で周囲の大気に散布した。
 だが――。
 
「固形と気体の差を考えていなかった……」
 
 質量の差は圧倒的な物がある。
 おそらく、作り出されたキツネというか異世界人が苦手な匂いは周辺に広がり始めている。
 このままでは、俺の不注意でソドムの町が大変なことになってしまう。
 
「旦那……、また何かしたのでは?」
 
 とりあえず言質を取られないように黙秘することにする。
 俺達が乗る馬車が北に向けて走り中央の通りに差し掛かったところで南側から大きな爆発音が聞こえてきた。
 方向からして、リアとソフィアがソルティと戦っているのだろう。
 




 ソルティside





  リアと神田栄治さんが名前を呼んでいたメディデータを私は見る。
 彼女が展開させた魔法。
 その魔法は、私達の主が作った魔法系統とはまったく異なる。
 少なくとも、神代文明時代の技術で作られた魔法ではない。
 
「困ったわね」
 
 私は小さく溜息をつきながら、リアと呼ばれた女性が放ってきた魔法を片手で吹き散らす。
 魔法の根幹を成しているのは、構成されて発現している力は精神感応物資に他ならない。
 ただ――、精神感応物質に命令を下すまでのプロセスがまったく異なっている。
 その理由が今一、分からない。
 
 私が作られてから少なくとも1万年周期は経っているが、その間に何か問題が起きているのだろう。
 もしかしたら……。
 
「メディデータが独自に進化しているとでもいうの?」
 
 思考しているとソフィアと言うメディデータが放った矢が高速で飛んでくる。
 私は、飛来してくる矢に視線を向ける。
 そして、神代文明時代に大気に散布されたニュートリノ・ナノマシンに命じて世界を形作っている精神感応物質へと命令を下す。
 
「【防御】」
 
 私の言葉と同時に空中に防御結界が展開される。
 ――そして飛来してきた矢は、私の防御結界を貫通し私の手を刺し貫いた。
 
「――なっ!?」
 
 ――一体、何が……?
 理解が追いつかない。
 神代文明技術の結晶である私の力を無効化してきた?
 この世界の従来の人間には、毒素のある精神感応物質。
 それを消費するためだけに作られたメディデータの力が、世界の理を律するために創られた私を上回るとは理解できない。
 
「ソフィア、やったの!」
「ええ、普通の弓矢は通じない。だけど……、カンダさんが作った弓矢なら精霊魔法を纏わなくても、彼女の――ソルティの結界を貫通できるわ」
 
 二人の話を聞きながら私は、小さく「そういう……こと……」と呟く。
 私は無意識の内に歯軋りをしていた。
 それと同時にソフィアという女が持つ弓矢を解析していく。
 
「通常物質……、通常の……魔力を一切含まない物質? まさか……、神田栄治さんは――」
 
 私は、すぐに口を閉じる。
 もし、私の想像が確かなら神田栄治さんの魔法は、この世界アガルタに存在しない地球の物質を、そのまま召還していることになる。
 
 それが本当なら、その危険度は最上級危険ランクに属する。
 問題は、どうして彼の命令を、この世界のニュートリノ・ナノマシンが聞いているのか?  と、言う点だけど……。
 
「アイツの動きが止まったの!」
 
 思考のあまり行動が疎かになったのを見たソフィアという女が、リアの言葉に頷くと矢を放ってくる。
 放たれた矢は、この世界に存在しない物質であり、存在次元レベルが数ランク上。
 
「受け止めることも防御することも不可能――、なら……」
 
 私は、後方へと飛びのく。
 防御も受け止めることも不可能なら避けることくらいしか出来ない。
 
「エクスプロージョン!」
 
 私が後方へ移動したのを見計らってリアと言う女が魔法を放ってくる。
 
 私は、放たれた魔法を手で受け止めるが、直前で爆発する。
 
「そんな!?」
 
 ――防御計算が……、間に合わない。
 
 飛んでくる矢を避けながら魔法を防御することが出来ない。
 神代文明時代に作られた事象を書き換える消費公式とはまったく異なる。
 
 本当の魔法に私は動揺を隠せない。
 根幹は同じだと言うのに、プロセスが異なることから無効化しようとすれば膨大な計算式を組む必要がある。
 だけど、飛んでくる矢に演算を割いているために計算が間に合わない。
 
「やはり……」
 
 私は呟きながら爆風で吹き飛ばされた腕を修復させ目の前の二人へと視線を向ける。
 主神から神田栄治さんを、手に入れろという命令を受けてはいた。
だけど、その理由が分からなかった。
 
 ……でも、いまなら。
 神代文明時代に作られたメディデータが、主神の手を離れようとしていて世界の脅威になりつつある。
 その危険性を考慮に入れて、神田栄治さんを主神は手に入れろと言って来た?
 
 それなら、私がしようとしていることは……。
 
 
 
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