おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第二章 赤竜討伐戦

第70話 正妻戦争(20)エルナ VS 神田栄治

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「もう……、全部終わりでしゅ――」
 
 エルナが体を翻すと俺から逃げるように走っていく。
 
「――くそっ!?」
 
 まだ何の話も出来ていないのに、こんなところで。
 それでも身体能力の差は歴然。
 あっと言う間に距離が開いていく。
 
「このままでは……」
 
 膝からの激痛に耐えながら走るが、横転してしまう。
 
「ここで見失ったら」
 
 二度と、エルナは帰ってこない気がする。
 それは誰も望んでいないことで。
 
「旦那! 何をしているんですか!?」
「ベック!? どうして、ここに!?」
「――旦那に伝えたいことがありまして姉さんに頼まれて――。それより一体、どうしてエルナさんを旦那が追っているんですか?」
「ああ、それだが……」
 
 俺は一瞬、言い淀む。
 この話はリルカとエルナの姉妹の問題だ。
 本人達の同意を得ていないのに第三者に漏らしてしまってもいいのか? と。
 
「すまない。事情は説明できないが」
「そうですか。それよりも――、姉さんが旦那の妻のリルカさんについて伝えて欲しいことがあると――」
「何かの病気だったのか?」
「いえ、それがですね――」
 
 ベックの言葉に俺は驚く。
 
「そうか……、それなら尚更、リルカとエルナの確執を解消しないといけないな」
「確執ですか? 何やら複雑な事情があるようで」
 
 俺はベックの言葉に頷き。
 
「馬車に乗せてくれ。今の俺だと走ることもきつい。それに最後の体力は残しておきたいからな」
「……わかりました」
 
 ベックの手を借りて馬車に乗ったところで。
 
「それよりも、もうエルナさんを見失ってしまったのでしょう? どうやって、追いかけるつもりで……」
「ああ、それならな……」
「――だ、旦那。それは一体……」
 
 俺が生活魔法で作りだした代物を見て興奮気味にベックが聞いてくる。
 
「赤外線カメラ搭載型のドローンだな」
 
 ベックの問いかけに答えながらも俺はコンソールを操作しながらドローンを空へ向けて飛ばす。
 今だけはニードルス伯爵が近隣住民を避難させておいてくれたことに感謝だな。
 おかげで――。
 
「ベック! 北へ向けて移動してくれ!」
「分かりましたぜ!」
 
 馬車が急加速してエルナのあとを追跡していく。
 離れている距離は300メートル前後。
 思ったよりも距離が離れていない。
 俺と戦っていたエルナなら、もっと早く走れていてもおかしくないはずなのに、上空から赤外線カメラで、エルナの姿を捉えてからと言うもの、彼女の移動速度が見る見る間に落ちていくのだ。
 
「旦那、エルナさんはどのへんに?」
「――いや、それが殆ど進んでいないんだ」
 
 ベックが一瞬無言になり何かを考えるそぶりを見せたあと「魔力切れかも知れませんね」と、答えてきた。
  
「魔力切れ――?」
「はい。獣人たちの間では稀に魔法が使える者が生まれるらしいですが、魔法を使うためには代償が必要なるらしいんですよ」
「代償!?」
 
 俺は一瞬声を荒げる。
 
「そうか……、どうりであれだけの速度と力を発揮できたわけだ……。おそらく、かなりの代償を払っているんだろう」
 
 自分自身で口に出しながらも最悪の事態をつい想像してしまう。
 よくドラマや漫画などであるような寿命を削ったり、記憶を失ったり、体が崩壊したりと、そんな洒落にならない代償。
 そんなのを払ってまで力を得ていたとしたら、それは間違っている!
 
「カンダの旦那。勘違いする前に言っておきますが、旦那の奥さんの妹さん――、エルナさんが払っているのは干し肉ですぜ?」
「ほ……、干し肉?」
「そうですぜ、獣人は食べ物を代償に力を得るのが定説ですから」
「――な、なるほど……」
 
 ベックの言葉に頷きながら考える。
 エルナの力が干し肉に由来しているというなら……、そし魔力が切れているとしたらエルナは、どこに向かう?
 エルナは逃亡したが、リルカに対しての怒りはあると見て間違いない。
 
「ベック! この辺で干し肉を扱うような店は?」
「もう向かっていますぜ!」
 
 馬車は大通りから路地へと入っていく。
 路地は狭く幌馬車の両脇が建物の壁に擦れ火花を散らす。
 
「旦那!」
「分かっている!」
 
 俺は幌馬車から跳躍し地面へと着陸する。
 それと同時に路地から出てきた幌馬車は、乾物店へ突っ込んだ。
 俺は乾物店に突っ込んだ幌馬車を横目で見ながらエルナの方へと視線を向ける。
  
「旦那!」
 
 ベックが透明な液体が入った瓶を俺に投げてきた。
 空中で薬瓶を受け取る。
 
「それは、元の姿に戻る薬ですぜ! 姉さんからの差し入れ――」
「助かる」
 
 正直、リルカの姿のままだと体が思うように動かせなかった。
 胸は重いし、尻尾だって移動の際に邪魔になっていたし、何より魔力の練り上げが上手くできなかった。
 俺は、受け取った薬を一気飲みする。
 
「――ッ! カンダしゃん」
 
 変化した俺の姿を見たエルナが目を見開いて俺を見てきた。
 
「俺が変化した姿だって知っていたんだろう?」
「……」
 
 エルナが無言で言葉を返してくる。



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