おっさんの異世界建国記

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
69 / 190
第二章 赤竜討伐戦

第69話 正妻戦争(19)エルナ VS 神田栄治

しおりを挟む
 俺の構えを見てエルナが目を見開き言葉を紡いできた。
 今の俺が構えているのは空手で言う半身の状態。
 つまり相手から見える面積を減らすことで攻撃される箇所を減らすことが目的の立ち方だ。
 
「エルナ、貴女が私のことを何て思っているのか分からないけど……、そこまで私を憎むなら理由があるのでしょう?」
「……」
 
 エルナの表情が――、無表情になる。
 それと同時にエルナの姿が視界から消え去った。
 
「考えるな……。感じろ――」
 
 俺は自分に言い聞かせるように一人呟く。
 それと同時に、右耳が何か硬い物が砕けたような音を拾う。
 音がした方向ではなく、左手側に体を回転させながら、後ろ向きで半身になる。
 
「――ッ!?」
 
 俺の脇の下をエルナが通過する。
 その時――、驚愕の表情をエルナは俺に見せてきた。
 通過しつつあるエルナの後ろ襟を掴む。
 
 確かにエルナは目に映らない速度で最初動くことが出来る。
 
 ――だが、果たしてその速度を維持したまま2撃目に生かせるのかと言うと。そんなのは無理だ。
 建物の壁を利用して方向転換をする以上、必ず物体の――、質量の移動の際には必ずロスが発生する。
 そのロス分が――。
 俺がエルナを捉えられることに繋がる。
 
 それでも、30キロもの重量が100キロを超える質量を伴って突っ込んでくるのだ。
 体を魔力で強化しているエルナは問題ないが、エルナの後ろ襟を掴んだ俺の右腕は何度も骨折し肩も脱臼を繰り返している。
 
 ――刹那の時間。
 持続して固定化の魔法と、回復魔法を連打しながら俺は痛みに耐えながらもエルナの体を右へと引っ張る。
 それと同時に、両足の靭帯が切れていくのが感覚的に理解できたが、それすらも回復魔法で修復し、エルナを地面に背中から叩きつけた。
 
「カハッ!?」
 
 そこで、ようやくエルナが体に受けた衝撃に息を吐いた。
 
「ハァハァハァ――」
 
 俺は、震える膝を押さえながらエルナから距離を取る。
 
「な、何をした……でしゅか?」
 
 エルナはふらつきながらも俺を睨み付けながら立ち上がってくる。
 そして、俺はエルナの問いかけに無言で返す。
 
「なにをしたのか聞いてるでしゅ!」
「ハァハァハァ――、こちらからの質問には一切答えずに、自分の質問に答えてもらえると思っているのですか?」
 
 極度の連続魔法行使の影響で、意識が混濁し始めてきた。
 それでも、俺はリルカのエルナの確執だけはそのままにしておく訳にはいかない。
 
「どうして――、エルナがリルカを恨んでいるのか本当に分からないでしゅか!」
「分からないわ。――だって思いを伝えるために……考えていることや気持ちを伝えるために言葉があるのだから」
 
 俺が使った空手と柔道の混合技をエルナは警戒しているのか一定の距離から近づいてきようとしない。
 それは、俺が望んでいる展開。
 相手と距離が一定以上開いているのなら――。
 そこで俺は、ハッ! とする。
 そして横へと飛びのく。
 一瞬送れて、俺が立っていた後方の建物が吹き飛ぶ。
 ……そうだった。
 エルナには長距離攻撃がある。
 その証拠に、エルナは掌底を吹き飛んだ建物の方へと向けていた。
 
「いいでしゅ……、リルカ! お前の父親はエルナのパパを殺したでしゅ!」
「――なっ!?」
「知らないとは言わせないでしゅ! それともお前の前では言わなかったでしゅか? エルナはリルカの実の妹じゃないって!」
 
 動揺している間にもエルナは掌底を放ってくる。
 俺は、思考しながら避けていく。
 掌底を放つ際には溜めが必要らしく、エルナの動きを見ていれば避けることは出来るが……。
 
「エルナは……、エルナは! ずっと集落で! 一人ぼっちだったでしゅ!」
「……」
 
 エルナの言葉に無言になる。
 それよりも、どうしてリルカの父親がエルナの父親を殺したのか理解できない。
 それも獣人特有の物なのだろうか?
 俺が無言で居ると、それを無言の肯定として受け取ったのか知らないがエルナが口を開く。
 
「お前が! エルナを同情するたびに! エルナがどんな気持ちだったのか考えたことがあるでしゅか!」
 
 叫びながら掌底を俺に向けて放ってくる。
 それらを走りながら避けていると、膝に激痛が走った。
 
「――くっ!?」
 
 ――ずっと感じていなかった膝からの激痛に、顔を歪める。
 それと同時に、エルナの掌底が俺目掛けて放たれて、俺の頭上を掠めていく。
 
「――そ、それは!?」
 
 エルナの動揺を含んだ声色が聞こえてくる。
 本能が危険だと察し無意識の内に埋葬の生活魔法を発動してしまっていた。
 それにより体は地面の下に落ちてエルナの攻撃を避けることは出来た。
 
 ――だが……。
 
「さすがバレるよな――」
「ど、どうして……。どうしてカンダしゃんがリルカの姿をしているでしゅか?」
 
 地面から這い出ると、青くした表情でエルナが言葉を紡いでいた。
 それは、俺に語りかけるというよりも、どちらかと言えば自分自身に語りかけているようにも思える。
 
「エルナ!」
 
 俺が名前を呼ぶとエルナは、体を一瞬震わせたあと、焦点が定まらない瞳で俺を見てきた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

処理中です...