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第二章 赤竜討伐戦
第59話 正妻戦争(9)
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「それなら、最初からそれでも――」
「申し訳ありません、さすがに無条件で伯爵家が、それを受けるわけには行かないのです。やはり建前は必要ですので……」
「そうか――」
「カンダしゃん……」
「――分かった。その正妻戦争受けようじゃないか! それと一つ項目に気になった記述があるんだが……」
「何でしょうか?」
「ここの記述だが――」
俺は、羊皮紙の正妻戦争の名前欄に小さく書かれている文字列を指差す。
そこには、正妻が身ごもっていた場合は、正妻戦争は意味を成さないと書いてあった。
「神田さん、その記述はそのとおりです。正妻である方が身ごもっているのに正妻を決める戦いをするのは不毛だからです。よって正妻戦争をしても意味がないのです」
「なるほど……」
「それでは、こちらで正妻戦争の用意を行いますので、昨日用意致しました宿屋で一週間ほど滞在してください」
「分かった」
まぁ、エルナもいることだし負けることはないだろう。
――ただ、一つ気がかりなのがある。
最近のリルカは、いつも眠そうにしているのだ。
寝ても寝足りていないように見える。
だが、エンパスの町での戦い方を見る限り杞憂だろう。
――それよりも……。
「ソルティ! お前は、何で自分の名前を書いて血判押しているんだ!?」
「私も正妻戦争に出るから!」
ソルティの言葉に、俺は思わず盛大な溜息がでた。
一日の終わりとばかりに日が沈み、夜の帳がソドムの町を包み込んでいく。
「……はぁー」
俺は、一人でニードルス伯爵が借りた宿屋へと戻ってきた。
現在の宿屋には、俺とリルカしか居ない。
――それは、何故かと言うと……。
現在のリルカは俺の正妻であり、他の獣人の女性に影響力があるからという理由らしいが、それは建前だというのは長い人生経験を持つ俺には分かる。
まるで規定路線のように全てが整えられた盤上の上で、追い詰められているような感覚。
これは、明らかに正妻戦争を仕組んだ者の仕業だ。
血判を押した獣人から、言質が取られないこと。
そして……、作戦を組むために一緒の宿屋では不都合だという理由で、宿を引き払ったのだろう。
狡猾と言わざるをえない!
それでも相手には誤算がある。
エルナが、「カンダしゃん! エルナが、ニードルス伯爵や山猫族と狼族の獣人達の様子を見ておくでしゅ! 何かあったら、すぐ知らせるでしゅ!」と、自身の身に危険があるかも知れないのに、力説してきたことだ。
さすがに正妻戦争を仕組んだ相手でも、監視役が居るのは誤算だろう。
「本当に、俺の義理の妹であるエルナはよく出来た子だな」
俺は、自分に言い聞かせるように、一人呟きながら宿屋の階段を上がっていく。
しかし……、相手は、まるでこちらの動きを読んだかのように動いている。
通信技術が発達していない世界だと言うのに、俺の交友関係まで知っているのは驚嘆に値する。
さらに、山猫族と狼族の獣人から血判まで貰うことが出来るほどの信頼を勝ち得ている存在。
まるで、身内の犯行のように見せかけて開拓村エルを陥れようとしているみたいだ。
だが――、俺の長年の人生経験から言って、犯人に心当たりがない。
「いま、戻ったぞー」
俺は、自分の部屋――、リルカが寝ているであろう部屋の扉を開ける。
するとベッドの上には、寝息を立ててリルカが寝ていた。
服装が朝出たときから変わっていない事から、ずっと寝ていたのだろう。
「リルカ」
俺は、食事を取らせないといけないと思い、彼女の方に手を置いて揺する。
何度か「うーん」と、声を上げたところで。
「眠いです……。あなた、おはようございます」
「おはようじゃないから、もう日が沈んだからな」
「――ふぇ……、え!?」
リルカが、寝ぼけた眼差しのままベッドの上で上半身だけ起こしたまま木の戸を開ける。
「ほんとう……」
「大丈夫か?」
何かおかしな病気に掛かっていなければいいんだが――。
リルカは、ここ一週間ほどずっと眠そうな目をしていたし、ひさしぶりのベッドということもあり長く寝てしまっただけの可能性もあるが、正直心配だ。
「大丈夫です……」
「それならいいんだが……、治療院でもいくか? 少し熱もあるようだし……」
俺はリルカの額に手を当てながら、いつもより熱があることに心配になる。
「ううん、大丈夫です」
「そうか……」
心なしか何時もよりも元気が無いように思える。
やはりポーションか何か買ってきたほうが良いかも知れないな。
「そういえば食事を朝から摂っていないみたいだが、夕飯でも食べにいくか?」
俺の言葉に「はい」と、答えたリルカはベッドから降りると、体を一瞬ふらつかせて倒れそうになる。
身構えていたこともあり彼女の体を支えることは出来たが、やはり……どこか体の調子が悪いようにしか思えない。
リルカの体を支えながら1階の食堂に着くと、何時ものように肉中心の定食を頼む。
すぐに定食が出てきたが……。
リルカが、食事を見ると同時に口を押さえて食堂から出ていくと、廊下で彼女は座りこんでいた。
「あなた……、ごめんなさい。気持ち悪くて――」
リルカが顔を真っ青にして俺に語りかけてくる。
やはり、どこか体の調子が悪いのか?
「大丈夫だ。とりあえず疲れているのかも知れないから、今日はゆっくり寝よう」
「はい……」
リルカが、元気なく頷いてくる。
人間なら体のどこかおかしいかとかある程度は分かるんだが、獣人だと皆目見当がつかない。
明日、高額でもいいからポーションを薬師に調合してもらうとしよう。
それにしても、この調子だと正妻戦争についてリルカに言うわけには行かなくなったな……。
どうしたものか――。
「申し訳ありません、さすがに無条件で伯爵家が、それを受けるわけには行かないのです。やはり建前は必要ですので……」
「そうか――」
「カンダしゃん……」
「――分かった。その正妻戦争受けようじゃないか! それと一つ項目に気になった記述があるんだが……」
「何でしょうか?」
「ここの記述だが――」
俺は、羊皮紙の正妻戦争の名前欄に小さく書かれている文字列を指差す。
そこには、正妻が身ごもっていた場合は、正妻戦争は意味を成さないと書いてあった。
「神田さん、その記述はそのとおりです。正妻である方が身ごもっているのに正妻を決める戦いをするのは不毛だからです。よって正妻戦争をしても意味がないのです」
「なるほど……」
「それでは、こちらで正妻戦争の用意を行いますので、昨日用意致しました宿屋で一週間ほど滞在してください」
「分かった」
まぁ、エルナもいることだし負けることはないだろう。
――ただ、一つ気がかりなのがある。
最近のリルカは、いつも眠そうにしているのだ。
寝ても寝足りていないように見える。
だが、エンパスの町での戦い方を見る限り杞憂だろう。
――それよりも……。
「ソルティ! お前は、何で自分の名前を書いて血判押しているんだ!?」
「私も正妻戦争に出るから!」
ソルティの言葉に、俺は思わず盛大な溜息がでた。
一日の終わりとばかりに日が沈み、夜の帳がソドムの町を包み込んでいく。
「……はぁー」
俺は、一人でニードルス伯爵が借りた宿屋へと戻ってきた。
現在の宿屋には、俺とリルカしか居ない。
――それは、何故かと言うと……。
現在のリルカは俺の正妻であり、他の獣人の女性に影響力があるからという理由らしいが、それは建前だというのは長い人生経験を持つ俺には分かる。
まるで規定路線のように全てが整えられた盤上の上で、追い詰められているような感覚。
これは、明らかに正妻戦争を仕組んだ者の仕業だ。
血判を押した獣人から、言質が取られないこと。
そして……、作戦を組むために一緒の宿屋では不都合だという理由で、宿を引き払ったのだろう。
狡猾と言わざるをえない!
それでも相手には誤算がある。
エルナが、「カンダしゃん! エルナが、ニードルス伯爵や山猫族と狼族の獣人達の様子を見ておくでしゅ! 何かあったら、すぐ知らせるでしゅ!」と、自身の身に危険があるかも知れないのに、力説してきたことだ。
さすがに正妻戦争を仕組んだ相手でも、監視役が居るのは誤算だろう。
「本当に、俺の義理の妹であるエルナはよく出来た子だな」
俺は、自分に言い聞かせるように、一人呟きながら宿屋の階段を上がっていく。
しかし……、相手は、まるでこちらの動きを読んだかのように動いている。
通信技術が発達していない世界だと言うのに、俺の交友関係まで知っているのは驚嘆に値する。
さらに、山猫族と狼族の獣人から血判まで貰うことが出来るほどの信頼を勝ち得ている存在。
まるで、身内の犯行のように見せかけて開拓村エルを陥れようとしているみたいだ。
だが――、俺の長年の人生経験から言って、犯人に心当たりがない。
「いま、戻ったぞー」
俺は、自分の部屋――、リルカが寝ているであろう部屋の扉を開ける。
するとベッドの上には、寝息を立ててリルカが寝ていた。
服装が朝出たときから変わっていない事から、ずっと寝ていたのだろう。
「リルカ」
俺は、食事を取らせないといけないと思い、彼女の方に手を置いて揺する。
何度か「うーん」と、声を上げたところで。
「眠いです……。あなた、おはようございます」
「おはようじゃないから、もう日が沈んだからな」
「――ふぇ……、え!?」
リルカが、寝ぼけた眼差しのままベッドの上で上半身だけ起こしたまま木の戸を開ける。
「ほんとう……」
「大丈夫か?」
何かおかしな病気に掛かっていなければいいんだが――。
リルカは、ここ一週間ほどずっと眠そうな目をしていたし、ひさしぶりのベッドということもあり長く寝てしまっただけの可能性もあるが、正直心配だ。
「大丈夫です……」
「それならいいんだが……、治療院でもいくか? 少し熱もあるようだし……」
俺はリルカの額に手を当てながら、いつもより熱があることに心配になる。
「ううん、大丈夫です」
「そうか……」
心なしか何時もよりも元気が無いように思える。
やはりポーションか何か買ってきたほうが良いかも知れないな。
「そういえば食事を朝から摂っていないみたいだが、夕飯でも食べにいくか?」
俺の言葉に「はい」と、答えたリルカはベッドから降りると、体を一瞬ふらつかせて倒れそうになる。
身構えていたこともあり彼女の体を支えることは出来たが、やはり……どこか体の調子が悪いようにしか思えない。
リルカの体を支えながら1階の食堂に着くと、何時ものように肉中心の定食を頼む。
すぐに定食が出てきたが……。
リルカが、食事を見ると同時に口を押さえて食堂から出ていくと、廊下で彼女は座りこんでいた。
「あなた……、ごめんなさい。気持ち悪くて――」
リルカが顔を真っ青にして俺に語りかけてくる。
やはり、どこか体の調子が悪いのか?
「大丈夫だ。とりあえず疲れているのかも知れないから、今日はゆっくり寝よう」
「はい……」
リルカが、元気なく頷いてくる。
人間なら体のどこかおかしいかとかある程度は分かるんだが、獣人だと皆目見当がつかない。
明日、高額でもいいからポーションを薬師に調合してもらうとしよう。
それにしても、この調子だと正妻戦争についてリルカに言うわけには行かなくなったな……。
どうしたものか――。
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