おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第二章 赤竜討伐戦

第55話 正妻戦争(5)

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 ニードルス伯爵の兵士に案内された俺は現在、ソドムの町を散策している。
 本来なら、どのくらいの石鹸が生活魔法で作られたのかを確認しないといけないのだが……。
 
 ――エルナが、貴族に対して不敬を働いていないか気になってまったく集中できない!
 
「はぁー……」
 
 エルナは、まだまだ子供のところがあるからな。
 それに世間知らずというか、子供っぽいところもあるし、とても心配だ。
 
「神田様、どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
 
 兵士が俺の様子を見て眉を顰めながら語りかけてくる。
 そんな兵士に俺が返せる言葉は、否定をするだけで――。
 
「あの狐族の子供が心配ですか?」
「――ん、そうだな……」
「ご安心してください。先代当主様と違ってスザンナ様は、民には優しいお方ですから――」
「そうなのか……」
 
 エルナと言い争いをしている場面を見ると、そうは思えなかったんだが。
 
「はい。それよりも神田様」
「――ん?」
 
 俺は、兵士の言葉に答えながら目の前の男が道に転がっている石鹸を手に取るのを見ていた。
 
「この石鹸を作られたのは神田様とお聞きしましたが?」
「そう……だな。まあ、全部を作ったわけではないんだが……」
 
 実際、全部作ったわけだが、それが知られると復興費用とか請求されそうだ。
 ここは、全部作ったとは言わず、言葉を濁しておくのがベストだろう。
 
「そうですか……」
「まあな――」
 
 俺は兵士に連れられてソドムの町の中心部――、つまり石鹸が侵食している場所を全て視察したあと、かなりの被害が出ていることに額を押さえていた。
 
「思ったよりも酷いな――」
「そうですね……」
 
 石鹸程度と侮っていた。
 まさか石鹸で何棟も建物が倒壊しているとは完全に想像の範囲外。
 
「これは……、ニードルス伯爵の屋敷も――」
 
 倒壊している可能性があるという最悪な言葉は呑み込む。
 本当に倒壊していたら、あれだけの屋敷だ。
 全て俺が悪くないということになっても、かなりの負債を背負わされそうだ。
 
「神田の旦那!?」
「――ん? 誰だっけ?」
 
 俺の目の前には、ずいぶんと身なりのいい男が立って俺の名前を呼んできていた。
 
「あっしですよ! ベックですよ!」
「…………ベック……、ハッ! エンパスの町の奴隷商人か?」
「奴隷商人は、もう卒業しましたぜ、いまは香辛料の商人ですよ!」
「ほほう――。香辛料って高いんじゃないのか? 転売が儲かるとは思えないんだが……」
「それがですね! ソフィア嬢とリアの姉御と別れてから馬車で開拓村エルに行きましたら――」
「神田さん!」
 
 ベックとの話に夢中になっていたところで、横から女性が抱きついてきた。
 美しく透通るような白い髪に肌艶を持つ20歳くらいの女性。
 
「――えっと……、どなたですか?」
 
 突然の急展開についていけず俺は抱きついてきた女性を引き剥がしながら語りかける。
 
「ソルティさん! ローブを被ってください! ローブを!」
「――ん……分かった」
 
 ベックが慌てて女性にローブを被せ終えると大きな溜息をつき「いいですか? ソルティさんは、容姿が目立つんですから気をつけてくださいよ?」と語りかけている。
 
「――ん、分かっている」
 
 二人は、どうやら知り合いのようだが……。
 いや、待てよ? ベックは何て言っていた?
 香辛料を取り扱っているようなことを言っていたよな?
 しかも、よくよく考えれば女性は、ソルティと同じ特徴を持っていた。
 
 真っ白い雪のような髪を持つ奴で――、ソルティという名前を持っている奴を俺は一人しか知らない。
 
「まさか……、お前――、塩の女神ソルティなのか?」
「――ん。そう……。旦那様のために成長した」
「成長した?」
「そう……、貴方と交われば私を女神に戻すということになった」
「どういうことだ? 突っ込みどころが多すぎて困るんだが――」
「旦那、そういうことでソルティさんをここまで連れてきました」
「そうか……」
 
 また、余計なことをしてくれる。
 
「――ん? そういえば王女殿下に一緒に連れていかれたソフィアとリアはどうしたんだ?」
「おそらく徒歩ですから、ニードルス伯爵領のどこかの村か町に滞在しているはずですぜ?」
「……二人とも無事ってことか――」
 
 あの王女、分かれたあと色々と考えてみたら、何か腹に一物ありそうな感じであったから心配していたが取り越し苦労だったようだな。
 
 それよりもソルティを女神に戻すと言っていた奴に関して詳しく聞く必要がありそうだ。
 人の気持ちを持て遊ぶような奴は、俺がもっとも嫌いな奴だからな。
 きちんと人の気持ちが分かるように教えてやらないといけないな。
 
「それよりも……、この白い山は一体――」
 
 ベックは、俺から視線を逸らすと町の中央。
ソドムの町の中央にそびえ立つ石鹸の山を見ながら俺に問いかけてきた。
 
「まぁ、あれだ――。何と言うか……」
 
 俺は案内してきた兵士を横目でチラリと見ながら言葉を濁す。
 そもそも、俺はアイテムボックスが使えない。
 そして、そのことをベックも知っている。
 何せ、最初の奴隷との取引の際に塩を麻袋に入れて持ち運びしていたから。







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