おっさんの異世界建国記

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
54 / 190
第二章 赤竜討伐戦

第54話 正妻戦争(4)三者side

しおりを挟む
「エルナ、ニードルス伯爵に迷惑をかけるんじゃないぞ?」
「分かっているでしゅ!」
 
 カンダが建物から出ていく後ろ姿を見送ったあと、エルナが深々と溜息をついた。
そして、すぐにニードルス伯爵の方へと視線を向ける。
 
「なるほど――、全て演技だったということですか?」
 
ニードルス伯爵は、エルナの目を見て得心したようにエルナに言葉をかける。
 
「そんなことないでしゅ」
 
 問いかけられた言葉に、エルナは即答するとテーブルに用意されていた御菓子を口に運んだあと、紅茶を口に含む。
 
「――それで、先ほどの話なのですが――、その前に……」
 
 ニードルス伯爵は、建物内を警戒していた兵士やメイドを一旦、外に出すと、エルナの方へと視線を向ける。
 
「エルナの話を聞いてくれるととっていいでしゅね?」
「はい。貴女が、あの場面で私に話を振ってきたということは、何かしらの利があって――、ということでしょうから……」
「カンダしゃんよりも物分りがよくて助かるでしゅ。さすがは為政者でしゅね」
「それほどでも……、それよりも神田様は、知っていらっしゃるのですか? 狐族は普通の獣人と違って――」
「それを言っても仕方ないでしゅ。それよりも建設的な話がしたいでしゅ」
「わかりました。それで、先ほどの言動から貴女は私の恋を応援してくれると取ってもいいのでしょうか?」
 
 ニードルス伯爵の言葉にエルナは首肯する。
 
「一つ言っておくでしゅ。このままでは、お前はリルカお姉ちゃんには勝てないでしゅ」
「――どういうことですか?」
「カンダしゃんの最初の相手がお姉ちゃんだからでしゅ、その牙城を攻略するのは難しいでしゅ……」
「そ、それでは――!?」
「そうでしゅ、正攻法では勝てないでしゅ」
「正攻法では?」
「獣人のグループには何人もの妻を持つファミリアが出来るでしゅ。その時に一人の雄に複数――、下手をすると百もの雌がつくことがあるでしゅ、その時に正妻の順位は基本的に雄が決めるでしゅ――」
「それでは、私が正妻になる可能性は――、伯爵家令嬢であり当主の私が側室では……、お父様やお母様に――」
 
 落ち込んだ声で自問自答をするニードルス伯爵を、エルナは見ながらニヤリと笑う。
 
「いいことを教えてあげるでしゅ。男が、煮え切らない態度を取っている群れ――ファミリアは女同士で順位を決める仕来りがあるでしゅ」
「――!?」
 
 エルナの言葉に、ニードルス伯爵が仮面を上げてエルナを真正面に見る。
 さらにエルナは言葉を続ける。
 
「いいでしゅか? 女同士で戦って勝って最後まで勝ち残った者が、そのファミリア――、群れの雄の正妻になれるでしゅ! 獣人の雌は、それを【正妻戦争】と言うでしゅ!」
「そんな……、戦いがあるとは――」
「知らなくても無理ないでしゅ。普段から群れの正妻になった雌が、正妻戦争が起きないように他の雌を監視しているから仕方ないでしゅ」
「そうなのですか――、では私でも無理なのでは?」
「分かってないでしゅね。ニードルス伯爵は権力を持っているでしゅ。それは、獣人とは桁違いの権力でしゅ。ニードルス伯爵が正妻戦争をしようとすれば、カンダしゃんの手前、群れ外に居る者に干渉はしないでしゅ。それは、雄を信用していないということになるからでしゅ」
 
 エルナの言葉を聞いていたニードルス伯爵家当主スザンナは鉄仮面を脱ぐと、テーブルの上に仮面を置く。
 その頭には白い兎耳が生えていた。
 
「やっぱり、兎族だったでしゅね――」
「――ええ、貴女が獣人の規律について教えてくれたことに敬意を払って私の姿を見せました」
「別に敬意を払う必要はないでしゅ」
「そうですか? それで、私は何をすれば宜しいのですか?」
「簡単でしゅ、【正妻戦争】の同意は、雄が率いる群れの雌――、その過半数が承諾すれば開始されるでしゅ」
「なるほど……、その承諾を貴女が用意してくれると?」
「もう用意してあるでしゅ」
 
 エルナは、テーブルの上に紙を広げて置く。
 
「――これは……、名前と血判状ですか?」
「そうでしゅ! リルカお姉ちゃんばかりカンダしゃんに! と怒った雌達の怒りの血判状でしゅ!」
「……なるほど――。貴女達も、結構苦労為さっているのですね」
「そうでしゅ! これは下克上でしゅ!」
「――ところで、このソルティ、リア、ソフィアさんと言った名前には血判は無いようですが?」
「こいつらは別にいらないでしゅ! 居なくても過半数は承諾済みだから問題ないでしゅ! 私達がカンダしゃんを奪い合うようなことを始めると言い出した人が後で何か言われたりするでしゅ。でも――、領主なら……、そういうのに慣れているでしゅよね?」
「別に慣れてはいませんが……、皆様が、あのリルカという女性に苛立ちを募らせているというのは理解できました。もちろん私に協力してくださるのですよね?」
「もちろんでしゅ!」
 
 ニードルス伯爵の言葉に、エルナは元気よく頷く。
 ただ、その口元は歪んでいたが――。
 
「正妻戦争で勝利したら、カンダしゃんを一人一晩ということで共有してくれるだけで優勝するのを手伝うでしゅ」
「本当なのですか? 貴女達、狐族は兎族を嫌っているのではないですか?」
「嫌っているでしゅ、でもリルカお姉ちゃんは――、リルカはカンダしゃんを独占しているでしゅ! それは許せないことでしゅ!」
「……そういうことでしたら話の筋は通りますね。それでは、お互い協力しましょう!」
「分かったでしゅ!」
 
 ニードルス伯爵が差し出した手を、エルナが握り締める。
 その様子を――宿の2階から見下ろしている二つの影があった。
 
 王女殿下の詰問が終わったあと、急いでエンパスの町に戻っていたリアとソフィアの2人。
彼女らは、疲れから部屋を借りたあと、熟睡していた。
 おかげで石鹸の騒ぎを知らないリアとソフィアは、起きて1階に降りようとしたところで偶然、二人の――、エルナとニードルス伯爵の企みを聞いてしまったのであった。
 
「リア、聞いた?」
「聞いたの。これは、私達にもチャンスが向いてきたかもしれないの」
「そうね――、エンパスの町の時は王女殿下に連れて行かれて殆ど話が出来なかったけど……」
「そうなの。ソフィアと、私が出て正妻の座を勝ち取れば私達がカンダさんの妻ってことになるの」
「リア、最初に言っておくけどね。エルフの【正妻戦争】では、正妻の座は2人までOKだから! 二人で優勝するのよ!」
「わかっているの!」
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

両親が勇者と魔王だなんて知らない〜平民だからと理不尽に追放されましたが当然ざまぁします〜

コレゼン
ファンタジー
「ランス、おまえみたいな適なしの無能はこのパーティーから追放だ!」  仲間だと思っていたパーティーメンバー。  彼らはランスを仲間となどと思っていなかった。  ランスは二つの強力なスキルで、パーティーをサポートしてきた。  だがそんなランスのスキルに嫉妬したメンバーたちは洞窟で亡き者にしようとする。  追放されたランス。  奴隷だったハイエルフ少女のミミとパーティーを組み。  そして冒険者として、どんどん成りあがっていく。  その一方でランスを追放した元パーティー。  彼らはどんどん没落していった。  気づけはランス達は、元パーティーをはるかに凌駕していた。  そんな中、ある人物からランスは自身の強力なスキルが、勇者と魔王の固有のスキルであることを知らされる。 「え!? 俺の両親って勇者と魔王?」  ランスは様々な争いに次々と巻き込まれていくが――  その勇者と魔王の力とランス自身の才によって、周囲の度肝を抜く結果を引き起こしてゆくのであった。 ※新たに連載を開始しました。よければこちらもどうぞ!  魔王様は転生して追放される。今更戻ってきて欲しいといわれても、もう俺の昔の隷属たちは離してくれない。  https://www.alphapolis.co.jp/novel/980968044/481690134  (ページ下部にもリンクがあります)

処理中です...