52 / 190
第二章 赤竜討伐戦
第52話 正妻戦争(2)
しおりを挟む
ニードルス伯爵の言葉に俺は頷く。
別に立っていても問題ないのだが、相手がこちらを立てるなら断り理由もない。
中央のテーブルに近づく。
「すまないが、もう一つ椅子を用意してもらえないか?」
「……わかりました」
伯爵が頷くと同時に室内に立っていた兵士が椅子を持ってくる。
メイドが持ってくると思っていたが力仕事は兵士がやるようだな……。
「エルナ、椅子に座りなさい」
「はいでしゅ!」
俺とエルナのやり取りを見ていて好奇心かどうかは知らないが「神田様は、ずいぶんとその獣人と仲が良いのですね」と問いかけてきた。
「仲がいい?」
「はい。先日の銀髪の狐族の女性もそうですが……、本来は狐族と言うのは人間には敵愾心を抱いているのが普通なのです」
そんな話は聞いたことがなかったな。
そもそも、俺は獣人に関しては殆ど何も知らない。
異世界転移してから10年間、生きることに必死だった。
それに、リアもソフィアも俺には何も言わなかったし、そういう話題は避けているような節があった。
だから、俺は獣人に関しては知識がまったく無い。
「ふむ――」
「それに――、金髪と銀髪の狐なんてとても珍しいのですよ? 何せ魔力が使える獣人なのですから、私も領主として仕事に携わってから狐族について調べましたが……、その何と言うか――、詳しくは分かりませんでしたが金髪と銀髪の狐族は部族内でも孤立する存在らしく――」
「なるほど……」
だから、俺のところに転がりこんできたのか?
いや、そんな感じではなかった気がするが……。
普通に最初から、お腹を空かせて近寄ってきたような?
まぁ、いきなり商談の話をするのもあれだからな。
少しは世間話をして、こちらのペースにしてから商談を切り出したほうがいいだろう。
俺は、用意された椅子に座りながら、「そういえば、以前に兎族のことについてニードルス伯爵様は、何か聞いていましたが何かあるので?」と、話すことにする。
「はい! じつは、男性に需要が高いのが兎族なのです!」
「――ん? そうなのか?」
俺は、伯爵の言葉に内心で首を傾げる。
エルナが以前、「兎族は面倒くさいでしゅ!」と、言っていたことを思い出したからだ。
「貴族の間では、獣人は忌み嫌われていますが町長くらいですと兎族の女性は男性によく仕えるので、狐族の女性よりは! ずっと! 人気が高いですね!」
「うそでしゅ! 兎族の女は、男をいつも寝取っているでしゅ!」
「寝取っていません! これだから、狐族は……。神田様、狐族は妄想を口にして厄介なのです。だいたい常時発情している狐族に何か言われたくありませんし」
「兎族だって毎日発情しているでしゅ!」
俺はとっさにエルナの口を塞ぐ。
いくらなんでも失礼が過ぎる。
目の前の相手は人間で、しかも世間話で狐族と兎族の話をしているだけなのだ。
たしかに狐族のことを悪く言われるのは俺も我慢ならない。
だが、相手は貴族であり伯爵であり揉め事を起こしても仕方ないだろう。
ここは無難に話を合わせておくのが最善策だ。
とりあえず相手が兎族であるかのように口論を仕掛けるのは伯爵の不評を買ってしまう恐れがあるからやめてほしい。
エルナは、しっかりしているように見えてもまだまだ幼い。
言ったらけないことを言ってしまったことについてはあとでキチンと注意しておく必要があるだろう。
「申し訳ない。この子は俺の妻リルカの妹エルナと言うのだが――、目上の者に対する話し方が分かってないので――」
「そうなのですか? なら……仕方ありませんね。まだ幼女ですからね」
「はい、まだ10歳なもので――」
「――!? そ、そうですか……、成人まであと少しなのですね。ところで神田栄治様は、奥様がいるようですが、それは正式な書類を出されたのですか?」
「正式な書類ですか?」
「はい。神田様は、エンパスの町を救った英雄――、王宮ではそのような扱いになるようです。そのため、準男爵の位を与えられることになると思います」
「……俺が貴族の位を? 特に領地とかはないのですが……」
「まぁ、そうなのですか!」
俺の言葉に、初めて聞きました! と言った感じでニードルス伯爵は両手を叩く。
「それならエンパスの町を神田様が統治されたらいかがでしょうか?」
「エンパスの町は、他に貴族が居たのでは?」
「あんな問題を起こしておいて何の責任も取らないなんてありえません。それに魔王が出た場所ですから、他の貴族も欲しがるとは思えませんし……。それを見越して英雄として神田様を扱うことで貴族位を与えて統治させる予定だと私は思っています」
「なるほど……」
さすがは王族。
色々と考えているんだな。
それにしても――。俺が英雄とか、そんな大したことはしていないんだが……。
「それに! 領地が隣同士になるのです」
「――へ?」
「お気付きになられませんでしたか? ソドムの町を統治しているニードルス伯爵家と、今度エンパスの町を統治するかも知れない神田栄治様の領地は隣り合わせなのですよ?」
別に立っていても問題ないのだが、相手がこちらを立てるなら断り理由もない。
中央のテーブルに近づく。
「すまないが、もう一つ椅子を用意してもらえないか?」
「……わかりました」
伯爵が頷くと同時に室内に立っていた兵士が椅子を持ってくる。
メイドが持ってくると思っていたが力仕事は兵士がやるようだな……。
「エルナ、椅子に座りなさい」
「はいでしゅ!」
俺とエルナのやり取りを見ていて好奇心かどうかは知らないが「神田様は、ずいぶんとその獣人と仲が良いのですね」と問いかけてきた。
「仲がいい?」
「はい。先日の銀髪の狐族の女性もそうですが……、本来は狐族と言うのは人間には敵愾心を抱いているのが普通なのです」
そんな話は聞いたことがなかったな。
そもそも、俺は獣人に関しては殆ど何も知らない。
異世界転移してから10年間、生きることに必死だった。
それに、リアもソフィアも俺には何も言わなかったし、そういう話題は避けているような節があった。
だから、俺は獣人に関しては知識がまったく無い。
「ふむ――」
「それに――、金髪と銀髪の狐なんてとても珍しいのですよ? 何せ魔力が使える獣人なのですから、私も領主として仕事に携わってから狐族について調べましたが……、その何と言うか――、詳しくは分かりませんでしたが金髪と銀髪の狐族は部族内でも孤立する存在らしく――」
「なるほど……」
だから、俺のところに転がりこんできたのか?
いや、そんな感じではなかった気がするが……。
普通に最初から、お腹を空かせて近寄ってきたような?
まぁ、いきなり商談の話をするのもあれだからな。
少しは世間話をして、こちらのペースにしてから商談を切り出したほうがいいだろう。
俺は、用意された椅子に座りながら、「そういえば、以前に兎族のことについてニードルス伯爵様は、何か聞いていましたが何かあるので?」と、話すことにする。
「はい! じつは、男性に需要が高いのが兎族なのです!」
「――ん? そうなのか?」
俺は、伯爵の言葉に内心で首を傾げる。
エルナが以前、「兎族は面倒くさいでしゅ!」と、言っていたことを思い出したからだ。
「貴族の間では、獣人は忌み嫌われていますが町長くらいですと兎族の女性は男性によく仕えるので、狐族の女性よりは! ずっと! 人気が高いですね!」
「うそでしゅ! 兎族の女は、男をいつも寝取っているでしゅ!」
「寝取っていません! これだから、狐族は……。神田様、狐族は妄想を口にして厄介なのです。だいたい常時発情している狐族に何か言われたくありませんし」
「兎族だって毎日発情しているでしゅ!」
俺はとっさにエルナの口を塞ぐ。
いくらなんでも失礼が過ぎる。
目の前の相手は人間で、しかも世間話で狐族と兎族の話をしているだけなのだ。
たしかに狐族のことを悪く言われるのは俺も我慢ならない。
だが、相手は貴族であり伯爵であり揉め事を起こしても仕方ないだろう。
ここは無難に話を合わせておくのが最善策だ。
とりあえず相手が兎族であるかのように口論を仕掛けるのは伯爵の不評を買ってしまう恐れがあるからやめてほしい。
エルナは、しっかりしているように見えてもまだまだ幼い。
言ったらけないことを言ってしまったことについてはあとでキチンと注意しておく必要があるだろう。
「申し訳ない。この子は俺の妻リルカの妹エルナと言うのだが――、目上の者に対する話し方が分かってないので――」
「そうなのですか? なら……仕方ありませんね。まだ幼女ですからね」
「はい、まだ10歳なもので――」
「――!? そ、そうですか……、成人まであと少しなのですね。ところで神田栄治様は、奥様がいるようですが、それは正式な書類を出されたのですか?」
「正式な書類ですか?」
「はい。神田様は、エンパスの町を救った英雄――、王宮ではそのような扱いになるようです。そのため、準男爵の位を与えられることになると思います」
「……俺が貴族の位を? 特に領地とかはないのですが……」
「まぁ、そうなのですか!」
俺の言葉に、初めて聞きました! と言った感じでニードルス伯爵は両手を叩く。
「それならエンパスの町を神田様が統治されたらいかがでしょうか?」
「エンパスの町は、他に貴族が居たのでは?」
「あんな問題を起こしておいて何の責任も取らないなんてありえません。それに魔王が出た場所ですから、他の貴族も欲しがるとは思えませんし……。それを見越して英雄として神田様を扱うことで貴族位を与えて統治させる予定だと私は思っています」
「なるほど……」
さすがは王族。
色々と考えているんだな。
それにしても――。俺が英雄とか、そんな大したことはしていないんだが……。
「それに! 領地が隣同士になるのです」
「――へ?」
「お気付きになられませんでしたか? ソドムの町を統治しているニードルス伯爵家と、今度エンパスの町を統治するかも知れない神田栄治様の領地は隣り合わせなのですよ?」
31
お気に入りに追加
614
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる