おっさんの異世界建国記

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
44 / 190
第二章 赤竜討伐戦

第44話 農耕を始めよう(8)

しおりを挟む
 どうやら、兵士は部屋の中にまでは入らないようで。
 
 俺が躊躇していると部屋の中から、「神田栄治が来たのですか!?」と、言う何かに遮られたようなくぐもった声が聞こえてきた。
 どうやら、俺を待っていたのは本当のようだな。
 
「――神田栄治様、申し訳ありませんが……、まずはお一人だけで入室して頂けませんか? スザンナ様は、他人と関わるのが苦手な方でして――」
「そうなのか?」
 
 俺は、兵士の言葉に首を傾げる。
 領地運営をしていく上で、他人と関わるのは避けては通れないことだと思うのだが……。
 
「……仕方ない。リルカ、ニードルス伯爵様から許可が貰えるまで扉外で待っていってもらえるか?」
「……はい」
 
 リルカが落ち込んだ様子で肩を落とすのを見て思わず彼女を強く抱きしめる。
 
「大丈夫だ。すぐに話を纏めるから待っていてくれ」
「――はい」
 
 よく知らないが、リルカは人間の町に来てからずっと構ってほしいという雰囲気を漂わせている。
 そんな彼女を抱きしめると、微かに体が震えていることに気がつく。
 
 しばらく彼女の体の震えが収まるまで抱いていると「神田栄治様、そろそろ――」と兵士が俺に語りかけてきた。
 
「あ……、すまない。それじゃ行って来る」
 
 リルカから離れて部屋に入ると、室内の壁には数多くの本が納められている棚があり、その部屋の中央には大きめの木で作られた机が置かれていた。
 机を挟んだ向いには一人の女性? が座っていて右人差し指で何度も机を軽く叩いていた。
 室内の女性? を、見たと同時に背後で扉が閉められた音が聞こえてくる。 
 
「あの――、私はこれでも一応は伯爵家当主なのですよ? 神田栄治さんは、貴族に対して振る舞いがなっていないと報告は、かなり昔から受けていましたけど……、まさか男女の陳情を目の前で見せられるとは想像しておりませんでした」
「……それは、すまなかったな」
 
 俺は、机を挟んだ対面に座っている人間を見ながら肩を竦める。
 
「それに。そんな面を着けているんだ。相手に自分の顔を見せない時点で、俺としてはお互い様だという認識になってしまうのだが?」
 
「そうでしたね。申し訳ありません、私は容姿が醜いからと、幼少期より両親に嫌われておりましたので――」  
「……それは、すまない」
「いいえ。貴方の連れていた獣人の女性は、美しい方でしたね?」
「ああ、リルカのことだな。俺の自慢の妻だ」
「そうですか……、男性のお相手がいる女性は羨ましいですわ」
 
 ニードルス伯爵は小さな溜息と共に、俺にではなく自分自身に語りかけるように言葉を紡いでいた。
 
 ――それにしても巷で、ニードルス伯爵家の令嬢スザンナは可愛くないとか社交界において汚点だとか言われていたが、仮面をつけないと人とは、まともに話せないまで酷いとなると色々と問題が出てくるし、深く関わりにならないほうがいいだろう。
 
「――で、俺のことを探していたらしいが何かあるのか? 生憎、俺は開拓村エルの村長をしていて別の依頼を受けることは出来ないのだが?」
「はい、存じております。実は、お願いがありまして――」
「願い?」
 
 なるほど、つまり石鹸の話を兵士がしていたということは石鹸納品をお願いしたいということで間違いないだろう。
 深く関わっても面倒ごとにしかならない気がするから、ここは願いを聞いて石鹸を渡した後、対価をもらって、さっさとニードルス伯爵邸から離れたほうがいいかも知れないな。
 
「あの――、神田栄治さんは……、獣人を妻に持つということは、獣が好きということですよね?」
「――ん? 好きというか……、何と言うか……」
 
 話が見えないぞ?
 どうして獣人が好きかどうか聞いてくるんだ?
 
「お嫌いなのですか? それとも兎族以外の獣じゃないと駄目なのですか?」
「いや……、嫌いとか嫌いじゃないかという以前に、そんな偏見な目で見たことはないな。むしろリルカやほかの獣人の女性に限っては、可愛い子が多いと思ったまである」
「――本当ですか!? 今の話は本当なのですか!? 兎族でもオーケーですか?」
 
 俺の言葉の真偽を確認しようと椅子から立ち上がって近づいてきたニードルス伯爵から、少し距離を俺は取った。
 それよりも、どうして兎族がここに出てくるんだと思いながらも、エルナが「兎族は面倒で、構って上げないとしんじゃうでし!」と、言っていた言葉を思い出す。
 いやいや、あれがフラグになっていて、ニードルス伯爵が兎族で、だから仮面で頭を隠していると、そんなこととか……。
 
 ――いや、ないな。
 
 そんなフラグを回収するような主人公気質を俺が持っているわけがないからな。
 ここは、面倒そうだからスルー推奨だろ。
 
「申し訳ありません。少し興奮してしまったようです」
「い、いや――、別にいいんだが……」
 
 さっさと用件を済まそう。
 相手のペースに合わせて話をしていたら大変なことになりそうだ。
 
「それで俺を呼んだ本当の理由を聞かせてもらってもいいか?」
「はい。実は――、ソドムの町は遊楽町とも言われておりまして男女の秘め事が多い町なのです。そのため、身を清潔に保つための意味も含めて貴方が無償で提供して頂きました石鹸を大量にほしいのです」
「なるほど……」
 
 俺は顎に手を当てる。
 つまり歓楽街というか遊楽町のために石鹸が欲しいから俺を呼んだということか?
 
 
 
 目の前で、俺の答えを待っている伯爵へと視線を向けながら、どうしたものかと考え込む。
 正直、石鹸程度ならいくらでも用意できるから問題ないのだが、軽い対応で受け答えをすると、後々で面倒になるのは何となく分かる。
 開拓村エルに来てからと言うもの、面倒事に毎回のように巻き込まれていることで、さすがに俺も成長はするのだ。
 
「かなり難しいな……」
 
 とりあえず出し惜しみをしておくのがベストだろう。
 リムルも伯爵家当主も、どいつもこいつも石鹸と何度も言っているからな。
 かなり需要があると見て間違いない。
 つまり、開拓村エルの主産業となりうるわけだ。
 塩だけで村の資金を捻出するよりずっといいだろう。
 
 そもそも香辛料というのは、地球でも古来より肉の保存に使われてきた。
 場合によっては国が流通を制限している時代もあったくらいで。
 
 そして俺はエルダ王国の商業に関して殆どしらない。
 冒険者として暮らしてきた弊害とも言える。
 だから香辛料の取り扱いどころが商いについて素人も良いところだ。
 
 ――そこに降って沸いた石鹸という需要。
 この波に乗らない理由はないだろう。
 
「そんなに特殊な物なのですか?」
「特殊といえば……、特殊だな――、それに俺がソドムの町で作った石鹸は試作品だったからな。完成品は港町カルーダで冒険者ギルドに定期的に卸していたはずだが――」
「それは王家が買い占めてしまっていて……」
「王家が?」
 
 内心、俺は驚いた。
 まさか王家が、俺が作った石鹸を買い占めているとは思わなかった。
 月に100個ほど、冒険者ギルドに納品してはずだったのだが――。
 
 どうりでリアやソフィアが俺に石鹸を強請ってくると思った。
 それにしても……。
 年間1200個――、10年で12000個の石鹸を作って納品していたはずだが全部買い占めているとは驚きだ。
 エルダ王国が石鹸を何に使っているかは分からないが、潜在的需要は、洗剤なだけにかなりありそうだな。
 
「それで――、神田栄治様は石鹸を冒険者ギルドに卸していらっしゃるということでしたが、いくらで卸されていたのですか?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

処理中です...