おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第一章 辺境の村 開拓編

第34話 戦場の采配(後編2)

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「何?」
「貴様は、どこまで鈍感なのだ? よく聞いて見るがよい。そして絶望するがよい! この我を倒そうと連携しようと考えていたようだが、それは叶わぬ考えだということをな!」
「ふざけるな! リアもソフィアもエルナもリルカも戦闘中に、私情を挟むほど……」
「貴様は何も分かっておらんな!」
 
 俺は、淫魔王に支配されたリムルと話ながらも4人に近づく。
 すると声が聞こえてきた。
 
「ちょっと! どういうことですか! 旦那様って! カンダさんが旦那様って、どういうことですか! 事情と説明を求めます!」
「分かっていないなら教えてあげます! これを見てください!」
 
 リルカが、リアやソフィアに町に入るときに作った木札を見せていた。
 心なしかリルカの表情が満足げだ。
 
「――なっ!? 本当なの! リルカが妻で、そっちのエルナっていう、ちびっ子が子供って……」
 
 リアが杖を落として膝から地面の上に崩れ落ちるのが見えた。
 さらには、ソフィアが「信じられません! きっと、カンダさんは騙されているのです!間違いありません!」とリルカの襟元を掴んだまま離さない。
 
 一体、何が起きているのか俺にはまったく理解が出来なかった。
 
「貴様! リルカやソフィアやエルナやリアに何をした!?」
 
 ――さすが淫魔王!
 
 恐らくだが状態異常の混乱系の魔法などを使った可能性が高い。
 
 そうでなければ普段は冷静なリアがあんなにショックを受けた格好で地面の上に座りこんで「夢よ、これは全部夢なの。カンダさんは私達のなのだから」と、意味不明なことを言うわけがない。
 
 さらには、いつも笑顔で俺と接していて怒るっていう感情をどこかに忘れてきたかのように穏やかなソフィアが「はあ? カンダさんは私達のなの! この泥棒狐! 決闘よ! 決闘!」と、リルカに喧嘩を売るわけがない。
 
「いや……、我は何もして……」
「ふざけるな! さっきまで自分のことを魔王だと言っていただろうが!」
 
 俺は日本刀を構えながら言い訳をしようとしたリムルの体を支配した淫魔王に言葉を叩きつける。
 さすがに自分が行ってきた所業から目を背けるとは最低の行いをする奴だ!
 まったく信用できない!
 
「いいわ! 猿の雌共掛かってきなさいよ!」
 
 リルカが、自身の襟元を掴んでいたソフィアの手を跳ね除けると戦闘の構えを取っていた。
 それもリアやソフィアに向けてだ。
 しかも「10年も一緒に居て何もしてこなかったなんて、メスとして失格でしゅ! もっとオスには積極的にアプローチしないと駄目でしゅ!」と、エルナまでがおかしい。
 どう考えても普段、俺に甘えてくる二人とは違う!
 
「くっ!? これでは戦力が……、やはり腐っても魔王! こちらの戦力を精神魔法か何かで切り崩してくるとは……」
「いや、だから我は何もしてな……」
「言い訳はいいんだよ!」
 
 早く何とかしないと仲間同士で争いになってしまう。
 そうなれば、怪我人どころか死人が出る可能性だってある。
 
「この技だけは使いたくなかったんだが……」
 
 俺は、日本刀に全魔力を纏わせていく。
 一つは、劣化防止の生活魔法。
 そして、その上から掛ける魔法は腐食の生活魔法。
 
「な、なんだ!? そ、それは!?」
 
 驚きの声が聞こえてくるが、俺はそれを無視。
 アイアンゴーレムとの距離を詰めると、2本の足を一刀両断した。
 両断されたアイアンゴーレムの切断面は、赤茶けており腐食しているのが一目で理解できる。
 そう、腐食という本来、この世界には無い概念の生活魔法。
 それが、俺の劣化防止の生活魔法と結びつくことで、圧倒的な威力を誇る斬撃を作り出すのだ。
 
 アイアンゴーレムが倒れたところで淫魔王がいると思われる場所を、牙突で貫く。
 固定化の魔法が掛かっていようが、お構いなしに俺の日本刀は、アイアンゴーレムの外殻を貫き、淫魔王リムルの絶叫と共にアイアンゴーレムは動きを止めた。
 
 俺は日本刀をアイアンゴーレムの外殻から抜く。
 すると、紫色の結晶体のようなモノがこびり付いているのが見えた。
 すぐにアイアンゴーレムの外殻を斬り裂く。
 そして操縦空間に居たリムルを引きずり出す。
 彼女を背負うと大きな胸の感触が背中に感じられたが、今は離れることが重要。
 アイアンゴーレムから少し離れたところで、「自爆します!」と、いうアナウンスのようなモノが聞こえてくると同時にアイアンゴーレムは、何件もの建物を巻き込んで自爆した。
 
「自爆機能が付いているかもしれないと思っていたが……」
 
 そう、ロボットお馴染みの、機密事項を守るための自爆。
 それが、もしかしてあるかも知れないと思い淫魔王に支配されたリムルをアイアンゴーレムから連れ出して離れたのだ。
 
 そして予感は的中。
 全ては丸く収まったと言ったところか……。
 
「ふう……、これで淫魔王の精神魔法も解けたはずだな……」
 
 俺は、4人の元へと戻る。
 すると、4人が髪の毛を掴んで殴り合いをしていた。
 おかしいな……。
 まだ、淫魔王の呪いは解けていないようだ。
 これは、背負っているリムルを起こして直接、精神魔法を解かせる必要がありそうだ。
 
「カンダの旦那!」
 
 俺が、4人が掛かっている精神魔法を解除する方法を考えていると、ベックがエルダ王国の兵士達を連れて待ちの中に入ってきた。
 
「ベックかー―」
「はい。どうやら、エルダ王国の兵士は、王宮からの勅命を受けた部隊でした。カンダの旦那が背負っているリムルは、冒険者への支払いの一部を着服。さらには、多くの迷宮産の異物を他国へと横流ししていたそうです。すでに、港町カルーダの冒険者ギルドマスターは、別働隊が捕まえに行っているそうです」
「……そうか。エルダ王国の王族も馬鹿ではなかったというわけだな……」
 
 俺は兵士達にリムルを引き渡す。
 
「これで一件落着と言ったところか……」
 
 俺は一瞬、ふらつく。
 どうやら、ほぼ魔力を使い切ったようだ。
 以前も同じように魔力を使いきったことがあったが、そのときは3日間、ずっと頭痛に苛まれた。
 今回も同じことが起きそうだ。
 
 あまりにも頭痛が酷い。
 倒れかけたところで「エイジさん、大丈夫ですか?」とリルカが俺を支えてくれた。
 
「俺は、大丈夫だ……とも、言えないか……」
 
 魔力の使いすぎで、意識を繋ぎとめておくのも精一杯だ。
 
「4人ともリムルに精神魔法で操られていたんだろ? 大丈夫だったか?」
 
 とりあえず、もう大丈夫そうだが……、一応……確認しておくとしよう。
 
「大丈夫なの! 少し、その雌がむかついたから攻撃魔法で黒こげにしてやろうと思っただけなの!」
「頭を射抜いてやろうと思いましたけど、カンダさんの前ですから……」
「10年も居て何もしないメスは雌じゃないでしゅ!」
「エイジさんの本妻は私ですから!」
 
 エイジさんの本妻か……。
 そんな声が落ちかけた意識で、聞こえてくる。
 普段の4人らしからぬ声が聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。
 たぶん、そのはずだ。
 もうリムルは、兵士に引き渡したのだから。
 それにしても、体一つ動かすことができない。
 周囲の話を聞いているだけで精一杯だ。

「本妻って!?」


 そんな声が聞こえてくる。
 だれが言ったのか分からない。
 それにしても、俺の近くでギャーギャー言うのは止してほしい。
 静かに寝かせてくれ。
 そこまで考えたところで魔力の使いすぎにより俺は意識を失った。
 
 
 
 
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