おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第一章 辺境の村 開拓編

第29話 おっさん刺される!

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 リムルがショックを受けているようだが、俺としてはそれどころではない。
 ここ数日間の膝の痛みが一気に襲ってきているのだから。
 それと同時に、現状を冷静に判断している自分もいる。
 
「リムル! お前、その淫魔王の結晶が危険なモノだと知っているはずだろ! 俺達冒険者が迷宮から取ってきた危険な結晶を、王宮に提出して破壊するのも冒険者ギルドの役目だったはずだろ! 何でお前が持っているんだ!」
 
 俺は痛みに耐えながらもリムルへ問い掛ける。
 すると彼女は、先ほどまでの申し訳なさそうな表情から一変させ俺を睨みつけてきた。
 
「決まっているでしょう? そんなの私の……いいえ、すべての無能な冒険者の悲願! 高潔な冒険者ギルドを作るためよ! そのために必要なのよ!」
「どういうことだ!?」
「うるさいわね!」
 
 痛みのあまりベッドの上で臥せっている俺の頭を、リムルは素足で踏んでくる。
 
「いいこと? 私は全ての冒険者を管理して、この国を変えるの! それが私に与えられた使命なの! 天命なの! そのためには、貴方の力が必要なの!」
「国を変える? そのために冒険者と国の規約を破るっていうのか?」
「分かってないわね。私はみんなの代行者なの! 自分勝手に我侭に振舞う冒険者を崇高な考えを持った私が導いて使ってあげるのよ? 使い道のないゴミを使えるゴミにしてあげるのよ? それの何が不服なの? まったく……グローブも私を裏切って逃げ出すわ……」
「なるほど……な」
 
 ここまで酷いやつだとは思ってはいなかったが、やっぱり酷いやつだったか!
 まったく少しでも話を聞こうとした俺が馬鹿だった。
 
「――なら、リアもソフィアも無事ってことだな?」
「あら? それは残念」
「ま、まさか……」
 
 最悪な予感が脳裏に駆け巡る。
 リアもソフィアも、リムルとは仲が悪い。
 もし、リムルの邪魔をしていたら……。
 
「二人とも性奴隷として他国に売り飛ばしてあげたわ! アーハハハハッ」
「――くっ、そっ……」
「その顔よ! その顔が見たかったのよ! まぁ、本来なら私の人形にして石鹸だけを作らせても良かったのだけど……」
「なるほど……、つまり俺に事情を全て話したのは……」
「ええ、もう十分楽しんだから。淫魔王の結晶の力を最大まで引き上げて私の僕にしてあげるわ! 意識だけは残してあげるから感謝するようにね!」
 
 ベッドの上で蹲っている俺の髪を掴むとリムルは俺に口付けしようと顔を近づけてくる。
 聞いたことがある。
 異性問わず、口付けした対象を隷属させる力が淫魔王の結晶にはあると――。
 そのために王国からは危険物ということで指定されていて、冒険者ギルドに持ち込みがあった場合は、すぐに王宮へと届けることになっている。
 俺とリムルの唇が触れるか触れないかというところで――。
 
 ――突然、201号室に繋がっている壁が吹き飛んだ!
 
 俺とリムルは、壁が吹き飛んだ衝撃波でそれぞれベッドの上から転げ落ちた。
 もちろん、膝に矢を受けた痛みは継続中だ。
 
「――一体、何者!?」
 
 俺も同じことを思ってはいなかった。
 こんなことをする人間というか獣人には一人しか心当たりがない。
 
 201号室に通じる壁が粉砕され埃により室内の視界が奪われていたが、少しずつ煙が晴れていく。
 そして、壁のところに立っていたのは3つの影。
 一人は、1階に居たメイド姿の女性。
 一人はエルナ。
 最後の一人は、体中から金色のオーラを迸らせて、片手をリムルに向けているリルカであった。
 
「私の旦那様を寝取ろうとするメスはお前か!!」
「へ? 旦那様?」
 
 リルカの怒りの咆哮が部屋の中を満たす。
 それと同時に呆けていたリムルの顔面に、リルカのコブシが突き刺さった。
 
 
 
 室内に、広がる肉と肉がぶつかり合う音。
 耳に聞こえてくるのは、エルナの「やってやったでしゅ!」と言う無邪気な声と、「修羅場? 修羅場?」という、どこか浮ついたメイドさんの声であった。
 
 そんな中、リルカに顔面パンチを受けたリムルは数歩下がって呆然としたまま、自分の顔に手を当てていた。
 俺からは、リムルの裸の背中しか見ることは出来ない。
 
 ――ただ、一つ分かることと言えば、矢を受けた膝が痛いということだ。
 
 俺が見ていると、リムルが体を震わせはじめて、「お爺ちゃんにも殴られたことが無いのにいいい」と叫んでいた。
 
 俺は彼女の言葉を聞いて、思わず「なるほど……」と納得してしまっていた。
 甘やかした結果、こんな最低な人間が誕生してしまったのだろう。
 
「言いたい事は――それだけか?」
 
 俺から見えるリルカの表情は、いつもと違って、とっても怒っていらっしゃる。
 言動の端々からも、コブシを鳴らしている姿からも、銀髪の尻尾を逆立てている様子からも、よく分かる。
 
 ――リルカさんは、非常に怒っていらっしゃる。
 
「それだけ? それだけですって!? たかが獣風情が、人間に向かってえらそうに!」
 
 リムルも顔面を殴られたからなのか怒りを露にしてリルカに対して叫んでいた。
 だが、それを無視するかのようにリルカは俺の方へと視線を向けてくるとニコリと微笑みながら「エイジさん? あとで、お話しましょうね」と語りかけてきた。
 口元は! 表情は笑っているのに! 目が笑ってない!
 冷や汗が止まらない。
 俺は、救いの手を求めて的確なアドバイスをいつもくれるエルナ先生のほうを見る。
 
「カンダしゃん。がんばってでしゅ!」
「……お、おう……」
 
 それしか言い返せない。
 とにかく、この場を何とかしないといけない。
 別に浮気をしていた訳ではないのだ!
 たまたま、話を聞く場所が、ここだけしかなくて! たまたまリムルが俺を襲ってきただけに過ぎない!
 
「リルカ! よく聞いてくれ! 俺は別に浮気をしていたわけでは――「少し静かにしていてください」――あ、はい……」
 
 事情を説明しようとしたらリルカに一蹴された。
 
「私を! 無視するなああああああ」
 
 いつの間に所持していたのか、刃渡り20センチほどの短剣の柄を両手で握り締めたリムルが、刃をリルカに向けて突進していた。
 俺と話していたリルカはまだ気がついていない!
 このままでは、リルカの身に危険が!
 
 そこまで考えたところで、膝の痛みも吹き飛び無意識のうちに俺は立ち上がりリルカとリムルの間に割って入っていた。
 それと同時に、腹部から痛みが走り、下半身に力が入らなくなる。
 膝が崩れ、そのまま俺は絨毯の上に倒れた。
 
「――え? エイジ……さん……?」
「そ、そんな……」
 
 二人して呆然と俺を見下ろしている。
 俺は腹部に刺さっている短剣を引き抜きながら回復魔法を発動させるが……。
 分かってしまう。
 これは致命的な傷だと……。
 
「い、嫌っ――」
 
 リルカが体から湧き上がっていた金色の光りが消えうせ俺の腹部を両手で押さえてくる。
 だが、それは意味を成さない。
 何故なら、表面を圧迫して止血しようとしても中の臓器が傷ついていれば、そこからの出血は止まることがないのだから。
 少しずつ意識が朦朧としてきたところで、「私は、私は悪くない!」と言って、顔を真っ青にさせたリムルが自分の服を手に取ると部屋から逃げ出した。
 
「エルナ!」
 
 俺を看病していたリルカがエルナの名前を呼ぶ。
 すると、リムルを追いかけにエルナも部屋から出ていった。
 
「リルカ……、リムルが何をしてくるか分からない……、エルナを一人で向かわせるのは危険だ……」
「で、でも!?」
 
 俺の言葉にリルカが悲痛な表情を向けてくる。
 
「よく聞け、自分の体だから分かる。もう俺は長くない……リムルを止めるんだ……。アイツは、国を変えると言っていた。淫魔王の結晶は、あらゆる生き物を傀儡にする力を持っている。アイツは国家転覆を考えている可能性すらある……だから――」





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