おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第一章 辺境の村 開拓編

第19話 尻尾ルール

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 リルカを共だって開拓村とは名ばかりの場所へと戻ると、俺とリルカの姿を見た獣人達が複雑そうな表情をむけてきた。
 
「何かあったのか?」
 
 俺はリルカに語りかける。
 直接、獣人に話しをするよりも、リルカを伴侶とした以上、リルカは獣人の扱いに長けているのだからリルカに任せた方がいいと言う判断だ。
 
「彼女達には一応、カンダさんの一番の番は私だと説明してあります。もし、私が居なくなれば――」
「なるほど、自分が一番目の伴侶になれるかもしれないと……って!? ちょっとまって! 俺は、そんな節操なしの男じゃないぞ? 伴侶にするなら女性は一人と決めているからな!」
「たぶん、それは難しいと思います」
「むずかしい?」
「はい――、だってカンダさんは群れのリーダーですから……」
「群れのリーダーだと関係あるのか?」
「あります。群れに一匹しか雄がいない場合、全ての雌を相手にするのは雄のお仕事ですから」
「……なん……だと!? それって……」
「はい、第一婦人が私で第二婦人がエルナで――」
「エルナはアウトだからな。10歳以下の幼女が第二婦人とかダメだからな」
「……でも、それが獣人の群れとしてはあるべき姿なのです」
「ここは人間の村だから! それに、獣人だから必ずしもリーダーとそういう仲にならないといけないということもないだろう?」
「……いいえ、そういう仲になるのが獣です」
「……そのへんは、おいおい話をするとしよう」
「……はい……」
 
 リルカは俺の言葉にしぶしぶと言った表情で引き下がってくれた。
 そして、リルカを見ていた獣人達は、全員が一斉に「ええー……」という声を上げていたが、俺は男女関係の深い中など人生40年の間に一度も経験したことがない。
 そんな状態で、ハーレムなんて作りたくない。
 それに日本人的、道徳観点から何人も妻を持つなんて良くないと思っている。
 
「……それにしても――」
「カンダさん、どうかしましたか?」
「いや、風呂に入るとずいぶんと感じが違うんだなと……」
「そうですか?」
 
 俺はリルカの言葉に頷きながら「ほら、毛並というか尻尾がふわふわしてきて触りたくなるというか……原始的に触りたくなるような欲求が……襲ってくるだろう?」と答える。
 
 風呂に入る前は、薄汚れていて気がつかなかった。
 お風呂後の獣人は、なんというか尻尾が、もふもふしていて触りたくなる衝動に駆られてくる。
 それは、生物の根源に訴えかけてくるものだ。
 
「カンダさん?」
「――ん? どうした?」
 
 リルカの方へ視線を向けると彼女は、少し怒っているように見える。
 何か、おかしなことを言ったか?
 いや、獣人だと人間の常識が通じない可能性がある。
 ここは、男らしく紳士的に対応するべきだろう。
 
「まだ、第一婦人が子を産んでいないのに、別の雌の尻尾を褒めるのは良くないんですよ?」
「そうなのか?」
 
 いや、さっき俺はリルカ以外はいらないと宣言したはずなのだが……。
 それを込みでも他の女性獣人の尻尾の毛並を褒めるのは良くないらしい。
 
「ほら! 私の尻尾でしたらいくらでも触っていいですから!」
 
 何故か知らないがリルカが銀色のふさふさな狐の尻尾を器用に俺の手のひらの上に載せてきた。
 周囲の獣人女性からは「キャー」という黄色い声が聞こえてくる。
 そしてリルカと言えば頬だけではなく顔全体を真っ赤にして潤んだ瞳で俺を見上げてきている。
 
「リルカ、尻尾には何か意味があるのか?」
「はい。雄に尻尾を握らせるという行為は繁殖行為をしましょうという意味なのです」
 
 リルカの説明に俺は、「……あ、――う、うん……」としか返すことができない。 
 それにしても獣人というのは色々と問題を抱えているというか人間とは、かなり仕来りが違って判断がつかないな。
 ここは、エルナに干し肉を与えて獣人にたいするブレーンになってもらうのが先決かもしれない。
 
「それで寝床についてはどうする?」
「今日は、壊れ掛けた家を使ってもらいましょう。明日には同じ家を建てればいいわけですし……」
 
 なるほど……。
 本当はログハウスに10人くらいなら泊めるくらい問題なかったのだが、獣人には獣人の掟やルールがあるだろう。
 ここはリルカに任せるほうがいい。
 
「わかった。獣人達の扱いについてはリルカに一任するから任せてもいいか?」
「はい! 私がカンダさんの一番目の番としてしっかりと教えます!」
 
 リルカは、俺の瞳を見ながら答えてきた。
 
 
 
 カルーダの港に存在する冒険者ギルド。
 そこは、他大陸から出稼ぎに来る冒険者達が、最初に立ち寄る冒険者ギルドの一つ。
 そんな冒険者ギルドの一室――ギルドマスターの執務室内で一人の老人が書類に目を通しながら、木印を朱肉につけては書類に押していた。
 
「なかなか終わらんな……、カンダに依頼を出しておいたはずだがあいつは何をしておるんじゃ……」
 
 ワシは、書類作業で凝った肩を回しながら一人呟きながら考え耽る。
 男の名前は、神田栄治。
 ワシが知る限り、古代言語文字を名前として使って居る唯一の冒険者。
 出会いは孫が不正をしていたと訴えてきた時だった。
 国が運営する冒険者ギルドと言うのは貴族が不正をしても国王から処罰される。
 その内容は、軽くて家の断絶。
 普通は死刑に値する。
 そして、孫が行っていた不正は、少ないと言っても冒険者への支払いの一部を懐に入れていた。
 それは国のお金を横領していたと言っていい。
 
 さらに追い討ちを掛けたのは、冒険者の識字率が低いという事実。
 それにより中抜きされていたということが判明されるまで時間が掛かってしまう。
 
 そしてカンダという男が提出してきた統計図というものを使われ説明されたことで、かなり前から横領を行っていたことは、一目瞭然であった。
 
 
 
 もともと孫のリムルは、冒険者を嫌っていた。
 その理由は両親が殺された事に起因する。
 
 冒険者ギルドは、国が運営する。
 そのため、ギルド間の情報伝達は傭兵や冒険者だけではやらせない。
 何故なら情報は何よりも大事だと言うことを元、海賊であった王族は何より理解しているからだ。
 だからこそ冒険者ギルドの正職員を筆頭に、数人の冒険者と共に他所の町と情報のやり取りをしている。
 
 そして、その情報を他の町へ運んでいる最中の冒険者ギルド小隊を、対立していた獣人が襲ったのだ。
 
「ふう……」
 
 ワシは棚から陶器を取り出すと木製のコップに琥珀色の液体を注ぐ。
 これは、リースノット王国で昔から作られている芋から作られた酒らしい。
 酔いやすく、それでいて独特な味わいから飲む者を選ぶがワシは、若い頃から好んで飲んでいる。
 椅子に座ると目の前の書類を見ながら考えてしまう。
 最近、年を重ねたこともあり物思いに耽ることが多くなった。
 
「あの男……カンダには悪いことをしてしまったな」
 
 小隊を獣人に襲われた孫のリムルは、通りがかった冒険者達に助けられて奇跡的に命を取り止めた。
 殺された息子が、孫のリムルをワインが半分ほど入った樽の中に隠していたこともあり、孫の存在に獣人は気がつかなかったのだ。
 ただ息子の妻が死んだあと男一人で育てられた父親を獣人に殺されたリムルは、再会したときに口がきけないほど憔悴していた。
 
 それからだ。
 実の父親を助けてくれなかった冒険者を恨みだしたのは――。
 
 いくらでも諭す場面はあっただろう。
 だが、ワシは知っている。
 孫は冒険者を憎んでいることが生きている支えになっていることを。
 そう言った歪んだ人生観を持つ者は少なくいる。
 だからこそ、孫を冒険者ギルド職員にしたくはなかった。
 
「ままならないものだな……」
 
 冒険者ギルドを内側から変えたいと言う孫の言葉を、ワシは憎しみをぶつけるための言葉だと知っていた。
 だから反対した。
 だが――ある日、孫はワシの反対を押し切り家を出た。
 それから数年後、ワシがギルドマスターをしている冒険者ギルドに新人として配属されたのが、孫のリムルであった。
 
 
 
 その孫の命が失われてしまう。
 それが正論を語っている男の手によって――。
 本来ならば、王国法を守るならカンダという男が発言した内容が適切であった。
 だが――。
 息子を無くして孫まで極刑になれば……と、考えたところでワシは、不正をしてでも孫を守りたいと思ってしまっていた。
 
 カンダという男に賛同した冒険者達には若いときから溜めていた資産をほぼ切り崩し賄賂を贈った。
 そして、孫には金輪際するなと伝えた。
 孫も自分の立場が理解できているのか素直に頷いたが、その様子からは納得はしていないようであった。
 結局、訴える者が居なくなったことで、カンダという男を孤立させることは出来た。
 できたが……。
 
 果たして、それが本当にいいことなのか判断はつかない。
 否、悪いことだというのは分かっている。
 だが……それでも――。
 
「年を取ると過去のことについ感傷的になってしまうな」
 
 ワシは、カップに注いである芋で作られた酒を一飲みすると溜息をつく。
 もう、自分の年齢がギルドマスターという職務をする上で無理になってきているのは自覚がある。
 そろそろ新しいギルドマスターを擁立するべきだろう。
 テーブルの上の資料を一枚手に取る。
 
「神田栄治か……」
 
 資料に書かれている内容に目を通す。
 冒険者ランクは非公式ながらもSランク。
 生活魔法を無尽蔵に扱うことが出来る魔力を持ち、大神官顔負けの回復魔法を扱う。
 さらには神剣を扱う冒険者と書かれている。
 現在は膝に矢を受けてしまい静養中ということだが……。
 
「パーティメンバーは、魔法師リアと弓士ソフィアか……。二人ともDランクになっておるな」
 
 ワシは髭を触りながら資料を読んでいく。
 
「冒険者パーティの力は、Bランクか。間違いなくカンダ以外の二人が足を引っ張っておるな……、ただ一人では活動をしていないから実績に含まれていないのが……」
 
 膝に矢を受けて町で療養しているのなら、冒険者ギルドマスターに推薦しておくのもいいのかもしれない。
 孫を助けるためとは言え、神田栄治には迷惑を掛けてしまったから、少しでも罪滅ぼしになれば……。
 
「誰かおるか?」
 
 ワシの言葉に、すぐに反応して部屋に入ってきたのはワシが冒険者ギルドマスターになってから左腕として活動してくれているエルドという中年の男。
 
「どうかしたのか?」
「これを見てくれ」
 
 ワシから受け取った資料を見るとエルドが眉根を潜める。
 
「神田栄治か……雑務の仕事をよくこなしていた冒険者だったな……、こいつがどうかしたのか?」
「そいつを王国にギルドマスターとして登録するように申請したい。そろそろ仕事がきつくなってきてな……」
「そうか……、わかった。俺から伝えておこう」
 
 ワシの言葉にエルドは頷くと部屋から出ていき――すぐに戻ってきた。
 
「ハロルド! たいへんだぞ!」
「どうかしたのか?」
「お前さんの孫リムルの御嬢ちゃんが、神田栄治を開拓村エルに向かわせたぞ!」
「なん……じゃと!?」
 
 開拓村エルは辺境も辺境で獣人が出没する危険エリア。
 そんなところに将来冒険者ギルドマスターになる逸材を送るなど……。
 
「どうする?」
「どうするもなにも……、王国上層部にはカンダが作る石鹸を愛用する者もおるしすぐに接触を図ってくれ」
 
 ワシの言葉に、エルドは部屋から出ていく。
 困ったことになった。
 これで神田栄治が、死ぬことになれば彼が作っている石鹸という王族が愛用するモノの供給も途絶えてしまうことになる。
 そうなれば……資金面で優遇されていたカルーダの冒険者ギルドも窮地に立たされてしまう。
 
 
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