14 / 190
第一章 辺境の村 開拓編
第14話 ソフィアside
しおりを挟むエルリダ大陸は、世界の中心と言われるローレンシア大陸から船で2ヶ月の距離に存在する。
元々は、人とは違う種族である亜人だけが住む場所であった。
そんな場所に踏み込んだのは、海洋国家ルグニカの王族。
彼らはローレンシア大陸で国を私物化し、その結果追い立てられて各地を転々とした結果、その子孫はエルリダ大陸に辿り着き国を建てた――と、いうのが現在は有力とされている。
海洋国家ルグニカは、現在でも存在してはいるが、王族が追放されたのは千年前。
それほど昔の情報なんて、とても曖昧で子孫も何十世代にも渡っていて、現在のエルリダ大陸の王族が海洋国家ルグニカの元、王族だと示したところで古すぎて役に立たないし判別もつかないのだ。
ただ、国を建てたことに関しては未開の新たなる領土を作ったと評価され、エルリダ大陸の国々は、一応はローレンシア大陸の国々からは国家として認められている。
「――で、実際のところローレンシア大陸の国家が、エルリダ大陸の小国を国家として認めた大きな理由は……」
「魔物の素材とダンジョンから産出される魔石を効率よく手に入れるためよね?」
「正解なの!」
「もう、耳にタコが出来るくらいリアに聞かされたからね――」
私は溜息をつきながら、シードルを水で割った飲み物を口にする。
爽やかな酸味と、水で薄められた喉ごしが絶妙で口の中を爽やかに潤してくれる。
「ソフィアは、シードルが好きだよね?」
「リアだってリンゴの果実酒は好きでしょう?」
「――好きというか、ここにはそれしか置いてないの……」
リアは、私の言葉に肩を落としながら水で薄めたシードルを口にしている。
「……でも、ここまで厳しいとは思わなかったの」
「そうよね……」
私とリアは二人揃って冒険者ギルドに併設されている酒場で同時に溜息をつく。
リアは、魔法師だけど駆け出しもいい所。
攻撃魔法だって殆ど使えないし詠唱も長い。
そして私は、武器は弓だけど遠距離という事と消耗品である矢を使っているから見入りがよくないし、魔物に近づかれたら、それだけで危険だったりする。
事実、二人とも生傷が絶えない。
「はぁ……、ねえ? ソフィア――」
「何? リア」
田舎では天才と呼ばれていたリアと私。
意気揚々と都会のカルーダに来てから3ヶ月経つけど思い知ったのは自分には才能がないという事。
「今週の宿代どうしようなの……」
「うっ!?」
私とリアは、一人部屋の宿屋を二人で借りている。
それは、冒険者として稼げないから苦肉の策で、本来はあまり推奨とされていないというか……よくはない。
ただ、宿屋のご主人というか女将さんが田舎から出てきた私達が女性で可哀想だからと、優しさから貸してくれている。
「――リア、今は幾らお金があるの?」
「……んっと――、銀貨3枚と銅貨6枚と銭貨3枚……ソフィアは?」
「私は、銀貨2枚と銅貨7枚と銭貨1枚……」
「私とソフィアあわせて銀貨6枚と銅貨3枚に銭貨4枚……」
リアが絶望的な数字を語ってくる。
宿屋は一日銀貨4枚。
7日で金貨2枚と銀貨8枚が必要。
どう考えても金貨2枚と銀貨2枚くらい足りない。
私はリアの言葉に「どうしよう……、村まで一週間くらいかかるし借りられる人いないよ?」と、頭を抱える。
そんな私にリアがクエストボードではなく受付から貰ってきたと思われる書類をテーブルに置いて見せてくる。
「こうなったら手段は選べないの。雑務の仕事をするしかないの」
リアの持ってきた書類に目を落とす。
そこには城壁を改築する工事現場――つまり町中での雑務の仕事がかかれていた。
日当は一人金貨1枚。
つまり2人なら……。
銀貨2枚足りないけど、女将さんにごめんなさいして何とか宿を追い出されないように頼める。
「リア、こうなったら仕方ないわ! 今は、冒険者としての地位と名誉を守るために私はこの雑務を受けるわ!」
「さすがはソフィア、がんばって!」
「――え? どういうこと?」
「私は、公衆浴場での雑務があるから……」
「それって、水を継ぎ足す仕事?」
「うん……」
魔法で制御したまま水を出すのは、とても精神的に磨り減る作業だとリアは、冒険者に成り立てのときに、雑務の仕事をしたあと言っていた。その仕事を引き受けるということは彼女も、それなりに危機感を分かっている。
まぁ私も、工事現場の雑務だから肉体労働的にかなりきついと思う。
「お互い! 3ヶ月も冒険者をしてきたんだから大丈夫よ!」
「そうなの! がんばるの!」
私とリアは、水で薄めたシードルの一気に飲んで、お互い別々の雑務に向かった。
そして、私は違う意味で死んだ。
「ううっ……レンガって何であんなに重いのよ。舐めていたわ。どうりで給料がいいと思ったわ。鍛え抜かれた冒険者の私でも数時間仕事をしただけで……」
私は、生まれたての動物のように足を震わせながら町中を歩く。
周りの人が、「そろそろ田舎に帰ればいいのに――」と言ってくるのを耳にしながら冒険者ギルドに向かう。
そして、冒険者ギルドに到着すると、いつも定位置に座っているリアの姿が見えたけど……真っ白に燃え尽きていた。
私は震える足でテーブル席に座ると、リアの肩を揺すりながら「リア、大丈夫?」と話掛けた。
するとリアは、うつ伏せになったまま「もう、ゴールしてもいいの」と言ってきた。
どうやら、リアもかなり大変だったみたい。
「――と、とりあえずカウンターに行ってお金をもらいましょう」
「わかったの」
私とリアの憔悴しきった姿は、周囲の冒険者にはどう見えているのだろう?
周りを見る余裕さえ、今はない。
「はい、それでは二人ともクエストを達成されましたので金貨2枚と銀貨2枚になります」
「「おおー……」」
私とリアの言葉が重なった。
これで、なんとか生きていける。
宿代が後払いだったから、これで何とか払えば――。
たぶん、追い出されることはないはず……。
――と、思っていた時期が私とリアにもありました。
――まだ日が沈むには早い。
でも、あと数時間もしたら日が暮れてくると思う。
そしたら、宿を追い出された私達が住まうところがない。
あの後、宿にお金を払いに行ったら、一人部屋さえまともに料金が払えない冒険者に部屋を貸すのは無理だと主人に反対されたらしく、部屋を貸せなくなったと女将さんに言われたのだ。
現在、私とリアは街中を歩きながら残った銀貨1枚でどうしようと途方に暮れていた。
そんな私の視線の先に見たこともない服装をした男性が立っているのが見えた。
「ソフィア、あの人っておかしくない?」
「リアもそう思う?」
いくら田舎から出てきたと言っても、貴族からの依頼だって1回くらいは受けたことはある。
まぁ、失敗したけど――。
問題は、そこじゃなくて、貴族の服より遥かに上等な生地の服を着た男性が周囲を見ている点で――。
「あれ? あの人……」
そこで、私は目を凝らす。
ハーフエルフである私は魔力を見ることが出来る。
その私から見て、男性は金色のオーラを身に纏っていた。
「リア、あの人……たぶん神官の力を有していると思う」
「本当に!? 筋肉痛とか魔力の使い過ぎで痛む頭痛とか治るの?」
「――それは分からないけど……、神官なら、どうしてあんな格好を……それに、なんだか田舎から出てきた私達みたいに不安そうな顔をしているような――」
私は男性に近づく。
風貌は、あまり見たことはないけど近くにいくと嗅いだことの無いいい匂いがした。
貴族の体からも匂ってくる香水に近い匂い。
男性は、額に手を当てて溜息をついていた。
やっぱり、何か困っているのかもしれない。
そして運がよければ……。
「あの……大丈夫ですか?」
私は、打算を多いに含ませて男性に語り掛けた。
252
お気に入りに追加
609
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
両親が勇者と魔王だなんて知らない〜平民だからと理不尽に追放されましたが当然ざまぁします〜
コレゼン
ファンタジー
「ランス、おまえみたいな適なしの無能はこのパーティーから追放だ!」
仲間だと思っていたパーティーメンバー。
彼らはランスを仲間となどと思っていなかった。
ランスは二つの強力なスキルで、パーティーをサポートしてきた。
だがそんなランスのスキルに嫉妬したメンバーたちは洞窟で亡き者にしようとする。
追放されたランス。
奴隷だったハイエルフ少女のミミとパーティーを組み。
そして冒険者として、どんどん成りあがっていく。
その一方でランスを追放した元パーティー。
彼らはどんどん没落していった。
気づけはランス達は、元パーティーをはるかに凌駕していた。
そんな中、ある人物からランスは自身の強力なスキルが、勇者と魔王の固有のスキルであることを知らされる。
「え!? 俺の両親って勇者と魔王?」
ランスは様々な争いに次々と巻き込まれていくが――
その勇者と魔王の力とランス自身の才によって、周囲の度肝を抜く結果を引き起こしてゆくのであった。
※新たに連載を開始しました。よければこちらもどうぞ!
魔王様は転生して追放される。今更戻ってきて欲しいといわれても、もう俺の昔の隷属たちは離してくれない。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/980968044/481690134
(ページ下部にもリンクがあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる