おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第一章 辺境の村 開拓編

第6話 お風呂。

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「私達が、ご用意いたしますのでカンダ様は、座って待っていてください」
「待っていてくだしゃい」
 
 リルカとエルナは、それぞれ別れて谷底に落ちている枝を拾いはじめた。
 それから1時間ほどして枝が集まると、昨日から火元を維持している薪に二人は枝を入れていくと炎の勢いが増していく。
 
 火が舞う様子を見ていると鍋を両手で抱えたリルカが「あの……カンダさん、お鍋に水を入れてもらえますか?」と、聞いてきた。
 
 俺は頷き生活魔法の一つである水生成の魔法を発動させ鍋の中に水を満たしていく。
 時間的には、1分もかかっていない。
 
「ありがとうございます」
「リルカ、一つ聞きたいんだが……」
「はい? なんでしょうか?」
 
 リルカは、腰まで伸ばしている銀髪を揺らしながら首をかしげて聞いてくる。
 
「エルナの話し方だが……」
「あっ! 申し訳ありません。妹は、まだ人間の言葉を上手く話すことができないのです」
「そうなのか?」
 
 俺は、てっきり獣人というのは人の言葉を普通に話せると思っていたのだが……。
 
「――はい。獣人は人の言葉を、きちんと話せるようになるのが成人してからですので……」
「なるほど……」
 
 リルカの言葉に頷きながら、俺は膝を摩る。
 矢が刺さった膝が痛いのだ。
 
「あの……」
「どうかしたのか?」
「いえ……」
 
 リルカは頬を赤く染めて、何かを俺に言おうとしている。
 なるほど……。
 つまり、食事を貰って助けてもらったから俺に惚れてしまったということか。
 ふっ、俺に惚れると火傷するぜ? と一度でいいから言ってみたいが、そんな度胸も……。
 
「毛布が……」
「毛布が? うお! 俺の毛布が!?」
 
 気がつけば毛布が燃えていた。
 慌てて火を消そうと毛布を素手で掴む。
 
「熱っ!?」
 
 すでに毛布の内部まで燃えていたらしい。
 
「……お、俺の毛布が……高かったのに……」
 
 俺は、コールドウルフの毛皮を加工して作られた毛布を見ながら膝をついた。
 
「ごめんなさい、私がもう少し早く言っていれば……」
「ごめんなしゃい」
「いや、気にしなくていい」
 
 二人は、どうやら俺が気を取られたから貴重なコールドウルフの毛皮が燃えてしまったと思ったのだろう。
 別に、二人が悪い訳ではない。
 生活魔法を発動するさいに毛布の置く場所が薪から近すぎたのが原因だっただけだ。
 
「まぁ……、中途半端に燃やすよりかは――」
 
 俺は毛布を、燃えている薪の方へと投げる。
 すると、毛布は一気に燃えて灰になった。
 
「なるほど……さすが冬に出現する狼だな……。火の耐久力がないってことか――」
 
 その分、毛布としては使えるんだがな。
 とても暖かいし……。
 
「しかし、これは本格的に家を建てる必要があるな……」
「家ですか?」
 
 俺の言葉にリルカが首を傾げながら問いかけてくる。
 まだ、背も低い彼女は自然と上目遣いになってしまう。
 きっと、俺が高校生のときなら、惚れていたはずだ。
 
「ああ、これからは冬の到来もあるし何より魔物の襲撃があったときにテントだと防御の役割も果たさないからな」
「そうなのですか……」
「そういえば、リルカとエルナは、どこで寝泊りしていたんだ?」
 
 俺の問いかけにエルナが「あっち!」と指差してきた。
 指先には、崩れかけの3軒のあばら屋が見える。
 いつ崩れてもおかしくない家だ。
 
「……そ、そうか……」
 
 あばら屋と言うには、もったいない。
 一言で言うなら日本の一般家庭の庭に置かれている敷地面積畳2個の建物だ。
 それが3軒並んでいるだけだから、獣人融和政策をどこまでまじめに取り組もうとしているのか疑問の余地は大いにある。
 幸い、渓谷から出れば木々がたくさん群生している森が近くにある。
 それを使えば短時間で建物を作ることは可能だろう。
 
「とりあえず、3軒の様子を見ていくか」
「はい!」
「はいでしゅ!」
 
 朝食を干し肉と黒パンにスープで済ませる。
 そして、3軒の家々を見て回ることにした。
 
「カンダさん! ここが私達の寝床です!」
「どれどれ……」
 
 俺は、リルカに案内されるようにあばら屋に脚を踏み入れる。
 おいてあるのは木の器とスプーン。
 あとは枯れ葉のみ。
 もしかして……。
 
「リルカ、もしかして葉っぱの上で寝ていたのか?」
「はい。床の上に直に寝ますと擦れて痛いので……」
「そ、そうか……」
 
 先ほどは、外だったからあまり気がつかなかったが、リルカもエルナも少し匂う。
 きっとお風呂に入っていないのだろう。
 まぁ、そういう俺も昨日から風呂には入っていないが……。
 
「まずは風呂だよな――」
 
 俺は小屋から出ると、渓谷の上に上がっていくと地面に座りこんでから地面に手をつく。
 
「カンダさん、どうかされたのですか?」
「いや、ちょっと風呂を作ろうと思ってな――」
 
 生活魔法は100人に一人の割合で使うことができる。
 ただ、その魔法の応用範囲はとても広い。
 
 ちなみに、俺の場合はお湯を出すことが出来ないが――。
 
「墓場作成!」
 
 地面が、成人男性を一人、埋葬できるくらいまで陥没する。
 それを3回繰り貸す。
 
 すると深さ1メートル、縦3メートル、横9メートルの大きな穴が出来た。
 次に水生成の魔法を発動させ、10分ほどで穴の中を水で満たす。
 あとは、生活魔法の火種を、水の中で発動させればいい。
 火は莫大な熱量を抱えている。
 それを間接的ではなく直接的に水の中で作りだせば!
 
「水が沸騰してきました!」
「だろ?」
 
 そう、熱く熱した石を水の中に突っ込んで、石の熱で調理する方法が地球にはあるが、その応用だ。
 
「俺は、残り2軒の建物の中を見てくるからリルカとエルナは風呂に入っていてくれ」
「――え? お風呂ですか?」
 
 俺の言葉に彼女は、頬を真っ赤に染めて語りかけてきたので、俺は頷く。
 冒険者ギルドが用意した安物の毛布や布団はあるが、身体が汚れたままで使うのは不衛生だからだ。
 
「わ、わかりました……」
 
 よくは知らないが、リルカが意を決したような表情で頷いてきた。
 彼女の表情から俺は大体察する。
 
「食事を提供したからって、身体を差し出せみたいなことは言わないから勘違いするなよ? 身体が汚れたままで持ってきた布団や毛布を使われたら汚れるから、風呂に入れって言っただけだからな?」
「……あ、はい……」
 
 何故か知らないがシュンとした表情をしたリルカはエルナに風呂に入ることを伝えている。
 俺は彼女達の様子を見たあと、一軒一軒家々を見ていく。
 
「カンナがあるのか……」
 
 一軒目の家で、日本の家屋を作るさいに組み合わせる柱を平らにする道具を見つけた。
 10年間、この世界で暮らして思ったことは、この世界アガルタは、日本の遺品というか文明というかそんなものが結構あっちこっちで見られる。
 どういう繋がりかは知らないが、すぐに答えがでるようなものでもない。
 今は、役に立つのなら使わせてもらおう。
 
「あとはトンカチに釘か……」
 
 釘は鉄製だ。
 しっかりとした作りになっている。
 長さと太さから見ても、家の柱で使えるものだ。 
 こんな立派なものがあるのに、あばら屋しか建ててないなんて前任の開拓民のやる気の無さが感じられる。
 まあ、やる気以前に、こんな荒野に捨て置かれたら、やる気自体出ないとおもうが……。
 
 外からは、エルナとリルカが楽しそうに話をしている声が聞こえてくる。
 よくは聞こえないが3ヶ月ぶりの風呂らしい。
 昨日貸した毛布と毛皮はダニとか汚れがすごそうだ。
 洗濯必須だな。
 
「しかし……肝心のノコギリがないな……」
 
 木材を得るためにノコギリが必要だったんだが、ないなら仕方ない。
 別のもので代用するしかない。
 まぁ、その前に、もう一軒あるのだから、そちらも見てとするか。
 
 もう一軒のあばら家も確認していく。
 
「麦と何かの野菜の種か?」
 
 さすがに園芸は嗜んでいない。
 このへんは、リルカとエルナに聞いてみるのがいいかもな。
 この世界の女性は、園芸をよくする。
 なぜなら、地球と違って、どこでも24時間買い物が出来るようなコンビニがないからだ。
 俺はあばら屋を全部見て回り戦利品をチェックする。
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