上 下
61 / 65

一つ屋根の下での事情4(10)

しおりを挟む
<hr>
「やはり不安ですか?」
「幾分かは――」

 大勢の人前で、舞いを踊るのは数年ぶり。
 心配にならない方がおかしい。
 今の内から、気にしていても仕方ないとは思うけど。
 私は櫟原さんの問いかけに答えながら舞台を降りる。

「なるほど……。つまり、何か制約があれば頑張れるかも知れないということか」

 何か物騒な物言いをしてくる高槻さん。
 不穏な空気!

「高槻様、あまり無理な難題は――」
「いや、何――、莉緒がやる気が出るようなイベントがあればいいんだろう?」
「……」

 その言葉に私は嫌な予感が止まらない!

「そういえば莉緒」

 もはや、私の意思など無視とばかりに高槻さんが口を開く。

「なんですか?」
「おい、言い方が冷たいような気がするのは俺の気のせいか?」
「気のせいです」
「まったく……、それじゃ夏祭りに莉緒が巫女舞を踊るという大役を果たせたのなら、何か一つ頼みを聞いてやってもいいぞ?」
「頼みですか?」
「ああ」
「それじゃ借金の返済を――」
「それは駄目だ。雇用契約に反するからな」

 ですよねー。
 反対されるのは分かっていたけど、やっぱり反対された。

「えっと……」
「何か他に無いのか? テーマパークに行きたいとか」
「特にテーマパークに行きたいとかはないです。……あっ!」
「何かあるのか?」

 思いついたことに彼が反応する。

「はい。お母さんのお墓参りに行きたいです」
「お墓参り? この町には無いのか?」
「はい……。お母さんが納骨されているのは、母方の実家の方なんです」
「そうか……。どこなんだ?」
「新潟になります」
「それは、また遠いな」
「はい」

 実際、お母さんが死んだ時、お母さんの両親は存命だったので、父方の方ではなく母方の方に納骨する事になったのだ。
 でも、それがお墓参りにいけない事になるなんて誰が予測できたのか。

「そうか。それではお盆に墓参りに行くとするか」
「本当ですか?」
「ああ、それが莉緒の頑張る対価になるなら安いものだ」
「ありがとうございます!」

 お母さんが死んでから初めてお墓参りに行けることに、私は嬉しい。
 頑張って巫女舞を成功させないと!



 翌日から、巫女舞の練習を家事の合間に行う事になり、忙しい毎日が続く。
 そうしているとあっという間に一週間が過ぎてしまい、翌日の月曜日に生徒指導室に私は呼び出された。
 また何か問題でも起きたのかな? と、思い――、

「宮内です」

 扉をノックして到来を告げる。

「ああ、入りたまえ」
「失礼します」

 生徒指導室に入ると、そこには私の担任だけが居るだけ。

「椅子に座りなさい」
「はい」
「えっと、宮内さんは進路相談用紙を提出しましたか?」
「あっ!」

 完全に忘れていた。
 巫女舞の練習と家事で、それどころではなかったから。

「すいません。忙しくて……」
「そうですか。男性と一つ屋根の下で暮らしていると生徒指導担当から伺いましたが、大丈夫なのですか?」
「大丈夫とは?」
「一緒に暮らしている異性は、男性だと伺いました。貴女のご家族が複雑な事情というのは知っていますし、あまり口を挟む必要もないと思いますが、勉学に集中出来ないのでしたら、学生の本分を疎かにするようでしたら、親御さんも含めて話し合いの場を作った方がいいと思っています」
「それは……」
「進路も含めて、これからは女性も社会進出をする時代なのですから、もっと将来を見据えた選択をするべきです」
「はい……」
「分かってくれたら、それでいいです。何かあれば力になりますから、何でも相談してください。あと進路相談用紙は、早めの提出をお願いします」
「分かりました」
「それでは、もう帰ってもらって構いません」
「失礼します」
 
 話しが終わり、生徒指導室から出て扉を閉めたあと――、私は小さく溜息をついた。

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】 ミシェラは生贄として育てられている。 彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。 生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。 繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。 そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。 生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。 ハッピーエンドです! ※※※ 他サイト様にものせてます

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

処理中です...