嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。

一つ屋根の下での事情３（２）

「帰ってきていない……」

　朝起きて、彼が――、高槻さんを起こしにいったけど寝所は昨日の片付けられたまま。
　何とも言えない気持ちのまま巫女服に着替えてから境内の清掃を行う。
　社務所の方は、工事が進んでいて人数を動員しているおかげなのからか、施工の進捗は早い。

「はぁ……」
「どうかしたのか？　溜息なんてついて」
「色々とあるんです」
「そうか。色々あるのか」
「うん……って！？　え？　どうして？」

　心あらずと言った感じで清掃をしていたので、途中まで心の中で思っていた気持ちを吐露していた事に気が付いた私は思わず驚き――、履き慣れていない下駄で会った事もありバランスを崩す。

「あっ――」

　倒れかけたところで、高槻さんに腕を引っ張られて、その勢いで彼の胸元に倒れ込んでしまう。
　その際に、彼がしっかりと私の身体を両手で抱きしめてくる。

「少しは落ち着け。慌てると危ないぞ」
「……は、はい」

　ドキドキと心臓が早鐘を打つように律動を繰り返す。
　それと共に、まだ春先で巫女服は体が冷えるので抱きしめられると高槻さんの体温で身体が温められて心地いい。

「まったく――」

　呆れた様子で、私から離れた彼。

「櫟原に聞いたが、学校で何かあったのか？」
「――え？」
「だから、学校で何かあったのか？　と、聞いたんだ。大方、予想はつくが指輪の事に関してか？」

　その言葉に私はコクリと頷く。

「そうか……。すまなかったな」
「――え？」
「もう少し配慮するべきだった」

　いつもとは違って神妙な素振りを見せてくる高槻さんに少し驚く。
　私の知っている高槻さんは『仕事だから、我慢しろ！』くらい言ってくるのに！

「それで、何があった？」

　その言葉に、私は――、胸の内から込み上げてくる物を感じた。
　途端、彼が慌てて「莉緒、どこか痛いのか？」という言葉を掛けてくる。

「何もないです……」

　学校の事に関して彼に言っても仕方ないというのは自覚している。
　だから――、

「何もないなら泣かないだろう？　はぁー」

　高槻さんは深く溜息をつくと自分の髪の毛を掻く。
　
「結婚前提の婚約について、莉緒の友達には話せるようにしよう」
「――え？」
「指輪について誤解をされたんだろう？　まぁ、そういう事態を招いたのは俺の失態だが……、だが莉緒が悲しむ顔を見るのは何だか分からないが嫌なんだ」
「総司さん……」
「勘違いするなよ？　円滑な人間関係は仕事で大事な要素の一つだからな！」

　いつも冷静な高槻さんの表情が赤く見えるのは気のせいではないと思う。

「大丈夫です。私は、大丈夫です」

　そう呟くと――、彼が私を強く抱きしめてきた。

「無理をするな。無理をすれば、かならずどこかで歪が生じる。お前と俺は、いまは一蓮托生なのだから、困った事があれば言えばいい」
「はい……」

　いつもとは様子が違う彼に私は静かに頷いた。