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第14話 気持ちの吐露

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「――え? 莉緒っ」

 友人が、私の肩を掴んでくると顔を自分の方へ向けようとしてくるけど、今はそれどこじゃなくて――。

「許嫁ってどういう事なの?」

 ――そう、美穂が聞いてきても私は答えを持ち合わせていない。
 何せ、表向きは総司さんの元に嫁ぐという事になっているのだから。
 そして、それは借金を返済する上での仕事の一つの約束でもある。
 それを友人とは言え、言う訳にはいかない。

 ……だけど、それは……。

「なあ、宮内。お前、昨日――、校門前で話していた男と婚約したって話は本当かよ?」

 迷っていると外野から、そんな声が飛び込んでくる。
 それは、髪の毛を茶髪に染めた同級生の男子。
 素行が悪い生徒だと話には聞いたことがあるけど、どうして高槻さんの事を知っているのか? と思ったところで――、

「黙っているってことは本当ってところか?」
「なんだよ? 安藤、どういうことだ?」

 教室の誰かが、その茶髪の男子に話を続けるように促す。
 
「いや、俺もよくは知らないんだけどさ。昨日、聞いたんだよ。校門前で、武田がさ――、何かゴタついていたみたいだから見てたらさ、そしたら武田と口論してた男が、宮内と婚約してるって言っててさー」

 その言葉に「やっぱり……」とか「朝からの噂は……」など、小声が聞こえてくる。
 そして、興味深々と言った様子で私を見てくる眼。
 何故か、とても居た堪れなくなって……。

「どうせ、親に売られたんじゃねえの? 相手の男は金持ちみたいだし」

 そんな声が聞こえてきたところで、私は教室から飛び出していた。
 私の名前を呼ぶ美穂の声が聞こえた気がしたけど、私は意識的に聞かないようにして構内を走り――、

「はぁはぁはぁ……」

 息を切らせて辿り着いた場所は、学校の屋上。
 私は、落下防止用のフェンスに身体を預けるようにして寄りかかる。

「ううっ……」

 思わず嗚咽が漏れる。
 誰だって、好んで貧乏なわけじゃないのに……。
 本当に仕方なく! 借金返済のために高槻という男の元で働いているだけなのに……、どうして私を否定されないといけないの? 

 ――そんな思いが胸中を駆け巡る。
 だけど、それは思うだけど打開策なんてない。
 それがより一層、自分自身の力の無さを象徴しているようで、無力感に苛まれてしまう。

「私だって……、私だって普通の家庭に産まれたかったし、もっといい両親に恵まれたかったよ……。自分達は恵まれているくせに! どうして! あんな目で見れるのっ!」

 一人、苛立ちを表すかのように口から言葉が漏れる。
 それと共に涙が止まらない。
 誰にも話すことも出来ず。
 誰の理解も得る事もできず。

――何もできない。
 
……流されることしかできない、そんな自分が嫌で嫌で堪らない。

「……莉緒?」
「…………美穂?」
 
 声がした方へと振り向くと、そこには親友の美穂の姿があって――、彼女は肩を上下させていた。
 そして、ぎこちない笑みを私に向けてくるとゆっくりと近寄ってくると、何も言わずにフェンスに身体を預けて座っていた私の隣に腰を下ろす。

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