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第13話  始めての携帯電話です

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「今日はスーツ姿なんですね」
「仕事があるからな」

 それだけで話が終わってしまう。
 この人は、会話のキャッチボールが出来ないのかな? と、心の中で突っ込みを入れつつ――、

「そういえば、総司さんは何のお仕事をしているんですか?」
「お前に関係あるのか?」
「――いえ、ないです……」

 何と言う会話をする気がゼロな人なのだろう。
 
「莉緒」
「はい? なんでしょうか?」

 食事も摂り終える頃になり、ようやく同居人というか上司が話しかけてくる。

「今日は遅くなる。夕食は必要ない」
「はい」

 完全に業務連絡。
 いいですけどね! 私は朝食を作るのも仕事の内の一つですし……。
 でもね、同じ一つ屋根の下で暮らすなら、もう少しコミュニケーションを考えて欲しい。
 内心、溜息をつきながら朝食を終えたあとは、二人して母屋を出る。

「莉緒、これが家の鍵だ」

 差し出してきた家の鍵を預かり、二人で階段を降りると既に黒塗りのベンツが停まっていた。

「おはようございます。高槻様、宮内さん」

 礼儀正しくスーツを着こなしているイケメン、櫟原さん。

「おはようございます」
 
 私も櫟原さんに挨拶を返す。

「早くいくぞ」

 そんな私の櫟原さんの横目で見ながら、さっさと車に乗ってしまう高槻さん。
 私も慌てて車に乗り込む。
 そのあとは、5分もかからず高校に到着。
 
「――それでは、宮内様。本日のお帰りの際は迎えにいけませんので」
「分かりました」

 いつも徒歩で帰っていたのだ。
 神社までなら、そんなに時間は掛からないし。

「それと此方の方をお渡ししておきます」
「携帯電話ですか?」
「はい。高槻様より、宮内さんは携帯電話を持っていないと言う事でしたので急遽、ご用意致しました。連絡先は、高槻様と私だけの登録になっておりますが自由にご利用ください。何かあった際にも連絡を頂ければ対応いたしますので」
「ありがとうございます」

 うちは貧乏だったから携帯電話というのを持てなかった。
 だって通信費だけですごい費用になるから。
 
「それでは、勉学に励んでください」

 櫟原さんは頭を下げると、車に乗り込み走り去る。
 それを見ながら「家で渡してくれればいいのに……」と、思いつつ昇降口を抜けて教室へ。

「莉緒っ」

 そして、やはりというか何と言うか、教室に入るなり私に詰め寄ってくる友人の美穂。

「おはよう、美穂」
「見たよ! 見たよ! 今日も、来ていたよね? あの人って莉緒の何なの?」

 好奇心ありありで、背後関係を聞いてくる友人。
 そんな友人に何と話していいのか私は迷ったところで――、「許嫁の付き人だろ」と、冷たい口調で呟きながら、私と美穂と間に割ってくる大和。

「大和……」

 彼の名前が口から零れ落ちたけど、大和は反応する事もなく私と美穂の横を通り過ぎると椅子に座って伏せてしまった。
 まるで私と会話したくないと言わんばかりに――。
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