上 下
8 / 65

第8話 俺の女だからな?

しおりを挟む
 もちろん、それだけでなく抱き着いてくる。
 
「くんくん。あれ? 莉緒」
「美穂、朝から抱き着いてくるのは止めてほしいの。もうすぐ授業が始まるよ?」
「そうじゃなくて!」

 私の肩をガッ! と掴んでくる美穂。

「何よ……」
「いつもと匂いが違う!」
「――え? やっぱり臭い?」

 よくよく考えてみればお風呂に入っていなかった事に気が付く。
 華の女子高生とあろうものが毎日、お風呂に入らないとは不覚もいいところ。

「そうじゃないの!」

 どうやら、私の考えは杞憂だったようで――、

「イケメンの匂いがする!」
「どういう匂いよ……」

 別の意味で私は呆れてしまう。

「あっ! そうそう」
「まだ何かあるの?」
「家の方、大丈夫だった?」
「家の方?」
「うん。昨日、莉緒の家に遊びにいったんだけど……チャイムを鳴らしても反応がなかったから。とうとう餓死したのかなって……」
「どういう基準で私を見ているのか今一度、しっかりと話し合う必要性がありそうね」
「莉緒って、怖いっ!」
「はぁ……。――で、私のことを心配してくれていたの? 私の方は何とかやっていけているから大丈夫だからねっ」
「本当に? 今日の朝、すごいイケメンが莉緒のことを車で送ってきたわよね?」

 あー、それ見ていたんだ……。
 そりゃ目立つよね。
 こんな田舎にロールスロイスで通学する人なんて珍しいし、何より車で送ってもらう方が珍しいまであるし。

「うん……」

 隠し事もできないから私はとりあえず頷いておく。
 ただ、借金の肩で神社に売られたとは言えない。
 そんなことを説明したら、さすがに心配をかけるのは目に見えているから。

「もしかして莉緒の家ってすごいお金持ちとか? だって! 良家のお嬢様みたいに扱われていたわよね?」
「それは目が曇っているだけだと思うから目薬をして眼鏡を掛けた方がいいと思うわよ」

 とりあえず突っ込みをしておく。

「おい! 宮内!」

 私と美穂が朝のホームルームが始まる僅かな時間で会話をしているところに、一人の男子高校生というか小さい頃からの幼馴染が割って入ってくる。

「何よ? 大和(やまと)」

 彼の名前は、武田たけだ 大和やまと
 昔からの幼馴染で何かを突っかかってくる。

「お前! 今度、新しくきた高槻神社の神主と婚約したって本当か!?」
「あー」
「え? 何々? 修羅場なの? ねえ? 修羅場なの?」

 美穂が目をキラキラさせて私と大和を交互に見てくる。
 それどころかクラス中から視線を一斉に向けられてきて居た堪れない。
 それよりも、表向きは婚約――、嫁ぐという話になっていることをどうして大和が知っているのかすごく不思議なんだけど。

「本当なのか? おい、答えろよ!」
「えっと……、それは……」
「何をしている! 席につけ! ホームルームを始めるぞ!」

 私が何と答えていいのか迷っていたところで先生が入ってきて話は中断。
 気まずい雰囲気のまま、学校生活は始まった。
 授業時間は、さすがの大和も婚約の事に関して聞いてくることはできず、休憩時間も恋とか許嫁とか婚約に興味津々の女子が近寄ってくるので大和は私に近寄ることも出来なかった。
 私としても、何て答えていいのか分からなかったので「それは秘密」とか「ご想像にお任せします」くらいしか言えない。
 
 ――そして、濃密で非常に疲れる一日の学業生活が終わったあと。

「美穂、またね!」
「ほえ?」
「おい! 宮内!」

 いつもは美穂と途中まで通学路は一緒なので二人で帰っていたけど、今日は大和に問い質されるのは面倒って思い逃げるようにして急いで学校から出た。
 昇降口を抜けて、学校の校門まで辿り着いたところで後ろから腕を掴まれる。
 
「おい、宮内!」
「何よ。大和」
「何を逃げているんだよ! お前、本当なのか? 婚約したって!」
「大和には関係ないでしょ!」

 どうして、大和は前からこんなに私に絡んでくるんだろう。

「関係なくはない!」
「許嫁とか婚約とか大和に何の関係があるの!?」
「それは……」

 大和が言い淀む。
 その姿を見て、私は少しだけ苛立つ。

「もういいでしょ」
「良くはない!」

 私の腕を掴む大和の腕の力が強くなる。

「――ッ」

 剣道をしているからなのか大和の握力は相当なモノで、腕を握られる痛みから私は思わず声を上げてしまう。

「おい、小僧」

 そんな私と、大和を引き離したのは――、

「な、なんだ……お前は」
「俺の女に手を出すのは止めてもらおうか?」

 無理矢理、大和の腕を掴み私の腕から引き剥がした張本人は、私のことをそのまま引っ張ると、抱きしめてくる。

「俺は、コイツの夫の高槻総司だ。女に無体なことをするのは感心しないな」

 えーっ! この人何言っているの?
 いつも、私に対しては暴虐の限りで文句言っているのに!?

「――お、俺の女!?」
「そうだ。莉緒は、俺のところに嫁入りすることになったからな。お子様は引っ込んでおけ。それとも――」

 ギロリ! と、ヤクザ顔負けの迫力ある鋭い目つきで大和を威嚇する高槻さん。

「――ッ!」

 たぶん怒りで顔を赤くしたのか、大和が私と高槻さんの横を通り抜けるけど――、

「そうかよ。そんな奴がいいのかよ」
「――え?」

 思わず振り向く。
 だけど、すでに大和の背中しか見えなくて……。

 大和の「そうかよ。そんな奴がいいのかよ」と、言う言葉が胸を締め付けた。
 あんな大和の声を――、感情を押し殺したような言葉を始めて聞いたから。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】 ミシェラは生贄として育てられている。 彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。 生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。 繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。 そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。 生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。 ハッピーエンドです! ※※※ 他サイト様にものせてます

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

処理中です...