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1話 プロローグ

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「ここは……」

 周囲を見渡せば、そこは広大な草原。
 周りには何もない。
 
「おかしい。さっきまで部屋で寝ていたはずだったが……」

 記憶の糸を手繰り寄せても、14連勤務後、意識が朦朧の中でシャワーを浴びて布団に寝たはず。
 そこまでは覚えている。
 つまり……ここは……夢の中ということになる。
 
「そうか……、随分とリアルな夢だな」

 そう結論付けて、俺は立ちあがる。
 その際に、自分の体重を感じるが思ったよりも軽い。
 まるで若返ったようだ。
 
「若返った?」

 ふと思いついた考えに、違和感を覚えると同時に自身の手の平、腕をチェックする。
 そこで、俺は気が付く。
 肌艶が、まるで10代のようだと!

「本当に若返っているのか。流石は夢だな……」

 そういうツッコミを自分自身に入れつつ、これからどうしようか? と、悩んでいたところで、何か音が聞こえた。
 耳を澄ませば、何か金属が擦れる音までが聞こえてくる。

「何だ?」

 金属音――、それは不規則にぶつかり合う事で発生する音で、俺の五感を刺激してきた。

「とりあえず、行ってみるか」

 ここが夢の世界なら、何か事件があっても問題はないだろう。
 そう結論付けて、俺は音が鳴る方へと向かう。
 
「それにしても体が軽いな」

 10代の若い体というのは、こんなに運動能力に優れていたのかと感激しながら、俺は歩きから少しずつ速度を上げていく。
 結果、殆ど走る速度になった。
 アッと言う間に景色が後ろへと流れていく。
 そんな光景が面白くて俺は走る速度を上げた。
 30秒も走ると、黒い点が見えてくる。
 それは大草原の中に存在していた。
 俺は走る速度を落として目を凝らす。
 距離としては400メートルほどあると思うが、自分でも思ったよりも、黒い点がハッキリと見えた。

「馬車が横転しているのか? それと、服装から見て中世ヨーロッパの騎士が戦っているように見えるんだが……」

 一方は、規格が統一された青銅製の鎧を着ていた。
 そして、もう一方は野党崩れのように斧や剣で武装しているが、装備は在り合わせと言った感じだった。
 ただし、野党崩れの方は人数が多い。

「ロケとかじゃないよな……」

 周囲を見渡すが、撮影設備などは見当たらない。
 ――と、いうことは!

「やっぱり夢か……」

 そうとしか考えられない。
 そこまで思考したところで悲鳴が聞こえた。
 かなり距離があるというのにだ。
 やっぱり夢か、ご都合主義だなと思わず思考してしまうが、夢の中なら悲鳴が聞こえたから助けにいくのもありだろう。
 視線を悲鳴が聞こえた方へと向けると、馬車から転げ落ちた白いドレスを着た金髪碧眼の美少女の姿が目に入った。
 そんな美少女に近寄る斧を持った野党。

「夢の中なら!」

 俺は一足飛びに馬車が倒れている場所へと向けて走る。
 先ほどまで走っていた速度よりも更に早く!
 数秒で馬車の近くまで移動し美少女と、野党の間に割って入ることに成功する。

「てめえ! 一体っ! どこから!」

 スキンヘッドの男が目を見開きながらも上段から斧を振り下ろしてくる。
 だが、俺は慌てていなかった。
 この世界が夢の中だと確信していたからだ。
 振り下ろされた斧の刃を俺は手の平で受け止める。
 たしかな衝撃。

「ば、ばかな……。俺様の斧を受け止めるなんて……、おまえっ! なにものだ!」

 夢の中だというのに、随分とボキャブラリーが豊富だなと考えながらも、俺は――、

「いってええええええええ」

 遅れて手の平から痛みが!
 さらに斧の刃を受け止めた俺の右手には、浅くはあったが斬られたあとから血が滲み出てきていた。

「なんだっ――、びっくりさせやがって……」

 俺の反応を見て安心したスキンヘッドの男が、再度、斧を振り上げてくる。
 その動作から、俺は必至になる。

「させるかああああ」

 手の平から血が滴っているが、それは今は無視。
 拳を握り男の腹の部分を殴りつける。
 体格差は圧倒的なまでに違う。
 二回りは違う。
 普通なら攻撃をしても通らない。
 だが、いまは、そんなことはどうでもいい。
 何せ、激痛が脳裏を支配していて、それどころではないからだ。
 俺の拳は、スキンヘッドの腹に命中。

 ――メキメキッという骨が折れる音が聞こえてくると同時に、スキンヘッドの男は吹き飛ぶ。
 後方へと。
 数百メートル、地面と平行し吹き飛んだあと、地面と激突したのか地面が爆ぜた。
 そんな光景が視界に見えた。

「「――え?」」

 一体、何が起きたのか分からない。
 ただ一つ言えることは、スキンヘッドの男は、おそらく立てないであろうという事くらいは。

「――お、お頭がやられた! 逃げろっ!」

 野党たちが一斉に逃げていく。
 あとに残ったのは、俺と白いドレスを着た金髪碧眼の美少女と一人の甲冑を着た女だけ。
 
「あ、あの……助けて頂きありがとうございます?」

 どうしようと思っていたところで話しかけてくる美少女。

「いえ。どういたしまして」

 夢の中だと思って行動してきた俺には何と返していいのか分からない。

「あの、御高名な冒険者の方かと思いますが、お名前をお伺いしても?」
「名前? 俺の名前は、朝霧(あさぎり) 和馬(かずま)だ」

 相手に流されるように、俺は自分の名前を告げた。
 

 

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