婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫

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第60話 ダンジョン探索(10)

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「アリーシャ、来るのが遅いぞ!」

 暗闇の中で目を光らせながらエリザさんが手を振ってきていた。
 一瞬、魔物? と、思ってしまったけど、そうではないみたいで、私は胸を撫でおろし――。

「あの、アリーシャさんって暗闇の中でもモノを見る事ができるのですか?」
「――ん? アリーシャは見えないのか?」
「普通は見えないと思いますが……」

 それなりに長い時間、エリザさんと行動を共にしてきたけど、暗闇の中でもエリザさんがモノを見ることができる事に初めて気がついた。
 それと同時に、暗闇の中でモノを見る事が出来る特殊な目を持つ人が居ることを思い出す。

「瞳力ですか?」
「そうだな。うちの家では剣眼って言うんだが、剣を振るって戦うからな。暗闇でも、相手や周囲の光景を視る事が出来るようにされているんだ」

 つまり、それって……後天的なもの?
 そうなると何かしらの術式を瞳に付与されたって事になるけど……。

「そんなことよりも早くしたに降りよう」

 心の中で考えていたところで、エリザさんが地下へと通じる階段を下りていってしまう。
 仕方なく、私も思考を停止して、エリザさんの後をカグラさんと一緒に降りていく。
 30段ほど階段を下りたところで、ようやく地面というか見た事がないような材質で作られた足場を踏みしめる事が出来た。

「カグラ。ここが、迷宮1階なのか?」
「うむ。ここが一応、ダンジョンの1階と言う事になっていたが、いまでは正確ではないな」
「そうなのか?」

 エリザさんは、カグラさんと話ながら前後に続く通路を交互に見ていた。
 私も周辺を見渡して何かおかしな部分があるかどうか確認していくけど、ダンジョンに関する知識に関しては、正直、妃教育の際には教えてもらった事がないので、危険性の有無の判断もつかない。

「あの、カグラさん」
「どうした? アリーシャ」
「先ほど、ここはダンジョン1階ということで話を伺いましたが、それは昔の事だったのですか?」
「ほう? どうして、そう思う?」
「だって、先ほど、ここのダンジョンは1階と言う事になっていたが? と、仰ってましたよね? つまり、現在は、違うということではないのですか?」
「なるほどな」

 私の話を聞いていたカグラさんが何度か頷くと口を開く。

「いまの迷宮都市グラナドの迷宮の1階部分は都市を運営していく上で必要な施設と言う事で人工的に人の手が入っている」
「なるほど……」

 私は、少し異臭がする事に先ほどから気がついていたけれど、カグラさんの言葉で、気になっていたことが確信へと変わる。

「つまり下水道施設と言う事ですか?」
「なるほど。そういう知識はあるということか。流石と言ったところだな」
「普通に考えれば分かることです」

 そう答えながら、私は探査魔法に引っかかった方角へ向けて炎の魔法を放つ。
 私が放った魔法は、近づいてきていた形が定まっていない魔物を焼き尽くす。

「アリーシャ。今のは?」
「スライムです。下水道設備や水場によく生息する魔物ということで、本で読んだ事があります」
「あれが、スライムなのか……」

 エリザさんもスライムを見たのは初めてなのかポツリと呟くけれど……。

「痛っ!」

 エリザさんと話していた所で、カグラさんに頭を強く叩かれた。

「アリーシャ、エリザ。迷宮都市グラナドのスライム討伐は犯罪だからな。次回から気を付けるように」

 カグラさんが、溜息交じりに私達に忠告してきた。




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