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第49話 迷宮都市グラナド(21)

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 彼は、何も答えてこない。
 だけど……、それがすべての答えだという事は理解できた。
 つまり、魔道具の売買に関してだけは――、国は許可を出していないが自給自足なら、国も許可をしていると……。
 まぁ、限度はあるかも知れないけど、クーラーという魔道具なら問題ないと。

「分かりました」
「まぁ、そんなに早く戻る必要もないだろう?」

 断りを入れて席を立とうとしたところでメルドランさんが引き止めてくる。
 あまり過干渉をするような人物ではないと思っていただけに少し意外ではあった。

「――いえ。まだ、病み上がりの身ですから」
「ほう。つまり暑さにやられたと?」
「……」
「――いや、何。詮索しているつもりはないのだ。何かあってからでは、商業ギルドとしても損失だからな」
「どういう意味でしょうか?」

 商業ギルドにとっては損失という言葉に私は引っかかりを覚えながら椅子へ座る。
 そして――、メルドランさんは私が話を聞くと判断したからなのか、手を二回叩く。
 すると、女性が部屋へ入ってくると銀で作られた器を二つテーブルの上に置くと部屋から出ていく。

「これは……」
「果実酒だ」
「そうですか」

 あまりお酒に強くない私からしたら果実から醸造された飲み物であっても苦手。
 何故、お酒を好む人は後味が苦い飲料を好んで飲むのか? と、日頃から理解に苦しんでいる。
 ただ、出された飲み物に口をつけないのは失礼かと思う。
 仕方なく、私は銀の盃を持つ。
そして口をつける。

「これは……」
「冷たいだろう?」
「はい」

 氷の魔法で冷やされたかと言うと、そうではなくて……、氷が浮かんではいない。
 何より、器にも薄っすらと水滴がついていて、杯ごと冷やされているのが分かる。

「氷の魔法では……」
「違うな。氷の魔法は水と風の魔法の合成魔法で、上級魔法だ。あんなものを使える魔導士なんて限られる」
「……それは」

 私としては、妃教育の合間に後宮などの書庫で、氷の魔法についての知識を学んで使えるようになっただけなので、どれだけ貴重な魔法かは知らないけど、目の前の商業ギルドのギルドマスターが言うのなら、そうなのかも知れない。

「別に攻めている訳ではない。それよりも何より、氷の魔法が使える魔導士が、この商業ギルドに在籍している事は、かなりの幸運だと言える」

 彼は、両手を組みながら私をジッと見つめてくる。

「つまり、私の氷の魔法に関して何かしらの期待をしていると? ……つまり、そういうことですか?」
「ああ。君も、商業ギルドに居る身だ。氷の魔法による商売など初めてみる気はないか?」




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