49 / 93
第49話 迷宮都市グラナド(21)
しおりを挟む
彼は、何も答えてこない。
だけど……、それがすべての答えだという事は理解できた。
つまり、魔道具の売買に関してだけは――、国は許可を出していないが自給自足なら、国も許可をしていると……。
まぁ、限度はあるかも知れないけど、クーラーという魔道具なら問題ないと。
「分かりました」
「まぁ、そんなに早く戻る必要もないだろう?」
断りを入れて席を立とうとしたところでメルドランさんが引き止めてくる。
あまり過干渉をするような人物ではないと思っていただけに少し意外ではあった。
「――いえ。まだ、病み上がりの身ですから」
「ほう。つまり暑さにやられたと?」
「……」
「――いや、何。詮索しているつもりはないのだ。何かあってからでは、商業ギルドとしても損失だからな」
「どういう意味でしょうか?」
商業ギルドにとっては損失という言葉に私は引っかかりを覚えながら椅子へ座る。
そして――、メルドランさんは私が話を聞くと判断したからなのか、手を二回叩く。
すると、女性が部屋へ入ってくると銀で作られた器を二つテーブルの上に置くと部屋から出ていく。
「これは……」
「果実酒だ」
「そうですか」
あまりお酒に強くない私からしたら果実から醸造された飲み物であっても苦手。
何故、お酒を好む人は後味が苦い飲料を好んで飲むのか? と、日頃から理解に苦しんでいる。
ただ、出された飲み物に口をつけないのは失礼かと思う。
仕方なく、私は銀の盃を持つ。
そして口をつける。
「これは……」
「冷たいだろう?」
「はい」
氷の魔法で冷やされたかと言うと、そうではなくて……、氷が浮かんではいない。
何より、器にも薄っすらと水滴がついていて、杯ごと冷やされているのが分かる。
「氷の魔法では……」
「違うな。氷の魔法は水と風の魔法の合成魔法で、上級魔法だ。あんなものを使える魔導士なんて限られる」
「……それは」
私としては、妃教育の合間に後宮などの書庫で、氷の魔法についての知識を学んで使えるようになっただけなので、どれだけ貴重な魔法かは知らないけど、目の前の商業ギルドのギルドマスターが言うのなら、そうなのかも知れない。
「別に攻めている訳ではない。それよりも何より、氷の魔法が使える魔導士が、この商業ギルドに在籍している事は、かなりの幸運だと言える」
彼は、両手を組みながら私をジッと見つめてくる。
「つまり、私の氷の魔法に関して何かしらの期待をしていると? ……つまり、そういうことですか?」
「ああ。君も、商業ギルドに居る身だ。氷の魔法による商売など初めてみる気はないか?」
だけど……、それがすべての答えだという事は理解できた。
つまり、魔道具の売買に関してだけは――、国は許可を出していないが自給自足なら、国も許可をしていると……。
まぁ、限度はあるかも知れないけど、クーラーという魔道具なら問題ないと。
「分かりました」
「まぁ、そんなに早く戻る必要もないだろう?」
断りを入れて席を立とうとしたところでメルドランさんが引き止めてくる。
あまり過干渉をするような人物ではないと思っていただけに少し意外ではあった。
「――いえ。まだ、病み上がりの身ですから」
「ほう。つまり暑さにやられたと?」
「……」
「――いや、何。詮索しているつもりはないのだ。何かあってからでは、商業ギルドとしても損失だからな」
「どういう意味でしょうか?」
商業ギルドにとっては損失という言葉に私は引っかかりを覚えながら椅子へ座る。
そして――、メルドランさんは私が話を聞くと判断したからなのか、手を二回叩く。
すると、女性が部屋へ入ってくると銀で作られた器を二つテーブルの上に置くと部屋から出ていく。
「これは……」
「果実酒だ」
「そうですか」
あまりお酒に強くない私からしたら果実から醸造された飲み物であっても苦手。
何故、お酒を好む人は後味が苦い飲料を好んで飲むのか? と、日頃から理解に苦しんでいる。
ただ、出された飲み物に口をつけないのは失礼かと思う。
仕方なく、私は銀の盃を持つ。
そして口をつける。
「これは……」
「冷たいだろう?」
「はい」
氷の魔法で冷やされたかと言うと、そうではなくて……、氷が浮かんではいない。
何より、器にも薄っすらと水滴がついていて、杯ごと冷やされているのが分かる。
「氷の魔法では……」
「違うな。氷の魔法は水と風の魔法の合成魔法で、上級魔法だ。あんなものを使える魔導士なんて限られる」
「……それは」
私としては、妃教育の合間に後宮などの書庫で、氷の魔法についての知識を学んで使えるようになっただけなので、どれだけ貴重な魔法かは知らないけど、目の前の商業ギルドのギルドマスターが言うのなら、そうなのかも知れない。
「別に攻めている訳ではない。それよりも何より、氷の魔法が使える魔導士が、この商業ギルドに在籍している事は、かなりの幸運だと言える」
彼は、両手を組みながら私をジッと見つめてくる。
「つまり、私の氷の魔法に関して何かしらの期待をしていると? ……つまり、そういうことですか?」
「ああ。君も、商業ギルドに居る身だ。氷の魔法による商売など初めてみる気はないか?」
649
お気に入りに追加
1,726
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる