婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫

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第31話 迷宮都市グラナド(3)

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 だからこそ、余計に目立ってしまうのかも知れない。

「何とかできないよな」
「私達には、そんな財力ありませんから」

 こう答えれば財力があれば助けられるのか? と、問われれば、それは難しいと言わざるを得ない。
 何の職も持たない人を助けるという事は、その人の生活を保障するという決意が必要だから。
 そして、現在の私は自分自身の事で精一杯。
 何より、外から入ってきたばかりの私が手を出すのは、町の秩序に問題を起こしかねない。
 ――だから……、「そうだよな」と、仕方ないと呟くエリザさんに話しかける言葉はない。
 せめて自由に氷の壁を削っていくことに関して見過ごすくらいが出来る精一杯のこと。

 お昼の食事を作り終えたあと、私とエリザさんは迷宮都市がどういったところなのか見て回ることにする。
 
「まだ氷は完全に溶けてないんだな」
「そうですね」

 いくら何でも数時間で、全ての氷を削ってもっていく程の運搬力がないのか、家を囲うようにして作った氷の柵は、8割ほど残っている。
 そして、氷の影響からなのか周囲は砂の国の中の迷宮都市とは思えないほど涼しい。

「なあ」
「はい?」

 家を出て、大きな邸宅が立ち並ぶ区画を歩いていた所で、エリザさんが私に話しかけてきた。

「家を囲っている氷の壁は良いんだが、家の中に誰かが侵入するってこともあるんじゃないのか?」
「その事ですか。それに関しては対策済みです」
「そうなのか? 普段どおりに家から出てきたよな?」
「簡単に説明するのでしたら、分子の動きを停止しています。そうする事で、物が形を変える事が出来なくなっているので、ドアを開けることも壁を破壊することも不可能な状況です」
「つまり、固定化の魔法をかけてあるってことか?」
「そうですね」

 私は、頷く。
 固定化の魔法は、この世界で物質を一時的に保管しておくための魔法で、魔導士なら誰でも使う事が出来る。
 ただし、効果対象は、非生物。
 さらに時間は永続ではなく発動している限り術者の魔力を消費し続ける。
 しかも距離が離れれば離れる程という、便利ではないけれど、便利な魔法という謎な魔法。

「そうなると、あまり家から離れるのは得策じゃないよな?」
「いえ。迷宮都市内を歩きまわる程度なら問題ないと思います」
「そうなのか? 私が教えてもらった固定化の魔法は、そんなに長く持たないって聞いたが……」
「まぁ、色々とありますから」

 私は言葉を濁しながら歩き続ける。
 しばらくエリザさんと歩いたところで、雑多と呼ぶべき道へ出た。
 道幅は、私やエリザさんが商業ギルドから購入した土地よりも広いけど、道の両端には露店が立ち並んでおり、何より人通りも多いので、道幅自体は体感的には狭く感じる。

「少し歩くだけで景色が変わって面白いな」

 エリザさんは、物珍しく周囲を見渡しています。

「一応、区画が設定されていると以前に教えてもらった事があります」
「区画?」



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