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第30話 迷宮都市グラナド(2)
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翌朝、やけに暑いと思い家から出ると家の周りを囲っていた氷は綺麗さっぱり消えていた。
地面を見れば濡れていたあとはあるので、氷は少し前には完全に溶けてしまったのかも知れない。
「何だか暑いな」
私に続いて暑さに気がついたのかエリザさんも家から出てくると、キョロキョロと周囲を見渡すと――、「アリーシャ! 氷が全部、無くなっているぞ!」と、話しかけてきた。
「そうですね」
私は、そのまま言葉を返しつつ、
「でも、あれだけの氷が一日で溶けるのはすごいな」
「いえ。どうやら町の人が氷を削って持っていった事も影響してるみたいです」
「そうなのか……。無断で、持って行くなんて許さないなっ」
「まぁ、減るものではありませんし」
「減ってるよな? 確実に!」
「そういう意味で、言った訳ではないのですけれどね」
とりあえず、私は昨日の夕方に作った氷の壁と同じ壁を作りだし家の周囲に配置。
「それではエリザさん。朝食を食べましたら、周りの家にご挨拶に伺いましょう。もしかしたら氷を削りにきた人達のことで、迷惑をかけているかも知れませんし」
「そうだな……、貴族の中では挨拶は重要だからな」
そういえば貴族の場合は、王都内で屋敷の都合をつけた場合、必ずパーティをする事が半ば義務化していたことを私は思い出す。
それは新しく屋敷を立て直した時も含まれる。
エリザさんも貴族などで、そのへんは重々承知しているみたいで、半ば当たり前に思っているみたい。
「そうですね。それでは、朝食を作りますね」
「それじゃ、私は風呂に入ってくるとするかな」
「それでは、お風呂を先に沸かしますね」
そのあとは朝食を食べ、二人して交互にお風呂に入ったあとは周りの建物の家主へと引っ越してきた旨を伝える為に向かう。
すると、商業ギルドの方から話が行っていたのか――、
「なんだい。アンタたちが、引っ越してきた住人なのか。それにしても一日で家を建てるなんて……。すごい魔法だね」
「へー、あの氷の壁は魔法で出したものなのか。あれのおかげで涼しかったよ」
「うちも氷をもらいに行っていいか?」
――など、特に嫌な感想もなく、氷が欲しいという家が多数あり、私は「壁の氷でしたら好きなだけ持っていってください」と、だけ言葉を返しておいた。
もちろん、周囲10件ほどの大きな屋敷の家主は喜んでくれていたので、特に問題は置き無さそうだった。
あと、問題と言えば……。
家に帰ると身なりのよろしくない方々が、石を使って私が作った氷の壁を削ってから、脱いだ洋服と言う名のボロ布に包んで持っていくのを目撃したくらい。
「……アリーシャ」
「はい」
「あれって、困っている人だよな?」
「そうですね」
どこの町でも、困っている人はいる。
ただ、いつでも誰でも手を差し伸べることはできない。
手を差し伸べることができるのは、裕福な人だけだから。
そして、私が住んでいる場所は大きな建物が多く、家主の方々も身なりがしっかりしているから、困ってはいない人だと思う。
地面を見れば濡れていたあとはあるので、氷は少し前には完全に溶けてしまったのかも知れない。
「何だか暑いな」
私に続いて暑さに気がついたのかエリザさんも家から出てくると、キョロキョロと周囲を見渡すと――、「アリーシャ! 氷が全部、無くなっているぞ!」と、話しかけてきた。
「そうですね」
私は、そのまま言葉を返しつつ、
「でも、あれだけの氷が一日で溶けるのはすごいな」
「いえ。どうやら町の人が氷を削って持っていった事も影響してるみたいです」
「そうなのか……。無断で、持って行くなんて許さないなっ」
「まぁ、減るものではありませんし」
「減ってるよな? 確実に!」
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とりあえず、私は昨日の夕方に作った氷の壁と同じ壁を作りだし家の周囲に配置。
「それではエリザさん。朝食を食べましたら、周りの家にご挨拶に伺いましょう。もしかしたら氷を削りにきた人達のことで、迷惑をかけているかも知れませんし」
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それは新しく屋敷を立て直した時も含まれる。
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「うちも氷をもらいに行っていいか?」
――など、特に嫌な感想もなく、氷が欲しいという家が多数あり、私は「壁の氷でしたら好きなだけ持っていってください」と、だけ言葉を返しておいた。
もちろん、周囲10件ほどの大きな屋敷の家主は喜んでくれていたので、特に問題は置き無さそうだった。
あと、問題と言えば……。
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「……アリーシャ」
「はい」
「あれって、困っている人だよな?」
「そうですね」
どこの町でも、困っている人はいる。
ただ、いつでも誰でも手を差し伸べることはできない。
手を差し伸べることができるのは、裕福な人だけだから。
そして、私が住んでいる場所は大きな建物が多く、家主の方々も身なりがしっかりしているから、困ってはいない人だと思う。
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