王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫

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第110話 後宮の噂話(11)第三者side

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「ここは……私は、一体……」

 意識がハッキリしないまま瞼を開けて室内を見渡すマレルダ。

「目が覚めたか」
「アナタ……、私……」
「フェンリルが害を及ぼすとは思っていなかった。だから、エリーゼの見送りにはいかなかったが……、まさか意識を失ったとは……」

 寝室のベッドで横になっていた王妃。
 そのベッドの横で椅子に座り言葉静かにかたるフェルディナンド。
 
「あの子は行ってしまったの……」
「そうか。だが、もういいのではないか?」

 呆然と呟くマレルダを諭すように国王陛下は言葉を紡ぐ。

「――でも!」

 そんな彼の言葉に、ドレスの裾を握りしめ感情を高ぶらせて声をあげる王妃。
 そんな王妃の姿を見て、国王であるフェルディナンドは、彼女の目を見ながら口を開く。

「あの子は、サラの代わりではない。お前が、エリーゼを自分の娘のように思っていることは分かっているが、亡くなった娘の影を、エリーゼに被せるのは止しなさい」
「分かっているわ……」

 マレルダは、フェルディナンドの言葉に目を伏せる。
 その肩は震えていて――。

「あの子が……エリーゼが、サラとは違うって分かっているの。でも! 仕方ないじゃないの! エリーゼは、聖女としての力を持っているのよ! あの子と同じ力を持っているの!」
「分かっている。だからと言って、エリーゼを実の娘のように考えるのは間違っているだろう? そのくらいは、マレルダ、お前も分かっているはずだ」
「――でも!」
「エリーゼが王宮に上がって来るまでは、娘を失ったお前が、もぬけの殻だった事は誰もが知っている。だから、誰もが強くは言い出せなかった」
「そうよ! エリーゼは、サラと全く同じ容姿なの! 声だって、きっと15歳まで生きていれば同じだったに違いないわ!」
「それでも、エリーゼはエリーゼであって、サラはサラであろう?」
「そんなこと……わかっているわ! でも、アナタだって、エリーゼのことを大事に思っているのよね! だって、私に、あの子を解放するようにって、アナタが言ってきたのだから!」
「ああ、だから言っただろう? エリーゼはエリーゼだと」
「……どうして、分からないの! エリーゼは、サラの生まれ代わりなのよ! 娘が死んで、それですぐに生まれてきたのがサラと瓜二つのエリーゼなの! あの子は、私の娘なのよ! それなのに……、あのフェンリルは……」

 フェルディナンドの声が、まるでマレルダには届かない。
 彼女は、ドレスの裾を強く握り閉めて、何度も「あの子は……、私の娘の生まれ代わりなのに……」と呟いている。

「だから、無茶な要求をしてまで引き留めようとしたのか?」

 そんなマレルダに、フェルディナンドは問いかける。
 無駄だと理解しながらも。

「そうよ! 母親が、娘のことを――! 娘のために思って行動する事に何が間違っていると思うの! エリーゼは、サラの生まれ代わりなの! 私の娘なのよ! レオンと、結婚していれば、私の娘に……、どうして――、どうして! みんな、私の邪魔をするのよ!」

 顔を上げたマレルダの瞳からは涙が零れ落ちていた。

「それでも、エリーゼは私達の娘ではないし、サラの生まれ変わりでもない」
「――ッ!」

 マレルダの言葉を否定するフェルディナンドの言葉。
 それは、彼女の感情を必死に押し殺している表情を歪ませるには十分であった。

「アナタには分からないの! じつのお腹を痛めて産んだ子供が死んだ気持ちが! だって、そうでしょう? あんなに瓜二つのエリーゼが、娘の生まれ代わりじゃなかったら……、そんなこと有り得るわけないもの」
「マレルダ……」

 エリーゼが、王宮から居なくなってからというもの、エリーゼの前では気丈に振る舞っている王妃であったが、普段は精神的に不安定な事になる事が多かった。
 そんなマレルダを見て、フェルディナンドは心の中で深い溜息をつく。
 本来であるなら、レオンとエリーゼが結婚していたのなら、マレルダが精神的に病むことはなかったのにと……。

 事実、妃教育としてエリーゼが5歳から王宮に上がってきた時には、マレルダは自身の娘を亡くしたばかりで死人のようになっていた。
 そんな彼女は、エリーゼと出会い、サラとエリーゼを重ねて見るようになり自身の娘として教育を施してきた。
 そう――、行き過ぎたと言われるまでに。

 ただ、誰もマレルダを止めることは出来なかった。
 それほど娘のサラを失ったマレルダの姿は、酷いものだったからだ。


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