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第107話 後宮の噂話(8)
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「でも、それは……」
「そうね。私の息子のレオンに原因があるのは分かっているわ」
私が原因を伝える前に王妃様は先制してくる。
どう私が答えるのか、すでに分かっていたのでしょう。
「でも、それと貴女が妃教育を受けて次期王妃として、国を支えるのとはまったく別のことだと思うのだけれども?」
「私は、レオン様に婚約破棄をされた身の上です。ですから、レオン様と結婚し国を支えるという大前提が無くなった以上、責任は生じないと考えておりますが……」
「貴女の言いたいことは分かるわ。でもね、よく考えてほしいの。貴女は、国にとって必要な人材なの。それは分かるわよね? それに、王妃として教育されてきたと言う事は、それだけの労力も掛かっているの」
「――ですから……」
「エリーゼ。貴女は、次期王妃として、本来であるのなら息子を諫める立場にあったの。それを、息子の一方的な言葉で、出奔するのは、私は如何なモノかと思うわ」
「王妃様、そうは言われますが……、私としても注意は致しました」
「でも、結果は変っていないわよね?」
「それは、結論ありきの話なのでは……」
「そもそも、どうして貴女は国を支える身でありながら、王都から去って辺境の地に行ったのかしら?」
「それは王妃様もフィルベール地方の館でご了承いただけましたよね?」
「理解は示したわ。でも、納得はしていないでしょう? 本来なら、王都に留まって貴女のご両親や私達に連絡をするべきだったでしょう? それを王城から失踪するなんて――」
失踪って……。
元々、レオン様から婚約破棄をしてきたのに、どうして私が攻められないといけないのか。
「そんな顔をしないでほしいわ。別に、貴女を攻めている訳ではないの。ただ、一般常識的に考えて、貴女のとった行動はよろしくないと注意をしているのよ? それを批判として受け取るのはどうかと思うわ」
「……私としては、あの時は、あれ以上の事が出来たとは思っておりません。レオン様に婚約破棄を申し渡されて、王都に滞在する事が出来るでしょうか?」
「それは貴女の個人的な感情であり見解よね?」
「それは……」
「第三者から見て、それを理解してくれる方がどれだけいるのか考えたことがあるの?」
「ですが……」
「貴女の行った行動は、10年以上もの間、妃教育を受けて来た貴族としては落第だと社交界の方々は普通に思うわ。そう、普通の貴族の令嬢ならね」
「私は普通ではないからと言う事でしょうか」
「そうね。貴方は、聖女の力を有しているもの。だから、周りは貴女の力の加護を得られていたから同情されていたのよ? 普通なら、批判されていてもおかしくないの。それほどの事を貴女はしていたのよ?」
「……でも、それはレオン様が原因では」
「何度も言っているでしょう? たとえ息子が原因だったとしても諭すのが王妃としての役目だと」
「それなら、私は王妃としては相応しくはないと思います」
「それは、貴女を王妃として決めた実の当主ルーカス公爵の決定に異議を唱えると言う事なのかしら?」
「それは……」
私は唇を噛みしめる。
当主の決定に異議を唱えるのは、絶対に行ってはいけないこと。
それは貴族社会では常識。
まして、私の一存で語っていい事ではないから。
「まぁいいわ。しばらく、後宮に滞在しなさい」
「え?」
「エリーゼ。いま対話をして分かったのだけれど……」
――え? 私、何か変な事を言った?
「貴女、自分が平民と同じように自由だと思っていない?」
「そんなことは……」
「だって貴女、法衣貴族や教会の承諾を得ずに貴女が貧困街で、炊き出しや治療を行っていたのよね?」
「はい……」
「それは絶対にしてはいけないと、貴女が小さなころに何度もきつく躾けたわよね」
「はい」
私が頷くと王妃様は深く溜息をつく。
「貴女が王城で暮らしていた時は、もっと思慮深く従順な子だったのに……、辺境で暮らすようになって毒されてしまったようね」
「そんなことは――」
「エリーゼ。貴女は、平民とは身分と立場が違うの。そこを理解しなさい」
「それでは王妃様は、貧民街の方の事に関しては見ていればよかったと?」
「そうね」
「……それは、死に瀕している方が居たら……」
「貴族や教会との間で不協和音が発生したら、それ以上のことが起きるということを貴女も分かるでしょう? それなら少ない犠牲で、国政を取り仕切るのが王家としては正しいでしょう? 私は、エリーゼに人の命を天秤にかけて行動するように教えたはずよね?」
「でも、私は……」
「そうね。辺境で暮らしている間に余計な情を得てしまったのよね?」
「違います! 命は、みんな同じ重さだと知っています。だから――」
私が言い終える前に王妃様は椅子から立ち上がってしまう。
「しばらくは、自身の立場を考えてみなさい。貴女が、軽率な行動のせいで、どれだけの人が迷惑を被ったのか見つめ直すまでは後宮に滞在しなさい」
それだけ話すと王妃様へ部屋から出ていってしまう。
「そうね。私の息子のレオンに原因があるのは分かっているわ」
私が原因を伝える前に王妃様は先制してくる。
どう私が答えるのか、すでに分かっていたのでしょう。
「でも、それと貴女が妃教育を受けて次期王妃として、国を支えるのとはまったく別のことだと思うのだけれども?」
「私は、レオン様に婚約破棄をされた身の上です。ですから、レオン様と結婚し国を支えるという大前提が無くなった以上、責任は生じないと考えておりますが……」
「貴女の言いたいことは分かるわ。でもね、よく考えてほしいの。貴女は、国にとって必要な人材なの。それは分かるわよね? それに、王妃として教育されてきたと言う事は、それだけの労力も掛かっているの」
「――ですから……」
「エリーゼ。貴女は、次期王妃として、本来であるのなら息子を諫める立場にあったの。それを、息子の一方的な言葉で、出奔するのは、私は如何なモノかと思うわ」
「王妃様、そうは言われますが……、私としても注意は致しました」
「でも、結果は変っていないわよね?」
「それは、結論ありきの話なのでは……」
「そもそも、どうして貴女は国を支える身でありながら、王都から去って辺境の地に行ったのかしら?」
「それは王妃様もフィルベール地方の館でご了承いただけましたよね?」
「理解は示したわ。でも、納得はしていないでしょう? 本来なら、王都に留まって貴女のご両親や私達に連絡をするべきだったでしょう? それを王城から失踪するなんて――」
失踪って……。
元々、レオン様から婚約破棄をしてきたのに、どうして私が攻められないといけないのか。
「そんな顔をしないでほしいわ。別に、貴女を攻めている訳ではないの。ただ、一般常識的に考えて、貴女のとった行動はよろしくないと注意をしているのよ? それを批判として受け取るのはどうかと思うわ」
「……私としては、あの時は、あれ以上の事が出来たとは思っておりません。レオン様に婚約破棄を申し渡されて、王都に滞在する事が出来るでしょうか?」
「それは貴女の個人的な感情であり見解よね?」
「それは……」
「第三者から見て、それを理解してくれる方がどれだけいるのか考えたことがあるの?」
「ですが……」
「貴女の行った行動は、10年以上もの間、妃教育を受けて来た貴族としては落第だと社交界の方々は普通に思うわ。そう、普通の貴族の令嬢ならね」
「私は普通ではないからと言う事でしょうか」
「そうね。貴方は、聖女の力を有しているもの。だから、周りは貴女の力の加護を得られていたから同情されていたのよ? 普通なら、批判されていてもおかしくないの。それほどの事を貴女はしていたのよ?」
「……でも、それはレオン様が原因では」
「何度も言っているでしょう? たとえ息子が原因だったとしても諭すのが王妃としての役目だと」
「それなら、私は王妃としては相応しくはないと思います」
「それは、貴女を王妃として決めた実の当主ルーカス公爵の決定に異議を唱えると言う事なのかしら?」
「それは……」
私は唇を噛みしめる。
当主の決定に異議を唱えるのは、絶対に行ってはいけないこと。
それは貴族社会では常識。
まして、私の一存で語っていい事ではないから。
「まぁいいわ。しばらく、後宮に滞在しなさい」
「え?」
「エリーゼ。いま対話をして分かったのだけれど……」
――え? 私、何か変な事を言った?
「貴女、自分が平民と同じように自由だと思っていない?」
「そんなことは……」
「だって貴女、法衣貴族や教会の承諾を得ずに貴女が貧困街で、炊き出しや治療を行っていたのよね?」
「はい……」
「それは絶対にしてはいけないと、貴女が小さなころに何度もきつく躾けたわよね」
「はい」
私が頷くと王妃様は深く溜息をつく。
「貴女が王城で暮らしていた時は、もっと思慮深く従順な子だったのに……、辺境で暮らすようになって毒されてしまったようね」
「そんなことは――」
「エリーゼ。貴女は、平民とは身分と立場が違うの。そこを理解しなさい」
「それでは王妃様は、貧民街の方の事に関しては見ていればよかったと?」
「そうね」
「……それは、死に瀕している方が居たら……」
「貴族や教会との間で不協和音が発生したら、それ以上のことが起きるということを貴女も分かるでしょう? それなら少ない犠牲で、国政を取り仕切るのが王家としては正しいでしょう? 私は、エリーゼに人の命を天秤にかけて行動するように教えたはずよね?」
「でも、私は……」
「そうね。辺境で暮らしている間に余計な情を得てしまったのよね?」
「違います! 命は、みんな同じ重さだと知っています。だから――」
私が言い終える前に王妃様は椅子から立ち上がってしまう。
「しばらくは、自身の立場を考えてみなさい。貴女が、軽率な行動のせいで、どれだけの人が迷惑を被ったのか見つめ直すまでは後宮に滞在しなさい」
それだけ話すと王妃様へ部屋から出ていってしまう。
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