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第72話 王都へ行きましょうⅡ(2)

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 書類に関して目を通し、徹夜に近い作業を行った結果――、何とか署名を含めて終わらせる事ができた。

「んーっ」

 私は、両手を上げながら背伸びをしたあと、深く溜息をつく。
 それと同時に、近くに控えていたウルリカが紅茶を差しだしてくる。
 それを口にしながら、小さく息を吐く。

「さすがに、この年になりますと徹夜作業は疲れますな」
「アルさんは、王都で文官をしていた時代は、よく徹夜作業などをしていたのですか?」
「そうですな。そもそも、そういう事が多く妻も苦言をよく呈しておりました」
「妻? アルさんは、結婚していらしたのですか?」
「貴族なら当然ですな」
「あっ……ごめんなさい」
「どうか気にせずに。そもそも、いまは妻には先立たれ現在、私が当主をしておりました貴族家は、息子が継いでおりますので」
「そうなのですか……」

 アルさんと会話をしつつ、ふと気になったことがあった。
 イオス村のアルさんが、お父様と繋がりがあってイオス村の村長になったという話は以前に伺ってはいたけど、貴族家の元・当主であるのなら息子さんからある程度の仕送りはあってもいいのではないのかと?
 イオス村の建物は、王都だけではなく地方領主の町と比べても別段、良いとは言えないと思う。
 本来、貴族として生きてきたのなら――、とくに当主であったのなら、それなり見栄えを求めるのが普通で……。
 たとえ、アルさんが求めてないと言っても彼の息子などが気を利かせる。
 対外的に見て、それなりの生活をしていると見せるのが貴族としては常識で当たり前の事だから。

「どうかなさいましたかな?」
「――いえ。とくには……」
「ほっほっほっ。エリーゼ様としては、私の住まいが気になったのですかな?」
「そういう訳では……」

 思わず心に思っていたことを当てられてしまい直視できずに目を背けてしまう。

「いいのです。そもそも息子とは、仲が良いとは言えませんからな」
「そうなのですか」
「ええ。中央では文官――、官僚として働いておりましたが仕事を優先していた為、殆ど家に帰ることはありませんでしたからな」

 アルさんは話ながら、羽ペンをテーブルの上に置いたあと、口を開く。

「息子としては、滅多に帰ってこない父親を嫌うのは当然でしょう」
「――ですが、それは普通なのでは……」
「そうですな。ただ、それが画一的な事だというのは傲慢でもありましょう?」
「それはそうですけど……。アルさんが文官として国の為に働いていたから、貴族家として生活出来ていたのですよね?」
「……それは、結果論でしかないのです」
「……」
「物事には過程を大事にする者もおります」
「そうですわね」

 たしかに、結論ではなく過程を大事にする方は多い。
 そして――、それは往々にして結果を重要視されてない方に多いと習ったことがある。
 だけど、国を運営していく以上、過程がどんなに良くても結果が駄目なら、過程には何の意味もない。
 何故なら、国の運営というのは結果ありきだから。
 結果を出せない国王や王妃には人望が集まることは殆どないのだから。
 

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