王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

第47話 精霊様が来られました。

『エリーゼ』
「……」

　声が聞こえる。

『起きなさい。エリーゼ』
「……」

　とりあえず、瞼を閉じたまま二度寝しようっと。

『起きなさい！　エリーゼ！　二度寝しようとしているのは分かっているのですよ！』
「……おはようございます。精霊様」

　私は、しかたなく瞼を開けて欠伸をしながら言葉を返す。

『おはようではありませんよ？　エリーゼ』
「そうなのですか？　そしたら、こんにちわですか？」
『寝ることから離れなさい。エリーゼ』

　私が起き上がる。
　そこは今まで見た事が無い場所。
　私の足元には、白くモフモフしている雲がずーっと続いていて、まるで毛の深い絨毯の上に立っているような感じ。

「ここはどこなのですか？　精霊様」

　私は目の前に立っている女性へと視線を向ける。
　髪の色は緑色で、耳は長く、鼻筋の通った面持ちに大きめの瞳が印象的な同じ女性から見ても羨望の眼差しを向けられること間違いなしの方。
　体全体は、金色の光を纏っていることから、人ではないことは容易に想像がつく。
　精霊様は、左右の目の色が違っていて、金色と銀色のオッドアイ。
　その瞳で私を見てくると、口を開く。

『ここは死後の世界へと通じる際に通る天界領域です』
「そうなのですか……」

　雲の切れ目からは、下に町や森が見えることから空の上だというのは何となく分かってしまうけれど……、って……あれ？

「あの……。精霊様」
『どうかしたのですか？　愛し子よ』
「ここが死後の世界に向かう時の通り道ということは、私は死んだのですか？」

　どうして、死んだのかまったく想像がつかない。
　
『あなたは温泉で寝ている間に、熱中症を発症し、そのまま溺れたのです。こんな馬鹿な死に方をした人を見たのは初めてです』
「そんなに褒めなくても」
『褒めていませんからね。注意をしていますからね』
「あ、はい……。それで、私は、これからどうなるのでしょう？」
『さすがに精霊の加護を得ている者が、温泉で寝ていたら死んだというのは、人類史上初めてです。天界、精霊界でも貴女の死に方が大問題になっていますので、今回は不問とする事にしました』

　精霊様が溜息交じりにそう話してきます。
　
「ということは生き返れるということですか？」
『さすがに、こんなバカバカしい死に方をしたら私達精霊の力も疑われ信仰心が揺らぎます。死ぬ時には、もう少しまともな死に方をしてください』
「たとえば、どんな死に方ですか？」
『英雄や聖女らしい死に方をしてください。さすがに、今回のような死に方は、地界の者達も呆れていました』
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
『いえ、いつかこうなるとは思っていましたので。それよりエリーゼ』
「はい」
『王都へは戻らないのですか？』
「此処の方が楽ですので――、モフモフもありますし」
『まったく、貴女は……。フェンリルを行かせたのは失敗だったようですね』
「全然、失敗ではないです！　モフモフは最高です！」

　私は精霊様にお伝えする。

『とりあえず、もう少し思慮深く行動をしてください。何度も助けるのは天界と精霊界の法に触れますので』
「分かりました……。それで、戻るにはどうすればいいのですか？」
『目を閉じて寝れば戻れます』
「分かりましたっ」

　私は、その場で横になって――。

『あっ、エリーゼ。言っておかなければ――、って！？　この子、もう寝ている！？』

　最後に、精霊様が何か言っているような気がしましたけど、良く聞こえなかったのです。



「エリーゼ様！」

　悲痛な声が聞こえてくる。
　薄っすらと瞼を開けると目の前にはウルリカが居て――、間近にはカーネルさんも居た。

「ウルリカ？」
「エリーゼ様！　カーネルさん、エリーゼ様が目を覚ましました！」
「本当か！？」

　二人のあわただしい声が聞こえてきました。