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第37話 エリーゼに関しての話(2)第三者視点
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国を担う上位貴族の大半が占める会議室にて話が終わり、国王陛下が退出したあとは、次々と貴族たちが部屋から出ていく。
「ルーカス公爵殿」
そんな中、メレンドルフ公爵家――、つまりエリーゼの父親に話しかける人物がいた。
「これはノルマン伯爵、どうかなさいましたかな?」
「もう立ち直られましたか? ご息女は」
その言葉に、会議室から出て行こうとしていた貴族たちの足がピタリと止まる。
「はい。当家が管理している飛び地の領内でゆっくりと過ごしています」
「そうですか……。本当に、痛ましいことです。あの王子が、婚約破棄など発言しなければ……。いや、そもそも、あんな王子にご息女が嫁がれなかった事を喜ぶべきか……」
「ノルマン伯爵殿。その言い方は王国に反意があると思われてしまいますぞ?」
「――ですが! 公爵殿のご息女は、よく頑張っておられました。それは、ここに集まっている貴族なら誰でも知っていることですし、何よりも――」
「ルーカス殿、ノルマン殿。ここで、そのような物騒な物言いは良くはないのでは?」
二人の間に入ってきたのは――、
「アレキサンドロス殿」
まさかの、いつも静観する立場をとっていた法王の仲裁。
その光景に貴族の誰もが目を疑う。
我関せずが精霊教会の基本的な立場であり、今回の会議での発言すら異例中の異例であったからだ。
「何、ルーカス殿は問題ないと思いますが、ノルマン殿は、些か発言に気を付けた方がよろしいかと」
「……申し訳ない」
法王から直接指摘を受けたノルマンは謝辞を示す。
「――ただ……」
さらに法王アレキサンドロスは口を開く。
「いや、何でもない。私はこれで帰らせてもらいます」
それだけ言うと法王アレキサンドロスは部屋から出ていく。
その後ろ姿を見送った会議室内の貴族たちは、法王が何を言いかけたのかと気を掛ける事しかできなかった。
城から出たあと、法王は精霊教会の意匠が彫られた質素な馬車へと乗る。
馬車は、すぐに走り出す。
「法王様」
すでに馬車に乗っていた人物が、法王アレキサンドロスに話しかけた。
「エドワード枢機卿。調査の方は済んだのか?」
「はい。エリーゼ様の居場所が判明しました。どうやら辺境の地であるフェルベール地方の更に辺境の村イオスにあるメレンドルフ公爵家所縁の屋敷に住んでいるようです」
「そうか……」
報告を受けて溜息をつくようにして、エドワード枢機卿の報告に頷く法王。
「それにしてもエリーゼ様は、御労しいとしか言いようがありませんね」
「うむ。最初に、我が精霊教会に城での教育の合間に逃げてきた時に会った時は、本当に小さい子供であった」
「はい。私も、一緒に会いましたので……」
「あのような小さな幼子を幼少期の頃から王妃として育てる為に両親の元から離すなど、今の王家は腐っている」
ギリッと唇を噛みしめる法王アレキサンドロス。
その瞳には怒りの炎が燃え滾っていた。
「では、教会で保護を? エリーゼ様の回復魔法は教会のトップクラスの聖女や枢機卿ですら足元には――」
「馬鹿を言うな。精霊教会の身内を無償で幼子の体で、眠そうな体で無理をして抜け出してまで来て無償で治癒してくれたのだぞ? 精霊教会で保護をすれば、目の前の利益に目が眩んだ他の枢機卿に利用されるのがオチだ。そうならない為に、エリーゼの場所を調べたのだからな」
怒気を孕んだ声。
政争に巻き込むような発言をしたエドワード枢機卿を法王が睨みつけた。
その法王の眼力に、額から汗を流す枢機卿。
「――そ、そうでした……。私の妻も、エリーゼ様に治してもらいましたし……」
「うむ。だからこそ、精霊教会では保護はできん。遠くから見守ることしかできないのが辛いところではあるがな」
「そうですね。それと法王様」
「なんだ?」
「じつは他の枢機卿や大司教、司教などは、今回の王太子殿下のエリーゼ様への振る舞いについて憤っている者の多数おり、王太子殿下の廃嫡を訴える話が教会内であがっております」
「それは抑えておけ。王妃や国王が何を考えているのかは知らんが、孫同然のエリーゼを傷つけた事の始末は、私自ら手を下さねば気がすまんからな」
「はっ!」
「それと、話は変わるが、精霊の言葉を聞くことができる御子の件だが……」
「それに関しての報告はまだ……」
「そうか、とにかく精霊の御子に関しては、すぐに確保するように。我が精霊教会の聖女にする」
「教会の威信を強めるのなら、精霊の声を聞く御子を利用するのが一番だということですね」
「うむ。急げよ?」
「はい。早急に精霊教会の連絡網を使い精霊の御子の探索に当たらせます」
「うむ。期待しているぞ。それと私は2カ月ほど留守をする」
「2カ月もですか? どちらに?」
「たまには孫と思っておるエリーゼを見舞いにいかんとは」
「それは……。法王様だけ抜け駆けは……」
「何とでも言うがよい。それとお昼寝用の最上級枕を職人に作らせておけ」
「はい。エリーゼ様、御用達の職人に作らせておきます。教会でお昼寝をしていたエリーゼ様の枕と同じもので?」
「うむ。急げよ? どうやら、王妃もエリーゼの元に行ったらしいからの」
「それは……、また政争の道具に利用するつもりでしょうか?」
「おそらくな。精霊教会としては、全力で孫を守ってやらんとな」
「分かりました。では、教会暗部の精鋭をイオスの村に移住させて護衛を」
「ぬかるなよ?」
「はい。精霊教会の総力をかけて」
馬車は、王城から精霊教会へ向けて貴族街を疾走していくが、その間も馬車内ではエリーゼ身辺護衛計画は練られていくのであった。
「ルーカス公爵殿」
そんな中、メレンドルフ公爵家――、つまりエリーゼの父親に話しかける人物がいた。
「これはノルマン伯爵、どうかなさいましたかな?」
「もう立ち直られましたか? ご息女は」
その言葉に、会議室から出て行こうとしていた貴族たちの足がピタリと止まる。
「はい。当家が管理している飛び地の領内でゆっくりと過ごしています」
「そうですか……。本当に、痛ましいことです。あの王子が、婚約破棄など発言しなければ……。いや、そもそも、あんな王子にご息女が嫁がれなかった事を喜ぶべきか……」
「ノルマン伯爵殿。その言い方は王国に反意があると思われてしまいますぞ?」
「――ですが! 公爵殿のご息女は、よく頑張っておられました。それは、ここに集まっている貴族なら誰でも知っていることですし、何よりも――」
「ルーカス殿、ノルマン殿。ここで、そのような物騒な物言いは良くはないのでは?」
二人の間に入ってきたのは――、
「アレキサンドロス殿」
まさかの、いつも静観する立場をとっていた法王の仲裁。
その光景に貴族の誰もが目を疑う。
我関せずが精霊教会の基本的な立場であり、今回の会議での発言すら異例中の異例であったからだ。
「何、ルーカス殿は問題ないと思いますが、ノルマン殿は、些か発言に気を付けた方がよろしいかと」
「……申し訳ない」
法王から直接指摘を受けたノルマンは謝辞を示す。
「――ただ……」
さらに法王アレキサンドロスは口を開く。
「いや、何でもない。私はこれで帰らせてもらいます」
それだけ言うと法王アレキサンドロスは部屋から出ていく。
その後ろ姿を見送った会議室内の貴族たちは、法王が何を言いかけたのかと気を掛ける事しかできなかった。
城から出たあと、法王は精霊教会の意匠が彫られた質素な馬車へと乗る。
馬車は、すぐに走り出す。
「法王様」
すでに馬車に乗っていた人物が、法王アレキサンドロスに話しかけた。
「エドワード枢機卿。調査の方は済んだのか?」
「はい。エリーゼ様の居場所が判明しました。どうやら辺境の地であるフェルベール地方の更に辺境の村イオスにあるメレンドルフ公爵家所縁の屋敷に住んでいるようです」
「そうか……」
報告を受けて溜息をつくようにして、エドワード枢機卿の報告に頷く法王。
「それにしてもエリーゼ様は、御労しいとしか言いようがありませんね」
「うむ。最初に、我が精霊教会に城での教育の合間に逃げてきた時に会った時は、本当に小さい子供であった」
「はい。私も、一緒に会いましたので……」
「あのような小さな幼子を幼少期の頃から王妃として育てる為に両親の元から離すなど、今の王家は腐っている」
ギリッと唇を噛みしめる法王アレキサンドロス。
その瞳には怒りの炎が燃え滾っていた。
「では、教会で保護を? エリーゼ様の回復魔法は教会のトップクラスの聖女や枢機卿ですら足元には――」
「馬鹿を言うな。精霊教会の身内を無償で幼子の体で、眠そうな体で無理をして抜け出してまで来て無償で治癒してくれたのだぞ? 精霊教会で保護をすれば、目の前の利益に目が眩んだ他の枢機卿に利用されるのがオチだ。そうならない為に、エリーゼの場所を調べたのだからな」
怒気を孕んだ声。
政争に巻き込むような発言をしたエドワード枢機卿を法王が睨みつけた。
その法王の眼力に、額から汗を流す枢機卿。
「――そ、そうでした……。私の妻も、エリーゼ様に治してもらいましたし……」
「うむ。だからこそ、精霊教会では保護はできん。遠くから見守ることしかできないのが辛いところではあるがな」
「そうですね。それと法王様」
「なんだ?」
「じつは他の枢機卿や大司教、司教などは、今回の王太子殿下のエリーゼ様への振る舞いについて憤っている者の多数おり、王太子殿下の廃嫡を訴える話が教会内であがっております」
「それは抑えておけ。王妃や国王が何を考えているのかは知らんが、孫同然のエリーゼを傷つけた事の始末は、私自ら手を下さねば気がすまんからな」
「はっ!」
「それと、話は変わるが、精霊の言葉を聞くことができる御子の件だが……」
「それに関しての報告はまだ……」
「そうか、とにかく精霊の御子に関しては、すぐに確保するように。我が精霊教会の聖女にする」
「教会の威信を強めるのなら、精霊の声を聞く御子を利用するのが一番だということですね」
「うむ。急げよ?」
「はい。早急に精霊教会の連絡網を使い精霊の御子の探索に当たらせます」
「うむ。期待しているぞ。それと私は2カ月ほど留守をする」
「2カ月もですか? どちらに?」
「たまには孫と思っておるエリーゼを見舞いにいかんとは」
「それは……。法王様だけ抜け駆けは……」
「何とでも言うがよい。それとお昼寝用の最上級枕を職人に作らせておけ」
「はい。エリーゼ様、御用達の職人に作らせておきます。教会でお昼寝をしていたエリーゼ様の枕と同じもので?」
「うむ。急げよ? どうやら、王妃もエリーゼの元に行ったらしいからの」
「それは……、また政争の道具に利用するつもりでしょうか?」
「おそらくな。精霊教会としては、全力で孫を守ってやらんとな」
「分かりました。では、教会暗部の精鋭をイオスの村に移住させて護衛を」
「ぬかるなよ?」
「はい。精霊教会の総力をかけて」
馬車は、王城から精霊教会へ向けて貴族街を疾走していくが、その間も馬車内ではエリーゼ身辺護衛計画は練られていくのであった。
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