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第26話 お母様との会話

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 ――コンコン

「どうぞ――」
「失礼します」

 室内に入ると、お母様は着替えをすませていて、椅子に座って、お茶を嗜んでいた。
 ただ――、お父様の姿は……。
 
「あれ? お父様は?」
「ルーカスは、もう着替えて外に出ているわよ」
「――え?」
「村に行っただけだから、すぐに戻ってくるわ。ウルリカ」
「はい。すぐに――」
 
 ウルリカが椅子を引いたので、私もお母様に向き合う形で椅子に座った所で、ウルリカがお茶の用意をしていく。

「ウルリカ、少し席を外してもらえるかしら?」

 お茶の用意が終わったところで、お母様がウルリカに退出を命じた。
 それは、有無を言わさない威圧のある言葉で――。

「畏まりました。ルアナ様」

 ウルリカは恭しく頭を下げると部屋から出ていき扉が閉まった。

「さて――、エリーゼ」
「はい」
「レオン王太子殿下が、貴族たちの集う場において、一方的に婚約破棄を行ったという話は聞いたわ。それと、無礼を働いた男爵家の令嬢を貴女が許したとも――」
「えっ……一体どなたから?」
「マレルダ様の使い魔が教えてくれたのよ」
「王妃様の使い魔が……」
「そうね。高価な触媒を使ってまで使い魔を子爵家以上の爵位を持つ全ての貴族へと情報を送られたのよ?」
「そうなのですか。王妃様は、私との約束を守ってくださったのですね」
「ええ。そうね」

 そこで、お母様は小さく溜息をつくと――。

「エリーゼ。本当は、その場で殿下を御諫めするのが貴女の本来の役目だったのよ? マレルダ様からも、言われなかったかしら?」
「言われたような……」
「エリーゼもショックが大きかったから仕方ないのかも知れないわね。私達と引き離されて10年も王城で王妃の勉強をしていたものね。それなのに――」

 お母様は俯き――。

「戦争かしら?」
「――え?」

 今、不吉な言葉が聞こえてきたような気が……。

「何でもないわ。それよりも、マレルダ様は、エリーゼを王妃にするという考えは変わらないと思うわ。だって貴女は特別だもの」
「そうなのでしょうか……」
 
 私としては、爵位が高いだけで、あとは精霊の声や姿を見る事が出来るくらいで、私を王妃にする意味は、そんなにないと思うけど……。

「貴女は、人の悪意には鈍感よね。昔から――」

 何か、私、褒められているような気がしないです。

「あの、お母様。私、王妃には……」
「ええ、理解しているわ。貴女、昔から睡眠ばかりとっているものね。惰眠を貪る事が何よりも大事な貴女が王妃は、私は心配だったのよね。王城内では、とっても評価は高いみたいだけど。丁度、良かったじゃない? あの馬鹿から婚約破棄を言い渡してきたのだから」
「えっと……」
「それともレオン王太子殿下に対して何か特別な感情があるのかしら?」
「特にないです! まったくないです! お昼寝してダラダラと暮らして、美味しいご飯を食べて、もふもふして暮らしたいです!」
「そうよね。それが、小さい頃の貴女だったものね」

 途中で、お母様の顔色が少し曇ったような感じが……。

「エリーゼ。本当に嫌なら、貴女は王国に嫁ぐ必要はないわ」
「――え? でも、それですとメレンドルフ公爵家の立場は……」
「公爵家の立場なんてどうでもいいわ!」
「お母様?」
「いいえ。何でもないわ。とにかく、どんな理由があろうと貴女は、王宮には絶対に嫁いでは駄目なのよ? 分かった?」
「えっと嫁ぐつもりは無いです……」
「そう。それならいいのよ。とにかく――、何かあったら連絡を寄こしなさい。私は、いつもエリーゼの味方だから」

 お母様は、そう言うと立ち上がり、私を抱きしめてくる。
 強く、とても強く――。

「本当に何かあったら必ず連絡をしなさい」
「えっと……はい」

 
 
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