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第21話 王妃様が戻って来られました。

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 氷ついている雰囲気の中、私は二人を交互に見ながら、静かに後ずさりする。
 だって、こんな面倒な状況、私にはとても耐えられないから。

「それじゃ、レオン。私、実家に帰るから! うまく王妃に言っておいてね!」

 用事は済んだとばかりに、館から去っていくアドリナさん。
 そして、私は、それを見ながら静かに音を立てずに、館に入り、そっと音を立てないように扉を閉めた。

「良かったのですか? エリーゼ様」
「にゃっ!?」

 思わず変な声が出てしまった。
 さっきまで、ウルリカは、外に居たはずなのに、いったい何時の間に館の中に!?

「え、ええ。いいのよ……。殿方には、一人になりたい時間があるものなのよ?」
「エリーゼ!」

 ドンドンと館のドアが叩かれる。
 もちろん、その声はレオン様。

「エリーゼ様。レオン様が――」
「殿方には、一人にしてほしい時があるのよ」
「エリーゼ! 君に、話したいことがあるんだ!」
「エリーゼ様、さすがに……」
「わかっているわよ」

 さすがに相手は、腐っても王族。
 無視を決め込む訳にはいかないわよね。
 
「ウルリカ、少し心を落ち着かせる時間が欲しいの。中庭に、レオン様を通してもらえるかしら?」
「かしこまりました」

 私は、中庭に向かいながら、最悪の状況を想定していく。
 一番まずいのは、王城に連れ戻されること。
 ただ、救いなのは、レオン様の方から私に対して婚約破棄をしていること。
 それは、貴族の場では私や実家のメレンドルフ公爵家を蔑ろにしている行為そのもので……。
 その辺を考慮に入れると、普通なら再度、婚約を切り出してくる可能性は少ないと思う。

「そうすると……、私にごめんなさいって言ってくるだけなのかしら? いくら何でも、私に、アデリナさんと別れる場面を見せて、再度、婚約を申し込んでくる事は無いわよね? そんなことしたら、貴族社会だと貴族としての常識がないと思われるし……」

 一人、呟きながら中庭に出て椅子に座る。
 先ほど淹れてくれた紅茶はあるけど、すでに冷めてしまっている。
 だけど、私は気分を落ち着かせる為に口にする。

「エリーゼ様。レオン様を、ご案内してきました」
「ありがとう」

 私は、椅子から立ち上がり、冷静に振る舞うように努めながら貴族らしく優雅に「お久しぶりです。レオン様」と、挨拶をする。
 そんな私を見て、レオン様は、笑みを私に向けてくる。

「ああ、久しぶりだな。エリーゼ」
「はい。それよりも、レオン様」
「なんだい?」

 ウルリカの後ろにいたレオン様が、一気に距離を詰めてくる。
 もう手を伸ばせば届くまでの距離に。

「王城までの馬車を手配致しますので、今日中にお帰りになられた方がいいと思います。今は、護衛の方もいないようですし、アデリナ様をご心配なされて来られたのですよね?」
「それはそうだが……。いまの俺には……」

 すごく辛そうな顔をするレオン様。

「大丈夫です。人には一度や二度の失敗はあります」
「エリーゼ?」

 そう、ここで落ち込んでしまったら、とりあえず将来の国の運営が滞ってしまいます。
 私が、一日18時間寝てモフモフしている為には、安定した国の運営をして頂く必要があるのです。
 なので、元気づけるような事はさせていただきます。

「私なんて、何度も王妃教育で、何度も失敗して挫折した事があります。ですけれど、その度に王妃様から根気強く王妃としての教養を教えられました」
「そうか……」
「はい」

 そう、私は1時間ごとに10分しか休憩時間をもらえなくても、一日8時間しか睡眠をとらせて貰えない地獄のような環境でも、未来の王妃としての教育をスパルタ式に教わったのです!

「――ですから、レオン様も大丈夫です!」
「……君は、あんな仕打ちをした俺に対して、そこまで……」

 唇を噛みしめるレオン様。
 きっとアデリナさんとの関係を思い出しているのでしょうね。
 私は、そんなレオン様を見て――、

「はい。私はレオン様と……」

 元、婚約者でしたけど、心中は察しておりますので、頑張ってください! ですから、私のことは忘れて、そっとしておいてください! と言いかけたところで――「はい。そこまで!」と、唐突に私の言葉を遮る声が……。

 嫌な予感しかせずに声が聞こえた方へと視線を向ける。
 すると、そこには王妃様と、騎士の方に縄で縛られているアデリナさんの姿がありました。



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