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第19話 アデリナさんは、病に罹ったそうです。
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「そうね。本当に久しぶりね」
王妃様は、お城で何時も見かけるような煌びやかなドレスの姿ではないけれど、それでも一目で上級貴族と分かってしまうような、繊細なレースがあしらわれた絹のワンピースを着ていらっしゃる。
対して、私は普通に村娘が着るような麻で編まれたワンピース。
外で、魚釣りしたり畑を耕したり、山菜などを採っている私にとっては絹などのワンピースは汚れたらもったいないという思いからだったのだけど……。
王妃様は、私の爪先からてっぺんまで見てニコリと微笑んでくる。
「――あ、あの……王妃様」
「公的な場ではないのだから、 前にも言ったわよね? お義理母様って呼びなさいって。むしろ、お母様でもいいわよ」
「王妃様、それは流石に……。私、レオン様から婚約破棄を言い渡されましたし……。それよりも、どうして、こんな辺境の地までお越しになられたのですか?」
王妃様が扇子を広げられて――、口元を隠す。
「決まっているわ。バカ息子が、傷つけた貴女を元気づけようと見にきたに決まっているじゃないの」
本当かな?
基本的に、お城で王妃教育の指揮を執っていたのは、クラウディール王国のマレルダ王妃様で、私は5歳の時から色々な教養を一日8時間睡眠しか取らされずに、ずっと勉強にドレスに、諸外国の王族や貴族を相手にした話術などを叩きこまれた。
つまり……これは、何かの視察なのかも知れないですね。
私は、自分のモフモフ・ロードを守る為に意識を切り替え――頭をフル回転させつつ、笑顔を作り。
「とても嬉しいですわ」
王妃様に返答する。
「エリーゼ様、おかりなさいませ」
そこで、私が帰って来た事に気がついたのかウルリカがやってきて、私に話しかけてくる。
そして、ウルリカは、王妃様の方を見ると恭しく頭を下げると「マレルダ様、お茶の用意が整いました」と、話しかけていました。
中庭に移動した後は、ウルリカに紅茶を淹れてもらう。
口を一口つけたあとは、静かな――気まずい時間が流れ――、
「それで、何時まで、ここにいらっしゃるのですか? 国王様も、心配なさるのでは?」
「フェルディナンドは、何も言わないから大丈夫よ。それより、エリーゼ」
スウッと、私を射貫くように、私の瞳を見てくる王妃様。
「貴女、精霊と会話が出来るって聞いたけど?」
「は、はい」
「そう。私、すごくショックだったの」
「――え? 王妃様」
「お母様でもいいのに……、相変わらずエリーゼは頑固よね。その方が、調――じゃなくて教えがいがあるけど……。まあ、いいわ。わたくし、すごくショックだったのよ? 実の娘のように思っていたエリーゼが、わたくしに隠し事をしていたことに……」
王妃様は、金の刺繍の入ったハンカチで目元を拭う……そんな素振りを見せながら私をチラリと見てくる。
「ごめんなさい」
「……本当に悪いと思っているのかしら?」
「はい……」
隠し事をしていたのは事実なので、私は素直に謝る。
「そう……。でも大丈夫。知っていたから」
「…………」
謝って損した!
「ほら、エリーゼが本当に小さかった5歳の頃から、私が面倒を見ていたじゃない? あの時に精霊が見えるって教えてくれたもの。あの頃のエリーゼちゃんは、かわいかったわ。本当の娘にしようと貴族籍を王族籍に変えようと思ったのだけれど、フェルディナンドが許してくれなかったのよね」
「それは、さすがに……」
いくら王国の貴族の中で、最古参で、最上級の公爵家のメレンドルフ公爵家の娘であっても、王族籍に変更することなんて、貴族階級が壊れてしまうので無理なのです。
「ええ。分かっているわ。王家の血筋を絶やす訳にもいかないのは。それで、エリーゼちゃんには、実の娘のように接してきたつもりなのよ?」
じつの娘のように接してきて、あの地獄のような王妃修行をさせるとか、恐怖でしかないのだけれど……。
「それに、へんな下級貴族の血を入れたら、それこそ王家を支持している上級貴族に示しがつかないのは分かっているわよね?」
「は、はい……」
「そう。分かってくれて良かったわ。もう心の傷も癒えているようだし、王都に一緒に戻りましょうか」
「――え?」
「ご両親に許可は貰っているわ。貴族同士のみならず王族と貴族の婚姻の理由、忘れた訳ではないわよね? エリーゼちゃん」
「それは分かっております」
高位の貴族の令嬢は、王族に嫁ぎ男児を産み育み血筋を残していく。
そして、国母としての諸外国の王族や貴族の相手も外交面で軽やかに対応していく必要もあり、民衆の心も掴まないといけない。
それが、王族に嫁ぐ貴族令嬢の役目であり、絶対にやりたくないこと。
だからこそ、やってくれると言ってくれた恩人のアデリナさんにレオン様を譲ったのに……。
「――で、ですが、レオン様は、アデリナ様と婚姻を……」
「ええ。分かっているわ。でもね……」
すると、王妃様は落ち込んだ様子を見せて――。
「じつはね……、アデリナは、病に罹ってしまったの」
「――え? それは!? す、すぐに私が治して――」
無意識のうちに私は呟いていた。
このままでは、私のモフモフな生活が、モフモフ・ロードが無くなってしまうのです!
王妃様は、お城で何時も見かけるような煌びやかなドレスの姿ではないけれど、それでも一目で上級貴族と分かってしまうような、繊細なレースがあしらわれた絹のワンピースを着ていらっしゃる。
対して、私は普通に村娘が着るような麻で編まれたワンピース。
外で、魚釣りしたり畑を耕したり、山菜などを採っている私にとっては絹などのワンピースは汚れたらもったいないという思いからだったのだけど……。
王妃様は、私の爪先からてっぺんまで見てニコリと微笑んでくる。
「――あ、あの……王妃様」
「公的な場ではないのだから、 前にも言ったわよね? お義理母様って呼びなさいって。むしろ、お母様でもいいわよ」
「王妃様、それは流石に……。私、レオン様から婚約破棄を言い渡されましたし……。それよりも、どうして、こんな辺境の地までお越しになられたのですか?」
王妃様が扇子を広げられて――、口元を隠す。
「決まっているわ。バカ息子が、傷つけた貴女を元気づけようと見にきたに決まっているじゃないの」
本当かな?
基本的に、お城で王妃教育の指揮を執っていたのは、クラウディール王国のマレルダ王妃様で、私は5歳の時から色々な教養を一日8時間睡眠しか取らされずに、ずっと勉強にドレスに、諸外国の王族や貴族を相手にした話術などを叩きこまれた。
つまり……これは、何かの視察なのかも知れないですね。
私は、自分のモフモフ・ロードを守る為に意識を切り替え――頭をフル回転させつつ、笑顔を作り。
「とても嬉しいですわ」
王妃様に返答する。
「エリーゼ様、おかりなさいませ」
そこで、私が帰って来た事に気がついたのかウルリカがやってきて、私に話しかけてくる。
そして、ウルリカは、王妃様の方を見ると恭しく頭を下げると「マレルダ様、お茶の用意が整いました」と、話しかけていました。
中庭に移動した後は、ウルリカに紅茶を淹れてもらう。
口を一口つけたあとは、静かな――気まずい時間が流れ――、
「それで、何時まで、ここにいらっしゃるのですか? 国王様も、心配なさるのでは?」
「フェルディナンドは、何も言わないから大丈夫よ。それより、エリーゼ」
スウッと、私を射貫くように、私の瞳を見てくる王妃様。
「貴女、精霊と会話が出来るって聞いたけど?」
「は、はい」
「そう。私、すごくショックだったの」
「――え? 王妃様」
「お母様でもいいのに……、相変わらずエリーゼは頑固よね。その方が、調――じゃなくて教えがいがあるけど……。まあ、いいわ。わたくし、すごくショックだったのよ? 実の娘のように思っていたエリーゼが、わたくしに隠し事をしていたことに……」
王妃様は、金の刺繍の入ったハンカチで目元を拭う……そんな素振りを見せながら私をチラリと見てくる。
「ごめんなさい」
「……本当に悪いと思っているのかしら?」
「はい……」
隠し事をしていたのは事実なので、私は素直に謝る。
「そう……。でも大丈夫。知っていたから」
「…………」
謝って損した!
「ほら、エリーゼが本当に小さかった5歳の頃から、私が面倒を見ていたじゃない? あの時に精霊が見えるって教えてくれたもの。あの頃のエリーゼちゃんは、かわいかったわ。本当の娘にしようと貴族籍を王族籍に変えようと思ったのだけれど、フェルディナンドが許してくれなかったのよね」
「それは、さすがに……」
いくら王国の貴族の中で、最古参で、最上級の公爵家のメレンドルフ公爵家の娘であっても、王族籍に変更することなんて、貴族階級が壊れてしまうので無理なのです。
「ええ。分かっているわ。王家の血筋を絶やす訳にもいかないのは。それで、エリーゼちゃんには、実の娘のように接してきたつもりなのよ?」
じつの娘のように接してきて、あの地獄のような王妃修行をさせるとか、恐怖でしかないのだけれど……。
「それに、へんな下級貴族の血を入れたら、それこそ王家を支持している上級貴族に示しがつかないのは分かっているわよね?」
「は、はい……」
「そう。分かってくれて良かったわ。もう心の傷も癒えているようだし、王都に一緒に戻りましょうか」
「――え?」
「ご両親に許可は貰っているわ。貴族同士のみならず王族と貴族の婚姻の理由、忘れた訳ではないわよね? エリーゼちゃん」
「それは分かっております」
高位の貴族の令嬢は、王族に嫁ぎ男児を産み育み血筋を残していく。
そして、国母としての諸外国の王族や貴族の相手も外交面で軽やかに対応していく必要もあり、民衆の心も掴まないといけない。
それが、王族に嫁ぐ貴族令嬢の役目であり、絶対にやりたくないこと。
だからこそ、やってくれると言ってくれた恩人のアデリナさんにレオン様を譲ったのに……。
「――で、ですが、レオン様は、アデリナ様と婚姻を……」
「ええ。分かっているわ。でもね……」
すると、王妃様は落ち込んだ様子を見せて――。
「じつはね……、アデリナは、病に罹ってしまったの」
「――え? それは!? す、すぐに私が治して――」
無意識のうちに私は呟いていた。
このままでは、私のモフモフな生活が、モフモフ・ロードが無くなってしまうのです!
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