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第11話 仔犬のお母さんがいました。
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それから、すぐに――。
「隊長! 見つけました! 森の中ではなく屋根裏に大きなフェンリルが!」
「分かった。総員、戦闘配置!」
次から次へと館に入っていこうとする人達を見ながら、私は思ってしまう。
カーネルさんや、ウルリカは、フェンリルは、すごく危険な生き物だって話をしているけど、それって、私の腕の中で寝ている仔犬の母親だよねって。
「待ってください」
気がつけば、私は館の入り口に立っていた。
「お嬢様?」
「エリーゼ、どうかしたのか?」
「皆さん、フェンリルさんを排除しようとしていますか?」
「排除ではなく討伐だ」
カーネルさんの即答。
討伐って……、それって殺されちゃうってことだよね。
「あの! この子の、お母さんですよね? 屋根裏部屋にいるのって……」
「そうだな。フェンリルは基本的に母が子を育てるからな」
「――でも、フェンリルってドラゴンより強いんですよね?」
冒険者の皆様は、全員が神妙な面持ちでコクリと頷く。
「私は誰にも怪我をしてほしくないです。怪我をすると痛いです。魔法で傷を治すことは出来ても痛いのは変わらないです」
「そんなことは分かっている。そういう覚悟が持って冒険者をしている。怪我を恐れないのは問題だが、恐れすぎるのも良くない」
私は、コクリと頷く。
「それでしたら、私が一度、この仔犬を連れて母親に会いに行ったらダメですか?」
「ダメだ!」
「仔犬を返せば帰ってくれるかも知れませんから」
「話が通じるなら魔物とは言わない。魔物というのは道理が通じるモノではない」
「……お願いします。一度でいいから、チャンスをください。カーネルさんは、すごい冒険者だって、みんな知っています。だから、ほんの少しでいいので、フェンリルさんと話すお時間をくれませんか?」
「……エリーゼ様」
「分かっているわ。魔物は話すことが出来ないと冒険者の方々が仰るのでしたら間違いないのでしょう。――でも、私は冒険者の皆様にも怪我をして欲しくありませんし、この仔犬にもお母さんと離れるような悲しい思いは――、私みたいな思いはさせたくないんです……」
私は王妃教育を受けるために、5歳の頃から大好きな両親と引き離されていたから、そういう思いは、誰かにしてほしくない。
「どういうことだ?」
「カーネル。エリーゼ様は、王妃教育を受けるために5歳で両親から離されて王城で教育を受けていたのです。おそらく、仔犬の母犬を私達が討伐したらと思うと、居ても経っても居られなくなったのではと思います」
ウルリカの、その言葉にカーネルさんは、瞼を閉じて長考してしまう。
どれだけの時間か分からない。
ただ……「仕方ないな」と、一言呟くと、私をまっすぐに見てきた。
「…………分かった。少しの間だけだぞ?」
「ありがとうございます」
私は頭を下げる。
無理なお願いだというのは自覚していたから。
これは私の我儘。
だけど、ここで何もしなかったら絶対に後悔する。
その確信だけはあった。
それからすぐにカーネルさん、ウルリカを先頭にして、私達は屋根裏部屋へ続く階段を上がる。
屋根裏に到着すると、屋根の一部に大きな穴が空いていた。
「あの穴から入ったのか」
「みたいですね」
カーネルさんとウルリカは、屋根を見て呟き――、別の冒険者の方が「あれが、フェンリルか……」と呟いた。
その冒険者の方は、一点を見つめながら呟いたあと唾を呑み込んでいた。
私は、冒険者の視線が集まっている方へと視線を向ける。
すると、そこには体長4メートルくらいの大きな白銀の狼が座って、こちらを見ていた。
私が視線を向けると、狼は、すぐに視線を私へと向けてくる。
交差する私と狼の視線。
すると、狼は大きな口を開いた。
そして――、「なるほど、精霊王の言った通りの娘だ。これなら私の子らを託すのも問題ない」と、流暢な言葉で、話しかけてきた。
「隊長! 見つけました! 森の中ではなく屋根裏に大きなフェンリルが!」
「分かった。総員、戦闘配置!」
次から次へと館に入っていこうとする人達を見ながら、私は思ってしまう。
カーネルさんや、ウルリカは、フェンリルは、すごく危険な生き物だって話をしているけど、それって、私の腕の中で寝ている仔犬の母親だよねって。
「待ってください」
気がつけば、私は館の入り口に立っていた。
「お嬢様?」
「エリーゼ、どうかしたのか?」
「皆さん、フェンリルさんを排除しようとしていますか?」
「排除ではなく討伐だ」
カーネルさんの即答。
討伐って……、それって殺されちゃうってことだよね。
「あの! この子の、お母さんですよね? 屋根裏部屋にいるのって……」
「そうだな。フェンリルは基本的に母が子を育てるからな」
「――でも、フェンリルってドラゴンより強いんですよね?」
冒険者の皆様は、全員が神妙な面持ちでコクリと頷く。
「私は誰にも怪我をしてほしくないです。怪我をすると痛いです。魔法で傷を治すことは出来ても痛いのは変わらないです」
「そんなことは分かっている。そういう覚悟が持って冒険者をしている。怪我を恐れないのは問題だが、恐れすぎるのも良くない」
私は、コクリと頷く。
「それでしたら、私が一度、この仔犬を連れて母親に会いに行ったらダメですか?」
「ダメだ!」
「仔犬を返せば帰ってくれるかも知れませんから」
「話が通じるなら魔物とは言わない。魔物というのは道理が通じるモノではない」
「……お願いします。一度でいいから、チャンスをください。カーネルさんは、すごい冒険者だって、みんな知っています。だから、ほんの少しでいいので、フェンリルさんと話すお時間をくれませんか?」
「……エリーゼ様」
「分かっているわ。魔物は話すことが出来ないと冒険者の方々が仰るのでしたら間違いないのでしょう。――でも、私は冒険者の皆様にも怪我をして欲しくありませんし、この仔犬にもお母さんと離れるような悲しい思いは――、私みたいな思いはさせたくないんです……」
私は王妃教育を受けるために、5歳の頃から大好きな両親と引き離されていたから、そういう思いは、誰かにしてほしくない。
「どういうことだ?」
「カーネル。エリーゼ様は、王妃教育を受けるために5歳で両親から離されて王城で教育を受けていたのです。おそらく、仔犬の母犬を私達が討伐したらと思うと、居ても経っても居られなくなったのではと思います」
ウルリカの、その言葉にカーネルさんは、瞼を閉じて長考してしまう。
どれだけの時間か分からない。
ただ……「仕方ないな」と、一言呟くと、私をまっすぐに見てきた。
「…………分かった。少しの間だけだぞ?」
「ありがとうございます」
私は頭を下げる。
無理なお願いだというのは自覚していたから。
これは私の我儘。
だけど、ここで何もしなかったら絶対に後悔する。
その確信だけはあった。
それからすぐにカーネルさん、ウルリカを先頭にして、私達は屋根裏部屋へ続く階段を上がる。
屋根裏に到着すると、屋根の一部に大きな穴が空いていた。
「あの穴から入ったのか」
「みたいですね」
カーネルさんとウルリカは、屋根を見て呟き――、別の冒険者の方が「あれが、フェンリルか……」と呟いた。
その冒険者の方は、一点を見つめながら呟いたあと唾を呑み込んでいた。
私は、冒険者の視線が集まっている方へと視線を向ける。
すると、そこには体長4メートルくらいの大きな白銀の狼が座って、こちらを見ていた。
私が視線を向けると、狼は、すぐに視線を私へと向けてくる。
交差する私と狼の視線。
すると、狼は大きな口を開いた。
そして――、「なるほど、精霊王の言った通りの娘だ。これなら私の子らを託すのも問題ない」と、流暢な言葉で、話しかけてきた。
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