バイスクル

その9

夜十一時、おそらく、トモの自宅では両親は眠り、トモだけが起きているはずの時間。
そして、死のうとするには、早すぎるであろう時間。
名簿から書き写した電話番号のメモを握りしめる。十円玉は３枚だけ。市外だから、一度掛け間違ったらアウトだ。最近ではすっかりみなくなった赤電話の受話器をもちあげて、ゆっくりダイヤルをまわす。


「……もしもし」

　少し、かすれて元気はないが、間違いなくトモの声だ。用意したセリフを一気にまくしたてる。

「もしもし、今日コーヒーおごっていただいたものですけど、どうしてもトモさんにわたさないといけないものを教育学部の先生から預かったんで、ヨウコさんの研究室で明日おまちしてます。ずっと待ってますから、必ずきてください。ぜったいですよ」

「え、あの」
「すみません。もう十円が……」

　ツーーーー。薄れる意識の中で「３０円みじかすぎ…。」とつぶやいた。

そのまま、意識が遠退く。。。。


　「ユキー。いつまで、やってるのー？」