藤次郎と滝之丞とたま

トマト

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藤次郎と滝之丞の出会い

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「とーじろーー!」

「なんだ。てめえは」

「下衆やろうに名乗る名前は持ち合わせておりゃあせん。」

殴りかかってくる呼び込み男をひらりとかわし、みぞおちに正拳づきをくらわす。

膝をついたところを足でけりあげた。

呼び込み男は苦しそうに、のたうちまわっている。

「さあ、おじょうちゃんたち、もう、暗くなってまいりました。帰りましょう。」

そういって、二人を促して、藤次郎は帰路につこうとした。終始、顔つきがかわることはなかった。

ただ、動けない呼び込み男が 三人の後ろ姿に

「くそう。覚えてろ。そのちびも売り飛ばしてやるからなあ」

と、叫んだときだけ、目がぎろりと光った。

『うさぎ』の近くまで、きたとき

「しまった。味噌を買ってくるのを忘れました。先に帰っててください」
というと、藤次郎はお豊にたまを頼んで、走っていってしまった。

藤次郎の行き先は。。。神社の裏の川だ。

ようやく、立ち上がることのできた呼び込み男が打たれた箇所を冷やすために 手拭いを濡らしていた。

音もなく、藤次郎は背後に立って、首元に短剣を突きつける。

「おじょうちゃんに災いとなる芽はつぶさせてもらう」

そういうと、落ちているござ で、血しぶきがかからぬようにしてから、一気に首を切り裂いた。

「ぐ。。」
崩れ落ちる男を川に蹴りおとす。
流行りの辻斬りの仕業と誤魔化せるだろう。

帰り道、笠を深く被った若者とすれ違った。

「ふふ。あなた。なんだか血の匂いがしますねえ」

とっさに、藤次郎はふところの短剣に手をやりつつ、静かに答える。

「あっしは、板前ですんで、魚を捌いた匂いでしょう」

「ふふ。なるほどね(笑)こわいこわい。」

「役者さんこそ、こんな時間に、どちらに?」

「おや。私を御存じでしたか。私の名前を使って悪さしてる子ネズミがいるらしいってんで、ちょいと、懲らしめにいこうかとおもったんですが、もう、必要ないようですねえ。ふふ。」

藤次郎と滝之丞の視線がぶつかった。にらみ合いが続く。

先に 殺気を解いたのは 滝之丞だった。

「でもまあ。大ネズミも、まだいるようですし、ちょいと、散歩にね」

そういうと、鼻唄をうたいながら、去っていった。



。。。。。。

翌日、街では、金貸しの家に押し入り強盗がはいって、店主と用心棒が毒矢で、殺されたらしいと皆が噂していた。

例の呼び込みが脅されていた金貸しだ。

評判の悪い金貸しをやっつけたのは、義賊じゃないかと人々は 浮足だっていたので、呼び込み男が川で死んでいたことに、注目する者はいなかった。


『うさぎ』に、穏やかな日常がもどった。

いや。かわったことがひとつ。

「ごめんください。」

「いらっしゃいー。ああ、役者のた。。」

たまが最後までいう前に、滝之丞が人差し指で唇を押さえた。

「桜のお団子をいただこうと思ってね。」

「あいよ。とうじろー。桜団子ひとつー」

『うさぎ』には 常連客がひとり、ふえたようだ。

「。。。へい」

すだれの隙間から藤次郎が覗く。

藤次郎と滝之丞の視線が、一瞬ぶつかった。

どこかから、遊びにきていた猫だけが、なにかを感じたかのように、震えて、逃げ出していった。




                               終



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みんなの感想(1件)

堅他不願(かたほかふがん)

 起承転結がはっきりしていて分かりやすく面白かったです。

トマト
2019.05.27 トマト

ありがとうございます。
マスケッターさんのお話も読ませていただきました。
よみやすくて、面白かったです

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