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役者 滝之丞
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滝之丞は 近頃、江戸で大人気の役者である。
女形であるのだが、その美しさはこの世のものとは思えぬと、男女問わず 惹かれ、芝居小屋はいつも満員で、姿絵を入手するのも困難となっていた。
しかし、人気の影には 黒い噂が付きまとうのも常である。
裏では付き人にひどくあたっているだの、贔屓の客から大金を巻き上げているだの、若い女に手をだしては、すぐに捨てているだの、阿片の常習者だのと、言われてもいた。
妬み嫉みやもしれぬ。
あるとき、滝之丞は人目めにつかぬよう、笠をふかくかぶって、川のほとりをさんぽしていた。
すると、桜の樹によじ登って、葉っぱを集めている少女がいる。少女は器用に腰につけた籠に葉っぱをいれていく。
と、少女の足元を毒蛇が登っていくのがみえた。
少女は気づく様子がない。
滝之丞は、辺りを見渡し、誰も居ないのを確認すると、懷から吹き矢を取り出し、蛇に向かって矢をひとふき。
蛇は 樹から落ちていった。
ガサッ
蛇の落ちる音に驚き、少女は周りをみまわす。
立っている滝之丞に気付き 樹からおりてきた。
「こんにちは。おじょうちゃん」
「おじちゃん、この樹の持ち主?」
おじちゃんと、よばれたのは、はじめてだ。
「ちがうよ。どうして?」
「勝手に樹に登ってたから、おこられるかなとおもって」
着物をパンパンと払って、にっこり笑った顔はなかなか可愛い。
「大丈夫だろう。その葉っぱ、どうするの」
「塩漬けにして、お団子にいれるの」
「それは、おいしそうだ。」
「うん。神社のちかくの『うさぎや』ってとこに来てくれたら、食べられるよ。お金はちゃんと、もってきてね」
「ははは。お嬢ちゃん、名前は?」
「たま、だよ。おじちゃんは?」
「私は滝之丞。役者だよ。」
「ああああ。おじちゃん、お豊ちゃん、知ってる?」
「お豊?知らんな」
「あれー」
二人で、首をかしげていた。
そんな一部始終をひっそりみていた男がいた。
藤次郎である。
その手には、いつでも投げられるように、クナイが握られていた。
女形であるのだが、その美しさはこの世のものとは思えぬと、男女問わず 惹かれ、芝居小屋はいつも満員で、姿絵を入手するのも困難となっていた。
しかし、人気の影には 黒い噂が付きまとうのも常である。
裏では付き人にひどくあたっているだの、贔屓の客から大金を巻き上げているだの、若い女に手をだしては、すぐに捨てているだの、阿片の常習者だのと、言われてもいた。
妬み嫉みやもしれぬ。
あるとき、滝之丞は人目めにつかぬよう、笠をふかくかぶって、川のほとりをさんぽしていた。
すると、桜の樹によじ登って、葉っぱを集めている少女がいる。少女は器用に腰につけた籠に葉っぱをいれていく。
と、少女の足元を毒蛇が登っていくのがみえた。
少女は気づく様子がない。
滝之丞は、辺りを見渡し、誰も居ないのを確認すると、懷から吹き矢を取り出し、蛇に向かって矢をひとふき。
蛇は 樹から落ちていった。
ガサッ
蛇の落ちる音に驚き、少女は周りをみまわす。
立っている滝之丞に気付き 樹からおりてきた。
「こんにちは。おじょうちゃん」
「おじちゃん、この樹の持ち主?」
おじちゃんと、よばれたのは、はじめてだ。
「ちがうよ。どうして?」
「勝手に樹に登ってたから、おこられるかなとおもって」
着物をパンパンと払って、にっこり笑った顔はなかなか可愛い。
「大丈夫だろう。その葉っぱ、どうするの」
「塩漬けにして、お団子にいれるの」
「それは、おいしそうだ。」
「うん。神社のちかくの『うさぎや』ってとこに来てくれたら、食べられるよ。お金はちゃんと、もってきてね」
「ははは。お嬢ちゃん、名前は?」
「たま、だよ。おじちゃんは?」
「私は滝之丞。役者だよ。」
「ああああ。おじちゃん、お豊ちゃん、知ってる?」
「お豊?知らんな」
「あれー」
二人で、首をかしげていた。
そんな一部始終をひっそりみていた男がいた。
藤次郎である。
その手には、いつでも投げられるように、クナイが握られていた。
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