星の民。

ましろ まちゃ

文字の大きさ
上 下
10 / 12
第2章 恋星

自覚した恋心

しおりを挟む
ある朝、王の間にはサリウスを始め星天十騎士と医師長、侍女長など各部署の長たちが集まっていた。

何もないことが一番だが何かあってからでは遅い為、週に3回、こうやって定例会が開かれるのだ。

「陛下、例の…あの人間の娘とはどういった具合ですかな?」

定例会も終わりに差し迫っていた頃、大臣が発言した。

その話題は誰もが気になっていた内容だけに、その場はざわめき始める。

「別にどうということもない。」

「それでは困りますぞ陛下。ただでさえ人間の娘を王妃にすることを反対する者も多いのです。」

「わかっている」

やれやれ、といった風に発言する大臣にサリウスもめんどくさいといった表情を見せていた。

この場にはミーシャも同席しているが、リラの話が出たため心配した様子で成り行きを見ている。

「陛下か少しよろしいですかねぇ?」

「お前が発言するとは珍しいな、エルグラード」

手を挙げたのは、エルグラードだった。
サリウスが発言を許したので、エルグラードは一歩前に出て口を開いた。

「陛下は一妻多夫制を導入されましたよね?その制度、リラ様が王妃になられたあかつきには彼女にもそれを?」

「あぁ、それは勿論だ。例外はない。」

「実は、“知”の星天十騎士としてリラ様に教育をしたいと思っているのですが。その許可を頂きたいのです。」

「教育…?お前が…?」

「はい。私は人間の娘に全く興味などありませんが、将来…もし有数の名家の者が夫になろうとすれば、一族の名に恥がつくといけませんから。」

エルグラードの言葉に、確かにその話は最もだと賛同の声が上がった。

彼自身、恐らく会議に参加している大半は自分の意見に賛同することを確信していた。反対するとすれば、ミーシャとドーランだろうと踏んでいたが、チラとそちらへ目をやれば案の定複雑な表情をしている。

ドーランと視線が交わったエルグラードは、わざとドーランに向けてほくそ笑んだ。

「いかがですか、陛下」

「まぁ、いいだろう。したいようにすればいい。」

返事を即すエルグラードを見て、サリウスは大して何も思っていなかったのかあっさり許可を下ろした。

ありがとうございます、とエルグラードは一礼をし、後退したのだった。

その後サリウスが他に何かある者はいないかを確認したが、誰も反応を見せなかったので、定例会は終わりを迎えた。

「少しいいか?エルグラード」

「…来られると思っていましたよ、ドーラン」

王の間を次々に後にする人々に紛れ、ドーランがエルグラードに後ろから声を掛けた。

エルグラードは待っていたとばかりにドーランをむかえる。

「場所を変えますか?」

「西側の調理場なら、この時間人目がない。そこに来い」

「構いませんよ」

話し合う場所を決めると2人はそれぞれ魔法を使い移動をした。

西側の調理場横にある人がいない廊下に2人はいた。外に面していないので若干暗かった。

「何を企んでいる、エルグラード」

「何も企んでなどいませんよ、失礼ですねぇ」

「嘘を吐くな。でなければ、星天十騎士の名を嫌うお前がこの名前を使うはずがないだろう。」

「人聞きの悪い。私もたまにはお仕事をしようと思っただけですよ。それより君こそ一体何を企んでるんですか?ミーシャ様をリラ様の侍女に仕立て上げたりして」

「お前には関係のないことだ。」

「えぇ、関係ありません。ただ、ミーシャ様とリラ様が哀れだと思いますよ?君の妻でありながら、訳も分からぬ人間の世話をさせられるミーシャ様と、そのミーシャ様や君に騙されているリラ様がね。」

「なんだとっ!」

ドーランは自分より長身のエルグラードの胸ぐらを掴み、そのまま壁に押さえつけた。

「…っ…乱暴ですねぇ。今のその顔、ミーシャ様やリラ様に見せてあげたいくらいですよ」

「もしリラに何かあればただじゃ済まないぞ、エルグラード!」

「それほど心配しなくても、何もしませんよ。君は安心してミーシャ様と仲良くしてて下さい。では私はこれで」

「っ、待て!エルグラード!!」

壁に押さえつけられた状態でエルグラードは転移魔法を使ったのか、ドーランの手から消えた。

「くそっ」

1人取り残されたドーランは、行き場のない感情を壁にぶつけた。

力任せに殴ったので自分の拳にも痛みがあったが、ドーランは気にもしていれなかった。

「それほど怒りを露わにしては、城に響きますよ?ドーラン様」

「!……ミーシャ。いつからそこに?」

「さっきですから安心して下さい。」

いつの間にか、ドーランの元にミーシャが来ていた。

リラの元へ出向く前なのか、城の侍女服へと既に着替えている。定例会の最中は、姫らしく美しいドレスを着ていたが今はその面影もない。

「…ドーラン様、怒らないで聞いて下さい。貴方がリラ様の様子を気にしていらっしゃるのは、同情からですか?」

「君まで、何を言い出すんだ…そんな訳ないだろう?」

「それを聞いて安心致しました。私、ずっと不安だったのですよ?人間だから、黒髪だから、自分と同じ目に遭わないように守らなければ、と…。貴方がそう思っているのではと。」


「違うんだ…純粋に、彼女を心配してるんだ。サリウスにも乱暴に扱われたりしたら、アイツを殴ってしまいそうだ。」

「ふふふっ…ドーラン様ったら、すっかりリラ様に恋い焦がれていらっしゃるのね」

「え?」

「本気で恋をしたことがないまま兄上の命令で私と婚約してしまったから、不器用になってしまったんですよ、きっと。」

ドーランは目をぱちくり、と何度か瞬かせた。

ミーシャはというと、最初みた時からそうではないかと思ってたんですよ、や、リラ様を見る瞳がこうギラギラしてましたから、などと1人でぶつぶつ呟いていたが、ドーランは呆気に取られていた。

「(…恋…?)」

その一言に頭を占領されていた。

ドーランとミーシャは、周囲には結婚したと公表されているが実際はミーシャを男から守るためだと、サリウスが勝手に発表したのだ。

厳密には、法律上では夫婦ではない。

幼馴染であるがゆえに婚約はしているが、ミーシャは結婚に興味はなかったし、ドーランは結婚の噂が立つまで様々な女性を相手にしていた遊び人だった。

「しかし、恋と言われても…よくわからない」

「立場上、仕方がないことですわ。私たちには無縁の世界ですから。」

「…すまない、ミーシャ」

「いいのですよ。だから、気にせずリラ様を口説いて下さいね。兄上には私から言っておきますから。」

私が言いたかったのはそれだけです、と言ってミーシャは仕事があるからと早々に姿を消した。

ぼうっと立ち尽くしていたドーランだったが、少ししてから自分も仕事へ向かったのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪
ファンタジー
惑星歴95年。 人が宇宙に進出して100年が到達しようとしていた。 宇宙居住区の完成により地球と宇宙に住む人間はやがてさらなる外宇宙にも旅立つことが可能となっていた。 だが、地球以外にも当然ながら知的生命体は存在する。 地球人の行動範囲が広がる中、外宇宙プロメテラ銀河に住む『メビウス』という異星人が突如として姿を現し、地球へ侵攻を開始。 『メビウス』は人型兵器を使い、地球からもっとも遠い木星に近い宇宙居住区を攻撃。実に数千万の命が失われることになった。 すぐに対抗戦力を向ける地球側。 しかし、地球人同士の戦争やいざこざが多少あったものの、比較的平和な時を過ごしてきた地球人類にこの攻撃を防ぐことはできなかった。 さらに高機動と人間を模した兵器は両手による武装の取り回しが容易な敵に対し、宙用軍艦や宙間戦闘機では防戦一方を強いられることになる。 ――そして開戦から五年。 日本のロボットアニメを参考にして各国の協力の下、地球側にもついに人型兵器が完成した。 急ピッチに製造されたものの、『メビウス』側に劣らず性能を発揮した地球性人型兵器『ヴァッフェリーゼ』の活躍により反抗戦力として木星宙域の敵の撤退を成功させた。 そこから2年。 膠着状態になった『メビウス』のさらなる侵攻に備え、地球ではパイロットの育成に精を出す。 パイロット候補である神代 凌空(かみしろ りく)もまたその一人で、今日も打倒『メビウス』を胸に訓練を続けていた。 いつもの編隊機動。訓練が開始されるまでは、そう思っていた。 だが、そこへ『メビウス』の強襲。 壊滅する部隊。 死の縁の中、凌空は不思議な声を聞く。 【誰か……この国を……!】 そして彼は誘われる。 剣と魔法がある世界『ファーベル』へ。 人型兵器と融合してしまった彼の運命はどう転がっていくのか――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...