星の民。

ましろ まちゃ

文字の大きさ
上 下
8 / 12
第2章 恋星

フィーニティアの花

しおりを挟む
「リラ様、そのように引き篭もられてはお体に悪うございますよ。」

「……………」

「困ったわ」

星の民の王であるサリウスからプロポーズという名の脅迫をされて以来、リラはずっと部屋に篭っていた。

外出の制限があるため元々大した外出はできないが、城内ならば、侍女か兵士を連れていれば散策してもいいという許可は下りている。

が、サリウスからのプロポーズがよほど堪えたのか、リラの引き篭もり具合は、ベッドの上で布団に包まるまで来ていた。

流石のミーシャも、リラの状況に困りはてていたのだ。

どうしたものかとミーシャが考えていると、扉のノック音が聞こえた。

「あら、ドーラン様!」

「どうも。…リラ様はいらっしゃいますか?」

「それがドーラン様、いらっしゃるも何も、ずっと引き篭もられてるんですよ、リラ様ったら!」

「引き篭もり、ですか…」

やってきたのはドーランだった。
戦以来、その後始末に追われていたドーランはようやくひと息をつく時間が出来た為、こうしてリラを訪れたのだが、聞かされた内容に目を丸くした。

もちろんドーランはサリウスと近いので、サリウスがリラにプロポーズをしたことは知っている。

その様子見も兼ねていたご、そこまで落ち込んでいるのを知るともう少し早く来ればよかったと、些か後悔した。

「きっと、あのバカ兄上のことです、失礼なことをしたに違いないですわ」

ベッドにいるリラの耳には入らぬよう、小さな声でミーシャが呟いた。

ドーランはそんなミーシャを宥めながら部屋へ入る。

「リラ、気分が優れないようですね」

「……ドーラン様」

「散歩に行きませんか?」

「散歩…?」

「えぇ。綺麗な庭園があるんです。きっと、よい気分転換になりますよ。」

布団の間から顔を出したリラは、ベッドの傍に立つドーランを見た。

優しく微笑んでくれるドーランに少し安心感を覚えるが、すぐに外方を向いてしまった。

「ご機嫌取りに来たのね。王様の命令?」

「(これは、なかなか重症だな。…全く)」

不機嫌なリラを見て、ドーランは内心深く溜息をつく。昔なじみの王に呆れていた。

「少し失礼しますよ、リラ」

「え?」

ドーランはリラの肩にそっと触れた。

すると次の瞬間、リラの視界は部屋とは違う光景が広がっていた。

「うわぁっ!綺麗…」

水が吹き出す大きな白い噴水に、アーチ状の緑のトンネル。その先には、色とりどりの花が咲き誇っている。

「ここは、立ち入りが制限されている特別な庭でね。君に見せたかったんだよ、リラ。」

「素敵な庭ですね」

「気に入ってくれたみたいでよかった。…サリウスが言ったこと、無視してもいいんだよ?リラ」

「え?」

「あいつは頭が堅いし、強引すぎるんだ。」

王のことを呼び捨てにするドーランに、リラは驚いていた。それに、話し方も丸っきり変わっている。

リラの驚きが伝わったのか、ドーランは苦笑していた。

「プライベートの時はこんなだよ。」

「でも、今お仕事中じゃ…」

「君との関係を仕事にしたくないんだ、俺」

「は、はぁ…」

リラは、なんだかももう別人と話している気分に陥った。本質は変わらないんだろうけど、慣れていない分違和感が大きかった。

「リラって、今何歳?」

「へっ?」

「あ、ごめんね。やっぱり女性に年齢を聞くのは失礼かな?」

「そんなことはないですけど…。まだ19ですよ、わたし」

「へぇ、19歳か。人間って確か、20歳で成人だよね?もう立派な女性じゃないか」

ほらどうぞ、とドーランはリラに手を差し出した。

リラは少し躊躇ったが、その手を取った。

緑のトンネルを抜け、2人は花園の中にある道を進んだ。

「あの、ドーラン様は…」

「ずっと言ってるのに、なかなか呼び捨てにしてくれないね?君は」

「すみません…なんだか、慣れなくて」

「ごめんごめん、別に責めてるわけじゃないんだ。ちょっと寂しくてね」

「慣れるように、頑張ります」

「それで、なんだい?」

「えと…王様と仲いいんですか?さっき呼び捨てにしてましたよね?」

「(またサリウスのことか…なんだか、妬けるな)」

「ドーラン…さま?」

「あ、ごめんね。サリウスとは幼なじみなんだ。子供の頃から知ってるよ。兄弟のように育ったんだ。」

そうだったんですか、とリラは納得した。

「いいなぁ。わたし、兄弟とか年の近い親戚いないんですよ。両親はわたしが物心つく前に亡くなってしまって、祖父母と暮らしてました。」

「兄弟なんていても面倒なだけだよ?サリウスみたいにさ」

「あははは」

思わずリラは声を大きくして笑った。
笑ってからはしたないかと思ったが、何も言われなかったから別にいいか、と開き直った。

「ほらリラ…星の民を象徴する花、“フィーニティア”だよ。」

花園の中を歩いて3分程たった頃、開けた場所に着いた。

そこにあったのは、大きな1つの花壇だった。

真中にある星形から枝伝えに5つの円が出ている。星と円の中には、綺麗な青色の花が敷き詰められていた。

この模様に、リラは見覚えがあった。
光の扉に描かれた紋様にも、この形があった気がしたのだ。

「この形はね、星紋といって、一族のシンボルなんだ。因みにフィーニティアというのは、“ただ1人の愛しい人へ”という意味があって、云い伝えでは、神代に別れた始祖を愛していた人が残した言葉らしいよ。」

「フィーニティア…」

ー君は本当によく笑うな、フィー
ーゼオが仏頂面すぎるのよ!未来の王様の癖に!

「あれ?」

「リラ!?」

リラは突然立ちくらんだ。
頭が酷く痛み、額を押さえた。

「大丈夫か?」

「ごめんなさい。何だか、急に頭が痛くなって。それに、誰かの声も聞こえた気が…」

「声?」

「女の人と、男の人の声…。お互いのことを、フィー、ゼオって呼んでて…」

「ゼオだって…?」

ゼオという名前にドーランは大きく反応した。

リラがその名前は誰の名前だとドーランに聞き返すと、言うか迷ったが、ドーランは口を開いた。

「…ゼオは、星の民の初代王のお名前だよ。」

「初代?どうしてわたし、そんな名前を…」

混乱しているリラを見ながら、ドーランは考えていた。

これが、未来から来たリラの息子が言っていたという“血の記憶”だろうか。

しかし、一体“血の記憶”が何を指すかドーランにもわからなかった。

サリウスから聞いた時は信じきれない部分があったが、目の当たりにするとリラの身に何かが起きているのは分かった。

「戻ろうか、リラ。少し疲れたんだよ、きっと」

ドーランはとりあえずそう言ってその場を誤魔化し、瞬間移動で部屋へリラを連れ帰ったのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つじつまあわせはいつかのために

明智
ファンタジー
旧タイトル”いやいや、チートとか勘弁してくださいね? ~転生魔王の俺が、召喚勇者たちをひたすら邪魔して邪魔する毎日~” ※※第四章 連載中※※  異世界で魔族に生まれ変わり、いつしか魔王と呼ばれるに至った男。その後紆余曲折を経て、魔族を敵視する人族国家で貴族にまで叙された彼の目的は、魔族と人族の決定的な戦争を人知れず回避することだった。 素性を隠し奮闘する彼の元に、ある日驚くべき知らせが舞い込む。それは、彼と故郷を共にする4人の勇者がこの世界に召喚されたということ。……だが彼は勇者たちを歓迎しない。はよ帰れくらい思ってる。  勇者として呼び出された4人のうち1人。美が付かない系少女と話をするうちに、彼は自分の願いを口にした。あるがままの世界を守る。俺TUEEEも、NAISEIも、技術革命も、文化侵食もやらせない。  そしてオッサンと少女の、世界の裏側でうろちょろする日々が始まった。 基本的に一日一話、更新予定 4/26 タイトル変更しました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪
ファンタジー
惑星歴95年。 人が宇宙に進出して100年が到達しようとしていた。 宇宙居住区の完成により地球と宇宙に住む人間はやがてさらなる外宇宙にも旅立つことが可能となっていた。 だが、地球以外にも当然ながら知的生命体は存在する。 地球人の行動範囲が広がる中、外宇宙プロメテラ銀河に住む『メビウス』という異星人が突如として姿を現し、地球へ侵攻を開始。 『メビウス』は人型兵器を使い、地球からもっとも遠い木星に近い宇宙居住区を攻撃。実に数千万の命が失われることになった。 すぐに対抗戦力を向ける地球側。 しかし、地球人同士の戦争やいざこざが多少あったものの、比較的平和な時を過ごしてきた地球人類にこの攻撃を防ぐことはできなかった。 さらに高機動と人間を模した兵器は両手による武装の取り回しが容易な敵に対し、宙用軍艦や宙間戦闘機では防戦一方を強いられることになる。 ――そして開戦から五年。 日本のロボットアニメを参考にして各国の協力の下、地球側にもついに人型兵器が完成した。 急ピッチに製造されたものの、『メビウス』側に劣らず性能を発揮した地球性人型兵器『ヴァッフェリーゼ』の活躍により反抗戦力として木星宙域の敵の撤退を成功させた。 そこから2年。 膠着状態になった『メビウス』のさらなる侵攻に備え、地球ではパイロットの育成に精を出す。 パイロット候補である神代 凌空(かみしろ りく)もまたその一人で、今日も打倒『メビウス』を胸に訓練を続けていた。 いつもの編隊機動。訓練が開始されるまでは、そう思っていた。 だが、そこへ『メビウス』の強襲。 壊滅する部隊。 死の縁の中、凌空は不思議な声を聞く。 【誰か……この国を……!】 そして彼は誘われる。 剣と魔法がある世界『ファーベル』へ。 人型兵器と融合してしまった彼の運命はどう転がっていくのか――

アサの旅。竜の母親をさがして〜

アッシュ
ファンタジー
 辺境の村エルモに住む至って普通の17歳の少女アサ。  村には古くから伝わる伝承により、幻の存在と言われる竜(ドラゴン)が実在すると信じられてきた。  そしてアサと一匹の子供の竜との出会いが、彼女の旅を決意させる。  ※この物語は60話前後で終わると思います。完結まで完成してるため、未完のまま終わることはありませんので安心して下さい。1日2回投稿します。時間は色々試してから決めます。  ※表紙提供者kiroさん

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

病弱だったから異世界で元気に生活する。(仮)

椎茸大使
ファンタジー
病弱だった青年が異世界へと召喚される。そこで彼は初めて自身が病弱だった理由を知る。 そして異世界へと降り立った青年は何をするのか。 これはそんな青年の異世界妖怪使役ファンタジー(仮)である。 ※ノリと勢いで書いた物です。メインが微ユニなのでこちらの投稿は不定期になります。

処理中です...