星の民。

ましろ まちゃ

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第1章 零星

プロポーズ

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「最後まで、理解しあえなかった…」

「僕と一緒に来てよかったのか?」

「もう過ぎたことだわ。わたしはこの地で人間として生きるの。」

広大な土地に、銀髪の女性が立っていた。その隣にいるのは、黒い髪の男だ。

女は空を見上げながら涙を流し、男は彼女を後ろから抱きしめた。

「ここでひっそり生きていこう。この土地に慣れるまで、ずっと…」

「えぇ、そうね」



ーーーー



リラの目の前に見えたのはベッドに備わった天蓋だった。

「気がついたのか、リラ」

「え?」

夢の名残から意識がはっきりとして来たリラは、自分がベッドに横たわっているとわかった。が、体を起こしてふと横に顔を向けると、そこに居た予想外の人物に目を丸めた。

「どうした」

「え、いや…え?王様!?どうしてここに!?」

「この部屋はもともと私の部屋だぞ」

「あ、そういえば…」

言われてみれば確かに、リラが使っている部屋はもともとサリウスのプライベートルームだったのだ。

だが自分の存在に嫌気がさして捨てると言ってなかったか、と思ったリラだっが、それは口にしなかった。

「お前に確かめなければならないことができた。」

「え、あ…はい。あ!そういえば戦争は?」

「あぁ、そうか。3日間眠っていたから知らないのだな。」

戦なら終わったぞ、とサリウスは続けた。

あっさりとしたサリウスの返しにリラは拍子抜けした。

だが勝ったということは雰囲気から読み取れた。

「お前、治癒魔法が使えるのではないか?」

「え、え、なな、何ですかそれ?わたし知りませんよ!」

「そうか、使えるのだな。」

あからさまに口を濁らせたリラの様子にサリウスは使える事を判断した。

リラはその後も知らない知らないと言い張るが、サリウスは相手にしてない。

「私は初め、お前を死刑にするつもりだった。」

「え!?し、死刑…」

「だが気が変わった。」

「よかった…」

死刑という単語にリラは息を飲むが、気が変わったとの言葉に安堵した。しかしそれも、次の一言で吹き飛ばされた。

「お前が治癒魔法を使えるとなれば話は早い。1つ提案がある。」

「提案…?」

「そうだ。私の妃になれ、リラ。」

「はい…?」

リラにはそれが空耳かと思えた。
死刑を取りやめ考えが変わったというから、囚われの身にでもなるかと思っていたが、サリウスからの提案は予想を遥かに超えていた。

まさか妃になれと言われるなんて思ってもいなかったのだ。

星の民は今、ある種の危機に陥っているらしい。人口が少なく女性も全体の4分の1程で、出生率も下がっている。そこに海の民や闇の民と戦をするとなれば、若い世代の数は減るばかりだ。

サリウスが悩んでいるのはそこだった。

どうにかして、一族の減少を抑えなければならないのだ。

「ちょうど10年前に、一族の女に対し複数人の夫を持ってよいという法律を作った。」

「それって、一妻多夫制って事ですか…?」

サリウスはそれに頷いた。

「そうでもしなければ若い世代がいなくなってしまうのだ。少しだが、幾分出生率も上がってきた。だからこれは継続し、次に考えたのが医療の充実と王族の繁栄だ。」

「そのことと、私を妃にすることと、何の関係があんですか?」

「我々が魔法に長けた種族であることは知っているか?」

「はい。ドーラン様から聞きました。」

「我々は確かに魔法が得意だ。だが唯1つ、扱えない魔法がある。…それが、治癒魔法だ。」

「え?」

リラは治癒魔法と聞いて自分の手のひらを見つめた。

「世界というのは、1万年以上前…神代の時代に神によって作られた。それから時が流れ、人間を含めた様々な種族の始祖が誕生した。我々星の民の始祖は12人いて…その1人に癒しを司る者がいた。しかしその人は共生していた人間と共に他の仲間を捨てたのだ。」

「それは…人間が嫌われている理由ですか?」

「そうだ。その後、治癒魔法だけが一族から失われた。」

「でも、何か理由があったかもしれないじゃないですか」

「理由など必要ない。裏切ったという事実があれば充分」

サリウスの顔はリラが初めて目にした時の、怖い表情をしていた。その瞳の奥には静かなる怒りが身を潜めている。

リラは返そうとした言葉を失ってしまった。

「とにかく、お前が生きたいと思うのであれば私の妃になることしか道はないということだ。そうなれば治癒魔法が復活する可能性がある。」

起きたばかりの時には、前よりも雰囲気が柔らかくなったと思われたサリウスも、退出する時には依然の様子に戻っていた。

理由を聞きもしないサリウスに、リラは少し腹が立った。

「わたしが治癒能力を持っているのは認めます。」

「ならば妃になるということか」

「いいえ、即答は出来ません。」

「断れば命の保障はしないぞ」

リラは動じなかった。
まっすぐな目をしているリラに、サリウスは黙り込んだ。

「お前を助けたという銀髪男の記憶はあるか」

調子が狂ったのかサリウスは話題を変えた。とはいえ元々話すつもりではいた。

「あ、そういえば!戦が始まってすぐに、扉から現れて…」

「あぁ、そうだ。他にも2人現れた。」

「そうだったんですか…」

「あの者たちは未来から来たらしい。お前にそれだけ伝えてくれと言っていた。」

「未来…」

それでは助けてもらったお礼を言うことも出来ないのか、とリラは残念がった。

一度だけでなく二度も助けられたのに、ろくにお礼も出来ないのは申すわけないことだ。

自分たちの子供かもしれないと今言ってしまえば、リラはどんな顔をするのだろうかとサリウスは考えていた。

だがおそらく、言っても信じないだろうと思えた。

「(互いがこんな状態で、本当に子供など出来るのか?)」

自分の目で見たものの、先行きが怪しい互いの関係に、サリウスは内心ため息をついたのだった。
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