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第1章 零星
襲撃
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「以上が明らかになったことです。」
ドーランは王の間にいた。
リラから新たに得た情報をサリウスへと伝えるためだ。
報告を受けたサリウスの表情は依然として堅いままだった。
「それが事実だとして、黒服の男というのはまさか…」
「はい、おそらく陛下がお考えの通りだと思います。」
「闇の民か…。しかし、ならばあの人間が狙われる理由はなんだ。助けたという男もそうだ。銀髪ということは、星の民王家の血筋だぞ。」
人間というだけでリラに対し殆ど興味を示さなかったサリウスだったが、ドーランの話を聞くと無関心ではいられなくなっていた。
王家の血筋を引く者は皆が銀髪であり、中でも直系のものは金色の瞳を持っている。
サリウス自身も、銀髪に金色の瞳をしているのだ。
リラが、何者かの手引きにより王宮へ入ったと考えていたサリウスにしてみれば、銀髪の男の存在は大問題だった。
「もっと詳しく調べなければならないな。王族が人間を招き入れたとなれば厄介なことになる。」
「今は海の民との戦の最中でもあります。士気にも影響がで兼ねません。」
「言われずともわかっている」
「しかし妙です。ご存命の王族は陛下と妹君しかおられないのに…」
「お前の能力は信頼しているからあの人間の話に偽りはないだろうが、一体どういうことだ。」
ただでさえ戦で忙しいというのに厄介事が増えたと、サリウスは頭が痛くなる思いだった。
サリウスは王都を守るため、その周りに常に防御魔法をかけている。24時間、1年中、自分の命が消えるまでずっとだ。
それは王である自分の役目だとわかっているが、今は戦の最中であるため気を張らなければならないし、油断もできない。
王であるから政務もある。
息を抜く暇がないので疲労が溜まるばかりだ。
「そもそも、時空間移動系魔法は古代魔法の1つですよ。今扱える者など、私の記憶にはありません。」
「そうだろうな。王族である私にさえ古代魔法は扱えない。」
「もう少し探りを入れますか?」
「そうだな、死刑は延期にする。ドーラン、探りを入れるのはいいが入りすぎるなよ。アレは人間なのだ。」
「…肝に銘じておきます。」
考えれば考えるほど深みにはまりそうだったので、2人は考えるのを止めにした。
サリウスは再び様子を見るようドーランに命令するが、忠告は欠かさなかった。
ドーランが反人間思想に消極的なのはサリウスもわかっているが、それでもだ。
人間である以上、注意するに越したことはないのだと、そう言い聞かせた。
「では私はこれで」
ドーランはサリウスに一礼すると、背を向け扉の方へと歩き始めた。
「失礼します!緊急報告です!東側から海の民が進軍を開始!現在、東の砦でイストニア将軍が軍を指揮しておられるところです!」
「なんだと!?」
ドーランが王の間を出る前に開いた扉からは、兵士が顔を青くしながら入ってきた。急な知らせに、ドーランもサリウスも驚愕の色を隠せなかった。
その直後、大きな振動がその場を襲った。
「っ、じ、地震!?」
「まさかっ!…サリウス!」
兵士が大きな揺れに慌てるのに対し、ドーランは急ぎサリウスへと駆け寄った。
「…っ…大丈夫だ。防御壁に穴は開いていない。」
「あり得ない事態だぞ、防御壁を揺らすなんて…」
「あぁ…それに、この感覚…闇の民だ。奴らが手を組んでいるのだ!」
防御壁に意識を集中させているため、サリウスの息は上がっている。
そんなサリウスの、闇の民という言葉にはドーランだけでなく王の間にいた他の兵士も反応した。
リラが来るより前から、海の民とは戦という名の小競り合いがあった。
しかしこれ程大規模な戦いはなく、闇の民が関わってきてしまえば自分たちに勝ち目などないのでは、と兵士の誰もが思い始めた。
そもそも星の民は戦向きではないし、人口も少ない。
長期戦となれば不利なのだ。
「ドーラン、お前は軍へ行け。こうなってしまえば迎え撃つしかない。星天十騎士を従えて都を守れ!」
「私は近衛隊だぞ!?ここを離れるわけにはっ」
「一族の危機に、そのようなことを言っている場合ではないのだ。」
近衛隊であるドーランは、本来王であるサリウス専属の兵士だ。
普段は戦に出向くことなくサリウスを守ることに呈している。というのも、サリウスは防御壁魔法をかけ続けている為、戦いに力を入れられないからだ。
だからこその発言だったが、ドーランはサリウスのあまりの気迫にたじろいだ。
「それにこのタイミングで闇の民が来たとなれば、もしかすると…あの人間の娘が狙われているかもしれん。」
とんだ厄介者だ、とサリウスは続けた。
「リラを狙って…??」
サリウスに言われてドーランは始めて気がついた。確かに、リラは闇の民に一度狙われている。ならば二度目があってもおかしくはなかった。
ドーランは一瞬にして王の間から姿を消した。
「全く…手のかかる奴だ。」
都の方へドーランの魔力が移動したのを感じると、サリウスは王宮にいる者に念を飛ばした。
闇の民と海の民からの襲撃に備えよ、と伝えるためだ。
防御壁に意識を集中させているサリウスのサポートをするために、知らせを受けたビアードがやってきた。
「陛下、大丈夫ですか」
「すまないな、ビアード」
「何も仰られますな。防御壁に集中してくだされ。」
「助かる。…しかし、こんな時ほど治癒魔法が失われてしまったのが恨めしい」
「陛下…」
サリウスの小さな呟きを聞いたのは、幼い頃からサリウスを知っている老医だけだった。
ーーーー
防御壁が攻撃を受け地震が起きた頃、リラはミーシャと2人、部屋にいた。
「一体何が起こっているの!?」
「わかりません。ですがもしかしたら、外部からの攻撃かもしれません」
「攻撃…?」
「はい。…実は、我々は今戦の最中なのです。この揺れは、おそらく防御壁が攻撃されているのだと思います。」
部屋でお茶をしていたリラは、急に襲ってきた揺れにどうしたらいいのかわからなくっていたが、戦争中と聞くとそれそれで、余計にどうしたらいいのかがわからなくなってしまった。
「戦争をしているの!?」
「ですが、こんなに大きな攻撃は初めてです!」
「どうしたらいいの!?」
「落ち着いてください、リラ様。揺れてはいますが、防御壁がある限り絶対に敵は入ってこれません。」
ミーシャがそう言ったのは、丁度サリウスから連絡が来た直後だった。
それとは別に、ミーシャにはリラが狙われる可能性があるという連絡も入ったが、ミーシャはそれをリラに伝えなかった。
リラを不安にさせる必要はないからだ。
とはいったものの、ミーシャは侍女である以上直接此処に攻め入ってこられたりしたら、太刀打ちは出来ないだろう。
そうなれば、リラだけは命に替えても守らなければ、とミーシャは決意を固くした。
「ねぇ、ミーシャ!あれは何!?」
その矢先だった。
部屋の中央に、大きな光の扉が現れたのだ。
「(この魔法はっ!時空間系の!?)」
それは、リラが世界を渡った時と同様の扉だった。
ドーランは王の間にいた。
リラから新たに得た情報をサリウスへと伝えるためだ。
報告を受けたサリウスの表情は依然として堅いままだった。
「それが事実だとして、黒服の男というのはまさか…」
「はい、おそらく陛下がお考えの通りだと思います。」
「闇の民か…。しかし、ならばあの人間が狙われる理由はなんだ。助けたという男もそうだ。銀髪ということは、星の民王家の血筋だぞ。」
人間というだけでリラに対し殆ど興味を示さなかったサリウスだったが、ドーランの話を聞くと無関心ではいられなくなっていた。
王家の血筋を引く者は皆が銀髪であり、中でも直系のものは金色の瞳を持っている。
サリウス自身も、銀髪に金色の瞳をしているのだ。
リラが、何者かの手引きにより王宮へ入ったと考えていたサリウスにしてみれば、銀髪の男の存在は大問題だった。
「もっと詳しく調べなければならないな。王族が人間を招き入れたとなれば厄介なことになる。」
「今は海の民との戦の最中でもあります。士気にも影響がで兼ねません。」
「言われずともわかっている」
「しかし妙です。ご存命の王族は陛下と妹君しかおられないのに…」
「お前の能力は信頼しているからあの人間の話に偽りはないだろうが、一体どういうことだ。」
ただでさえ戦で忙しいというのに厄介事が増えたと、サリウスは頭が痛くなる思いだった。
サリウスは王都を守るため、その周りに常に防御魔法をかけている。24時間、1年中、自分の命が消えるまでずっとだ。
それは王である自分の役目だとわかっているが、今は戦の最中であるため気を張らなければならないし、油断もできない。
王であるから政務もある。
息を抜く暇がないので疲労が溜まるばかりだ。
「そもそも、時空間移動系魔法は古代魔法の1つですよ。今扱える者など、私の記憶にはありません。」
「そうだろうな。王族である私にさえ古代魔法は扱えない。」
「もう少し探りを入れますか?」
「そうだな、死刑は延期にする。ドーラン、探りを入れるのはいいが入りすぎるなよ。アレは人間なのだ。」
「…肝に銘じておきます。」
考えれば考えるほど深みにはまりそうだったので、2人は考えるのを止めにした。
サリウスは再び様子を見るようドーランに命令するが、忠告は欠かさなかった。
ドーランが反人間思想に消極的なのはサリウスもわかっているが、それでもだ。
人間である以上、注意するに越したことはないのだと、そう言い聞かせた。
「では私はこれで」
ドーランはサリウスに一礼すると、背を向け扉の方へと歩き始めた。
「失礼します!緊急報告です!東側から海の民が進軍を開始!現在、東の砦でイストニア将軍が軍を指揮しておられるところです!」
「なんだと!?」
ドーランが王の間を出る前に開いた扉からは、兵士が顔を青くしながら入ってきた。急な知らせに、ドーランもサリウスも驚愕の色を隠せなかった。
その直後、大きな振動がその場を襲った。
「っ、じ、地震!?」
「まさかっ!…サリウス!」
兵士が大きな揺れに慌てるのに対し、ドーランは急ぎサリウスへと駆け寄った。
「…っ…大丈夫だ。防御壁に穴は開いていない。」
「あり得ない事態だぞ、防御壁を揺らすなんて…」
「あぁ…それに、この感覚…闇の民だ。奴らが手を組んでいるのだ!」
防御壁に意識を集中させているため、サリウスの息は上がっている。
そんなサリウスの、闇の民という言葉にはドーランだけでなく王の間にいた他の兵士も反応した。
リラが来るより前から、海の民とは戦という名の小競り合いがあった。
しかしこれ程大規模な戦いはなく、闇の民が関わってきてしまえば自分たちに勝ち目などないのでは、と兵士の誰もが思い始めた。
そもそも星の民は戦向きではないし、人口も少ない。
長期戦となれば不利なのだ。
「ドーラン、お前は軍へ行け。こうなってしまえば迎え撃つしかない。星天十騎士を従えて都を守れ!」
「私は近衛隊だぞ!?ここを離れるわけにはっ」
「一族の危機に、そのようなことを言っている場合ではないのだ。」
近衛隊であるドーランは、本来王であるサリウス専属の兵士だ。
普段は戦に出向くことなくサリウスを守ることに呈している。というのも、サリウスは防御壁魔法をかけ続けている為、戦いに力を入れられないからだ。
だからこその発言だったが、ドーランはサリウスのあまりの気迫にたじろいだ。
「それにこのタイミングで闇の民が来たとなれば、もしかすると…あの人間の娘が狙われているかもしれん。」
とんだ厄介者だ、とサリウスは続けた。
「リラを狙って…??」
サリウスに言われてドーランは始めて気がついた。確かに、リラは闇の民に一度狙われている。ならば二度目があってもおかしくはなかった。
ドーランは一瞬にして王の間から姿を消した。
「全く…手のかかる奴だ。」
都の方へドーランの魔力が移動したのを感じると、サリウスは王宮にいる者に念を飛ばした。
闇の民と海の民からの襲撃に備えよ、と伝えるためだ。
防御壁に意識を集中させているサリウスのサポートをするために、知らせを受けたビアードがやってきた。
「陛下、大丈夫ですか」
「すまないな、ビアード」
「何も仰られますな。防御壁に集中してくだされ。」
「助かる。…しかし、こんな時ほど治癒魔法が失われてしまったのが恨めしい」
「陛下…」
サリウスの小さな呟きを聞いたのは、幼い頃からサリウスを知っている老医だけだった。
ーーーー
防御壁が攻撃を受け地震が起きた頃、リラはミーシャと2人、部屋にいた。
「一体何が起こっているの!?」
「わかりません。ですがもしかしたら、外部からの攻撃かもしれません」
「攻撃…?」
「はい。…実は、我々は今戦の最中なのです。この揺れは、おそらく防御壁が攻撃されているのだと思います。」
部屋でお茶をしていたリラは、急に襲ってきた揺れにどうしたらいいのかわからなくっていたが、戦争中と聞くとそれそれで、余計にどうしたらいいのかがわからなくなってしまった。
「戦争をしているの!?」
「ですが、こんなに大きな攻撃は初めてです!」
「どうしたらいいの!?」
「落ち着いてください、リラ様。揺れてはいますが、防御壁がある限り絶対に敵は入ってこれません。」
ミーシャがそう言ったのは、丁度サリウスから連絡が来た直後だった。
それとは別に、ミーシャにはリラが狙われる可能性があるという連絡も入ったが、ミーシャはそれをリラに伝えなかった。
リラを不安にさせる必要はないからだ。
とはいったものの、ミーシャは侍女である以上直接此処に攻め入ってこられたりしたら、太刀打ちは出来ないだろう。
そうなれば、リラだけは命に替えても守らなければ、とミーシャは決意を固くした。
「ねぇ、ミーシャ!あれは何!?」
その矢先だった。
部屋の中央に、大きな光の扉が現れたのだ。
「(この魔法はっ!時空間系の!?)」
それは、リラが世界を渡った時と同様の扉だった。
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