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第76話:可能性

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王城の地下の鉱脈の怪しげな神殿風の建造物の調査中、“魔族人形ガーゴイル”に襲撃を受ける。
女剣士エルザの活躍もあり、何とか迎撃する。

「よし、片付いたわ。とりあえず、私たちも荷馬車の中に戻りましょう、ハルク!」

サラとドルトンさんはすでに避難済み。ボクたちも安全な荷馬車の中に移動する。

「ハルク君、無事でしたか⁉」

「うん、エルザのおかげで無事だよ。さすがだね!」

荷馬車の中で、先ほどの戦いを思い返す。
十数体いた“魔族人形ガーゴイル”は、全てエルザが斬り倒してしまった。ボクは見惚れているしか出来なかったのだ。

「ふう……何を言っているのよ、ハルク。私が楽勝だったのは、あなたの作ったこの《対環境服ノーマル・スーツ》のお蔭なのよ!」

「えっ、ボクの? どういう意味?」

まさかのエルザの指摘に聞き返してしまう。
何しろ《対環境服ノーマル・スーツ》にはなにも戦闘機能は装備していない。あくまでも地下鉱脈の中で快適に活動てきる、そんな機能しかないはずなのだ。

「はぁ……その様子だと、この《対環境服ノーマル・スーツ》の凄さに気が付いてないのね? それじゃ説明するけど、あれほど鋭い“魔族人形ガーゴイル”の攻撃を、何事もなかったように跳ね返す防御力が、普通じゃないわ! あと、戦って分かったけど、この動きやすさも尋常じゃないわね。まるで強化魔法を受けているように戦えたわ!」

「えっ? あっ、そういうことか」

エルザに指摘されて、思わず納得する。
たしかに《対環境服ノーマル・スーツ》を作る時に、『できるだけ動きやすく!』は意識して作っていた。そのためにエルザは戦いやすくかったのだろう。

あと素材のミスリス金属の良さも生かしたかったから、耐久性も落とさずに加工した。お蔭で“魔族人形ガーゴイル”を弾けたのかもしれない。

防御力が高く、動きやすい性能。製作者であるボク自身も、指摘されるまで気がつかなかった偶然の産物だ。

「ぐ、偶然の産物……って、ハルク、あんた自覚がないの⁉ アンタの作る道具の凄さを⁉」

「ガッハッハ……そこまでしておけ、エルザ嬢ちゃん。ハルクにとっては、この程度の《対環境服ノーマル・スーツ》は日用品を作るレベルの“普通”の仕事なんじゃ。あまり深く考えすぎるな」

「日用品を作るレベルの“普通”の仕事、って……そんな⁉ はぁ……まったく、この《対環境服ノーマル・スーツ》だけでも、神武具の防具の性能並だというのに……頭が痛いけど慣れるしかないのね、これは……」

何やらドルトンさんと話をして、エルザは納得していた。でも彼女はボクの方を見ながら、かなり呆れた表情だ。

「そういえば、さっきの“魔族人形ガーゴイル”はいったい何だったんだろう? 前はあんな魔物はいなかったのに?」

落ち着いてきたことで、ボクにその疑問が浮かんできた。
以前、ここで採掘していた時は、鉱脈内に“魔族人形ガーゴイル”なんて見たことは一度もないのだ。

「ふむ、小僧。その答えは簡単じゃ。“魔族人形ガーゴイル”は闇系の魔法の使い手が生み出す眷属。つまり、あの神殿らしき作った者が、置いていった罠じゃろう」

「えっ、闇系の魔法の使い手⁉ でも、それって……」

「ああ、そうじゃ。もしかしたらヒニクン国王の可能性もあるのう」

「そ、そんな……」

ドルトンさんの指摘に、ボクは思わず言葉を失ってしまう。何故なら一国の国王が闇系の魔法の使い手だなんて話は、聞いたことがないのだ。

「あっ……でも、そうか……」

同時に地上でのことを思い出す。
先々代ルインズ様の話によると、彼の息子ヒニクンは偶像崇拝者。しかも地下鉱脈を怪しげな魔道具で調査しているという。
つまりドルトンさんの指摘が当たっている可能性もあるのだ。

「そういえばハルク君。先ほどの神殿を調べて気がついたことがあります。おそらく神殿は二個で一組のタイプでした。もしかしたら似たような神殿があるかもしれません」

「えっ、そうなんだ⁉」

見習い魔術師のサラは、家の魔導書で似たような造りを見たことがあるという。それによると遠くない場所に、同じような神殿を作る必要があるのだ。

「ふむ、ということは鉱脈内に、もう一つ神殿がある可能性が高いのう。小僧、どこか心当たりがあるか?」

「心当たりですか? そうですね……あっ、そういえば、あります! ここと似たような雰囲気の空洞が、下の第三階層にあります!」

このミスリル鉱脈には色んな場所があるが、似たような雰囲気は他に一か所しかない。下の階層だけど荷馬車で移動すれば、それほど時間はかかならない場所だ。

「ここより更に魔素の濃い、下の階層ね。どうするの、ハルク?」

「もちろん、調査にいこう! 不安だけど、ここまで来たら最後まで調べたいから!」

ヒニクン国王が何者か知らないが、かなり危険なことをしている可能性が高い。
もしもそうだとしたらマリエルやミカエル国民が悪影響を及ぼす。

だから個人的にはボクは最後まで調査をして、できたら解決したいのだ。

あっ、でも他の皆は大丈夫だろうか? また危険な目に合う可能性が高いけど。

「愚問よ、ハルク。《剣聖》として闇系の魔法の使い手は放っておけないわ!」

「私もハルク君に付いていきます!」

「ふん。乗り掛かった舟じゃ。ワシも付き合うぞ」

「みんな、ありがとう……それじゃ、下の階層にいくよ!」

こうして“ハルク式荷馬車チャリオット・参式”を発進させて、更に下の階層の空洞へと向かうのであった。
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