独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

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第58話:適材適所

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サラの買い物に付き合って、高級魔道具店に来店。
クビになりそうな男性店員を助けるために、大商人マルキンに原石当てゲームを挑む。

「信じてください、マルキンさん! エドワードさんは必ず、貴方を助けてくれます! さぁ、エドワードさんも参加してください!」

正座しながら唖然としているエドワードさんの手を取り、強制的に原石鑑定ゲームに巻き込む。今回は発案者であるボクの権利を、強引に使用する。

「エ、エドワード。お前は、本当に分かるのか⁉」

「自信はありませんが、やってみます……」

混乱しているマルキンさんの隣に座り、エドワードさんは鑑定を始める。
鑑定用のルーペを使い、一つずつ石を調べていく。更にルーペを外して、素手で石の表面を確認していく。

「お、おい、ルーペを外して、何をしているのじゃ、エドワード⁉」

「これは石の表面の些細な違いを、確認しています。二十年以上前の修業時代……職人工房の先輩だったマルキン様が、未熟な弟子の私に教えてくれた鑑定の方法です」

マルキン魔道具店は店舗の他に、魔道具製造の工房もあるのだろう。若かい頃のエドワードさんは工房で、当時まで修行中だったマルキンさんと共に切磋琢磨していたのだ。

「なっ……そんなワシの昔の言葉を、よく覚えていたのか、お前は?」

「はい、旦那様。今は色々あって販売担当ですが……魔道具製造も好きだったもので」

会話をしながらもエドワードさんは、石の鑑定を続けていく。素手で感触を確かめ、ルーペで細部を確認していた。

――――そして表情が変わる。

「これです、お客様」

エドワードさんが差し出してきたのは一番小さな石。これがガルネット原石だと答えてきた。

「な⁉ ほ、本当に、それでいいのか、エドワード⁉」
「はい、旦那様。ここを見てください。微かに原石の痕跡が。あと、ここの質感が違います」
「むっ⁉ ほ、本当じゃ⁉ よくぞ、こんな些細な部分を……」

選出した石を、二人で再確認をしている。マルキンさんは納得しながら、エドワードさんに同意していた。

よし、悪くない雰囲気。タイミング的に今が最適だろう。
ボクはリュックサックから小型のハンマーを取り出す。

「それでは正解を発表します……はい、これが正解です!」

石を半分に叩き割る。中に見えるのは、燃えるように赤いガルネット宝玉。

「さすがです、エドワードさん! ボクの目に狂いはありませんでしたね!」

見込んだとおり、エドワードさんは見事に正解を選んでいたのだ。

「おおお! 本当にガルネット原石だった⁉ ん? し、しかしハルク様はどうして、このエドワードが正解を見抜けると、知っていたのですか⁉」

喜びながらもマルキンさんは混乱していた。
大商人である自分ですら、見破ることができなった些細な鑑定ゲーム。どうして一介の売り場店員であるエドワードが見破れたのか?
そして一番の謎は初対面のボクが、どうして見込んでいたのか?

全てのことが不思議過ぎて、マルキンさんは喜ぶところではないのだ。

「ボクが見込んでいたのは、“エドワードさんの手”に気がついたからです!」

「手……ですと?」

「はい。エドワードさんの手を、よく見てください。それは『日々本気で魔道具や原石を扱っている人の手』です! だから『この人なら見破れる』とボクは予想していたのです!」

エドワードさんの手は色んなところに、細かい傷や“道具タコ”があった。畑は違うけど同じ職人だから、ボクにはすぐに分かったのだ。

エドワードさんは売り場店員。だがきっと仕事が終わった夜や、休みの日を潰して、一生懸命に作業に取り組んでいたのだろう。

その本気の手を見ただけで、ボクの目に浮かんでくる。間違いなく『エドワードさんは魔道具や宝玉の加工が大好きな人』という事実が。
それほどの人なら原石当てゲームは簡単なのだ。

「本当なのか、エドワード?」

「はい……事実です、旦那様。実は希望とは違う“売り場コーナー”に急に異動となりましたが、今でも魔道具製造が忘れられなくて……人手の足りない工房の方も手伝いをしていました」

おそらく最近のエドワードさんは無理をして働いていたのだろう。そのため疲れとストレスが溜まり、サラに酷い接客をしてしまったのだ。

「な、なんじゃと⁉ お前が強制的に売り場に異動になったことは、人事部から何も聞いていないぞ、ワシは⁉」

一方で経営者のマルキンさんも多忙過ぎて、エドワードさんの異動の事情の把握できていなかった。
つまり今回は両者のすれ違いに、ボタンの掛け違いによって、起きてしまった事故みたいなものなのだ。

「あのー、ボクから提案なんですが。明日からでもエドワードさんを魔道具工房に戻す……というのはどうでしょうか? この人ほど魔道具製造を愛している人は、それほど多くはないと思います。マルキン魔道具店に将来的に、大きな利益を生み出すと思います! あっ……素人考えですが……」

言ってしまってから、少し後悔してしまう。鍛冶のことは経験あるけど、店の経営のことが素人なことを、興奮して忘れていたのだ。

「いや、ハルク様の提案は的確ですぞ。エドワードをクビにするのは止めます! そして提案のとおり魔道具工房に異動させますぞ!」

「だ、旦那様⁉ 本当ですか⁉ 本当に、また、あの場所に戻らせてもらえるんですか⁉」

一番喜んでいたのはエドワードさん。目を大きく開いて、マルキンさんに見つめている、

「ああ、本当だ。ワシの方こそ異動の件に気がつかなくて、すまなかったな。明日からは思う存分、魔道具工房でまた頼んだぞ!」

「はい、旦那様! 本当にありがとうございます!」

二人は手を取り合い、熱い握手を交わしていた。今回のことは本当に些細なズレから生じた事件。

だが元々、この二人は若い頃から、魔道具工房で修行した先輩後輩の同士たち。当時のことを思い出しながら、心を熱くさせていたのだ。

とにかくエドワードさんのクビが取り消しになって、本当によかった。

「さて、それではボクたちは失礼しまう。あと、鑑定ゲームの景品は、ここに置いていきます」

大きめなガルネット宝玉を、テーブルの上におく。勝負の結果は、見事にエドワード&マルキン組の勝ちなのだ。

「お、お待ち下さい、ハルク様! これは受け取れません! 今回のことは私たちのことを案じてことなのでしょう? 部下の将来性を見抜いてくれた恩として、経営者としてこれは受け取れません!」

だがマルキンさんは断固として、受け取らない。大商人として、一人男として受け取れないと、宣言してきた。

うーん、これは困ったぞ。
約束はしたから、ボクも引っ込めるのは格好がつかない。

あっ、そうだ。
ゲームの景品として受け取ってもらえないのなら、対価としてならどうだろう?

「それならマルキンさん。これはどうですか? 実はボクは“欲しい魔道具”が何個かあるんです。それを買う等価として、このガルネット宝玉を受けとってもらえませんか?」

サラが『魔道具店に買い物に行く』と言い出した時、実はボクも欲しい品があったのだ。
そのことを思い出して提案をしてみる。買い物ならマルキンさんは受け取ってくれるはずだ。

「……分かりました。それなら受け取ります。ですが『ハルク様は当マルキングループでの買い物は一生無料』ということになります。これで決定ですよ、ハルク様!」

「へっ? はい、ありがとうございます?」

よく分からない条件だけど、マルキンさんに無事にガルネット宝玉を受け取ってもらうことが出来た。

その後、下の階層で欲しい魔道具を、ボクは何個か買う。
値段はマルキンさんの指示で隠されてしまったので、いったい幾ら分の買い物になったか、ボクには分からない。

でもサラの驚いた反応を見た感じだと、凄く高い魔道具だったのかな?
よく分からないけど『高価な魔道具が一生無料』となったので、結果的に得した気がする。
なにせガルネット宝玉は原石を磨けば、もっと沢山収納してあるからね。

あと店を去る前に、エドワードさんに工具をプレゼントしてきた。あの人なら上手く活用してくれるだろう。

「さて、目当ての魔道具も買えたから、新しい鍛冶道具を作ろう!」

こうして魔道具店を後にしたボクは、新しい道具……“マリエル護衛をもっと安全に行うための道具”の製造に取りかかるのであった。
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