独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

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第53話:買い出し

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パーティードレスの危機を、なんとか乗り切ることができた。
マリエルは昨夜の宴で終始笑顔。ミカエルの貴族からも大人気で、そのまま宿泊の屋敷に戻っていった。



宴の翌日の朝になる。

「さて、今日のマリエルのスケジュールは……屋敷にいるみたいだから、護衛は大丈夫かな」

ボクは自分の屋敷で、朝食を終えたところ。朝食会場の廊下で、今日のスケジュールを思い出す。

昨日のミスリル・ミラー越しに、マリエルの王都滞在中のスケジュールは調査していた。それによると、今日のマリエルは護衛がいらない一日となる。
つまりボクたち三人も今日一日は、自由時間となる。

「ふむ。それならワシは工房で、自分の仕事をしてくるぞ」

ドワーフのドルトンさんは朝食後、庭の工房へと向かう。
ハメルーンの顧客から請け負っていた鍛冶の仕事を、王都滞在中もコツコツと進めていくのだ。

「サラも今日は勉強を?」

同じく直食後のサラに、今日の予定を尋ねてみる。
彼女が祖母から、多くの魔術の宿題を出されていた。時間がある時は、庭の魔道工房で勉強する予定なのだ。

「いえ、ハルク君。今日は魔道具の買い出しに、行こうかと思います」

「魔道具の買い出し?」

「はい。自分の研究用と、あと祖母から頼まれていた買い物があるので」

王都は大陸の中でも、かなり大きな都市。ハメルーンにない素材も、王都の大きな魔術専門店には売っているという。

「魔道具の買い出しか……あっ! よかったら、ボクも付き合っていい?」

「はい、もちろん。この店なんですが……場所、分かりますか?」

サラが出したのは、店名が書いてある紙。祖母マーズナルさんから聞いてきた、魔道具の専門店の名だという。

「うーん、ごめん。王都の店のことは、本当に分からないんだ」

王都には十年間住んでいたが、常に城の地下に鉱脈にいた。だから街の店のことは、全く知らない。
その代わり王都の地下の資質のことなら、隅々まで知っている。でも今は役に立たない知識だ。

「そうですか。それは困りましたね」

もちろん王都に初めて来たサラも、地理にはうとい。
もしかしたらドルトンさんなら知っているかもしれないが、今は工房に籠っている。さすがに仕事中に、道案内を頼むのは失礼というものだ。

――――そんな風に食堂前の廊下で、二人で困っていた時だった。

「おそれいります、ハルク様。よろしかったら、わたくしがご案内いたしましょうか?」

声をかけてきたのは、二十代半ばくらいのオールバックの青年……執事のセバスさんだ。
職務として魔道具店まで、道案内してくれるという。せっかくなので好意に甘えることにした。

「有りがたいです。よろしくお願いします!」

「かしこまりました。馬車を正面に用意いたします」
「えっ、馬車があるんですか?」
「はい。ルインズ様から承っております」

ルインズ様は先々代のミカエル国王。
セバスさんの本当の主であり、この屋敷の元の持ち主で、ボクが幼い時にお世話になった人だ。

なんでもボク専用の馬車を、昨日の内に用意。屋敷と同じく馬車もボクの名義だという。

「分かりました。それならお願いします。でも、できれば店から離れた所で、馬車から降ろしてもらえると助かります」

「かしこまりました。ですが、今後のために理由を聞いてもよろしいですか、ハルク様?」

「いやー、ボクは一介の駆け出し冒険者で鍛冶師なので、馬車なんて不相応な乗り物は、少し恥ずかしいんです。だから近くまで送ってくれたら、後は自分の足で歩いていきます!」

専用の馬車を使うのは、王族や上級貴族、大商人くらいなもの。ボクのような存在が使うべきではないのだ。
あと少し歩いて王都の街並みも見たい、という個人的な希望もあった。

「……かしこまりました。今後も肝に命じておきます。では馬車の準備ができましたので、こちらにどうぞ、ハルク様。サラ様」

セバスさんの案内で、用意された馬車に乗り込む。
乗ってみて驚いたけど、凄く豪華な馬車だった。
四頭の馬に引かれる大きな車体。外観には装飾品で豪華に飾られて、何かの家紋もあった。

馬車の中は高級ソファみたい座席で、テーブルや調度品も置かれている。
セバスさんの説明だと声をかけたら、飲み物や軽食も用意してくれるという。まるで貴族の応接間のようなリッチな馬車だった。

「す、凄いですね、ハルク君。ここだけの話、マリエル様の馬車よりも豪華ですね……」

「う、うん、そうだね。そして落ち着かないね」

サラと緊張しながら、馬車に揺れられていく。馬車には貴重なガラス小窓も付いており、外の景色を楽しむこともできた。
王都の大通りを進んでいくと、通行人が声を上げていた。

……「あら! あの豪華な馬車は一体、誰が乗っているのかしら?」
……「あの豪華さは王族や公爵クラスですわ、きっと……」
……「でも見たことがない家紋。もしかしたら他国の王族が乗っているのかしら?」
……「あんなリッチな場馬車に乗れる暮らし、憧れちゃうわね……」

そんな感じで通行人は、称賛と憧れの声を上げていた。
やはり王都の中でも、この馬車の豪華さは別格なのだろう。とにかく目立つ馬車なのだ。

「うっ……なんか、申し訳というか、恥ずかしいな……」

そんな称賛と憧れの声を聞きながら、ボクは肩身が狭くなる。
何故なら中に乗っているのは、一介の駆け出しの冒険者。月の十五万ペリカを稼ぐのも、ギリギリな庶民なのだ。

こんな豪華な馬車に乗っているのも、ルインズ様の温情があったから。かなり恥ずかしい。

「……ハルク様、お待たせいたしました。目的地の近くに到着しました」

セバスさんの指示で、馬車が停車する。窓の外の雰囲気的に、ひと気のない裏通りだ。

有能なセバスさんが気を効かせて、通行人が少ない場所を選んでくれたのだろう。有りがたい気配りだ。

「良かったら店頭まで、わたくしがご案内いたしますか、ハルク様?」

「えーと、大丈夫です。ここからなら大丈夫です。あと道は覚えたので、帰り二人で歩いて帰ります!」

執事服のセバスさんが同行したら、それこそ注目を浴びてしまう。丁重に辞退して、帰るは歩くと伝える。

「かしこまりました。それではお気をつけて、いってらっしゃいませ、ハルク様、サラ様」

セバスさんに見送られながら、サラと馬車から降りていく。
ボクたちは馬車とは無関係を装いながら、裏通りから大通りに向かう。

「あっ! ハルク君、あの看板……目的の店です」

「あっ、本当だ。うわぁ……それにしても大きな魔道具店だね……」

目的の店は、予想以上の大きさだった。
大通りに面した五階建ての商館。入り口には怖そうな守衛もいて、凄く厳格で高級そうな店だ。

「あんな高級そうな店……大丈夫かな、ボクは」

こうして不安を抱えながら、王都一の魔道具店に向かうのであった。
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