独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

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第49話:マリエルの外交

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王女マリエルを影ながら護衛するために、ボクたちはミカエル城内に潜入。
昔作った秘密の通路を使い、マリエルの後を追う。

「この先だよ!」

ミカエル城の敷地内にある王宮にやってきた。
王宮内の秘密通路を移動しながら、マリエルの居場所を探す。

「あっ、いた。マリエルだ!」

王宮内の一室に、銀髪色白の少女を発見。ハメルーン国の親善大使として、交渉のテーブルにつくマリエルだ。
彼女は席につきながら、ミカエル王国の外交官と、何か話をしている。今後の国交についての内容なのだろう。

「ハ、ハルク君。そんなガラスの前に立っていたら、バレちゃいますよ!」

「えっ、サラ、これのこと? 実はこれ、こっちからはガラスに見えるけど、向こうからは鏡に見えるんだ!」

たしかに周りから見たら、ボクは透明なガラスの前に立っている。でも大丈夫だと、説明する。

「ガ、ガラスの鏡だと⁉ どういう意味じゃ⁉」

「これは“ミスリル・マジック・ミラー”と言いまして、特殊なガラス鏡なんです、ドルトンさん!」

“ミスリル・マジック・ミラー”はボクが昔作った特殊なガラス。一方から見たら透明なガラスだけど、反対から見たら鏡にしか見えない。

つまりマリエルや外交官からは、ボクたちの姿はまったく見えない。でも反対のボクたちからは、部屋の中をクリアに見えるのだ。

ちなみに王宮や城の至る所の鏡に、“ミスリル・マジック・ミラー”をこっそり交換していた。深い理由はないけど、当時のほんの出来心だ。

「なっ、鏡とガラスの組み合わせじゃと⁉ まったくオヌシはとんでもない物を、相変わらず開発していたもんじゃな」

「えっへっへ……面目ないです。あっ、あと、これは防音性にも優れているので、こちらの声は向こうには聞こえないです。だから、二人ともこれを耳に当ててください!」

【収納】から新しい道具を取り出す。
金属製の筒状の形で、一方を耳に当てて、反対側を“ミスリル・マジック・ミラー”に当てる。

「これは“ミスリル集音器”と言いまして、こうすると小さな音や声も、大きく聞こえるんです! やってみて」

「うわ……本当だ……壁の向こうにいるマリエル様の声が、はっきりと聞こえます!」

「こ、これも凄まじい発明じゃな。こんな道具があったら、諜報のし放題じゃぞ⁉」

ドルトンさんの指摘は正しい。“ミスリル集音器”を使えば色んな場所の音を、盗み聞きできる。急に不安になってきた。

「たしかに、そうですね。真似されて、悪用されたら、どうしよう……」

「ふん。その心配ないぞ。こんな複雑なミスリル金属加工は、大陸広しといえどもオヌシしか出来ない。小僧が管理しておけば、量産されて悪用される可能性はないじゃろう」

「なるほど、そうなんですね。それなら安心しました!」

自分が作った道具が、悪用されるのは悲しい。今後は盗難に気を付けて扱っていこう。

そんな話をしながら、マリエルの会話を聞いていく。

ふむふむ、なるほど。
会議の中で、今後のマリエルの王都でのスケジュールも話していた。かなり役に立つ情報ばかり。ボクはノートにメモしておく。

そんな時、同じく聞いていたサラが、眉をひそめる。

「ねぇ、ハルク君。なんか、ミカエルの外交官の人……感じが悪く、ないですか?」

「うん、そうでね。ボクも感じていたけど、ちょっとマリエルに対して……ハメルーン国に対して、辛辣だね」

ミカエル外交官は表面上、ずっと笑顔だった。
でも、なにかにつけてマリエルに対して、色んな皮肉を言っていたのだ。

……「おや、ハメルーンでは、そんな設備もないのですか?」

……「それなら買えばいいのでは? おっと、失礼しました。小国であるハメルーンには難しい話でしたね」

……「もしも補償金が足りなければ、言ってください。いくらでも援助してあげますから」

……「王都滞在中で金銭に困ったら、いつでも相談してください。いつでもお貸しします。もちろん無利子で」

自分たちが大国であることを鼻にかけて、小国ハメルーンのことを馬鹿にしてきた。明らかに舐めた感じの雰囲気だ。

「そうですよね。どうして、あんな酷い皮肉を。あれじゃマリエル様が可哀想すぎます……」

「ふん、嬢ちゃん、しっかりすんだ。こうした国同士の交渉では、常に腹の探り合いじゃ。ミカエルの連中も今後の関係で、上に立ちたいのじゃろう」

悲しみ憤るボクたちに、老練なドルトンさんが説明してくれる。

ミカエル王国とハメルーン国は、つい先日まで敵対していた。
先代のダラク王が失態を犯して、ミカエル王国はお詫びの補償金を、ハメルーンに献上していた。

だが補償金はあくまで上辺的なものだけ。
今後の両国間のパワーバランスにおいて、ミカエル外交官はマウントを取りにきたのだろう。

……「それでは今日の話し合いはここまで。後日また、よろしくお願いします、マリエル姫」

そんな時、外交官の挨拶で、両国の話し合いが終わる。
説明によると、また二日後に会議が開催されるという。
今後も何回か会議を重ねることで、両国の関税や輸入輸出に関して決めていくらしい。

「ふう……」

会議が終わり、マリエルはかなり疲れた。でも顔には出さずに、王女としての気品で席を立つ。
そんな彼女に対して、外交官が声をかけてきた。

「あっ、そういえば、マリエル姫。確認ですが。今宵、この王宮で歓迎の宴席があります。もちろん参加ですよね?」

「えっ、歓迎の宴席……ですか⁉ 私は始めて耳にしますが……」

「おー、そうだったのですか。当方から事前に連絡をしておいたのですが、もしかしたら手違いがあったのかもしれませんね。では是非とも、今宵の参加をお待ちしています。失礼いたします」

そう一方的に言い放ち、外交官は部屋を去っていく。
部屋に残されたのは、マリエルとハメルーンの家臣だけだ。

「そんな……今宵急に、歓迎の宴が開催なんて……」

外交官が去り、マリエルは急に顔を青くする。

「姫様、急ぎ王都の仕立て屋を探してみましょう! もしかして見つかるかもしれません!」

「そうですわね。急がないと……」

ハメルーンの使節団は、かなり慌てていた。マリエルは顔を青くしたまま、部屋を飛びだしてく。

そんな様子を見ながら、鏡のこちら側でサラが心配そうにしていた。

「マリエル様……何が起きたの……ドルトンさん、分かりますか?」

「ふん。ミカエル王国もえげつないことをしてくるのう。連中は“姫さんに恥をかかせる”つもりなんじゃ。予定外の宴に招待することで、ハメルーン使節団を困らせていたのじゃ!」

ドルトンさんは説明してくれる。
一国の王城は出席する場に合わせて、ドレスを毎回変える必要がある。

だが今回のマリエルの任務は、あくまでも外交目的。華やかなパーティーの専用ドレスは、普通は持ってきていない。

そのことを見抜いていたミカエル外交官は、わざと歓迎の宴に招待。ドレスを用意していないマリエルに、恥をかかせようとしていたのだ。

そんな話を聞いて、ボクはふと疑問に思う。

「ドルトンさん、それならマリエルは断ればいいのでは?」

「ふん。相手はわざわざ『ハメルーン使節団の歓迎の宴』と言っていただろう。欠席したら『ハメルーン国のなんという非常識な下賤な国だ!』と、マウントを取ってくるつもりなのじゃろう」

「それならマリエルは、王都でドレスを買えば解決するのかな?」

「ふん、小僧、覚えておけ。王女クラスのドレスとなれば、名のある職人のオーダーメイド品が必須じゃ。寸法から仕立てまで、最低でも一週間はかかる。今宵の宴には絶対に間に合わん。お姫さんは今宵の宴で、間違いなく恥をかくじゃろうな」

「そ、そんなマリエル様……可愛そうすぎる……」

ドルトンさんの話を聞いて、サラは口を押える。友であるマリエルの悲痛な未来を聞いて、胸を痛めていたのだ。

おそらくミカエル外交官からの嫌がらせは、今後も続いていくのだろう。
友好的なふりをして、無理難題をマリエルに押しつけてくるのだ。

「私たちでマリエル様のドレスを、なんとか探すとは出来ないんですか?」

「こればかりは難しいのう、嬢ちゃん。ワシも鍛冶職人なら知り合いはいるが、ドレス職人は管轄外だ。今回ばかりは諦めるしかない」

「そ、そんなマリエル様……」

ドルトンさんとサラは、一気に暗い顔になる。
何もできない自分たちの無力さを、嘆いていた。それはもちろんボクも同じ気分だ。

(マリエルを助けてあげたい。でも鍛冶職人のボクも、助けることは出来ないし。どうすれば……あっ、そうだ!)

そんな時、あるアイデアが浮かんできた。これだった上手くいくかもしれない。

「あのー、ボクに作戦があります! これから王都のドレス屋さんに行きましょう!」

「ん? いきなり、どうした小僧。さっきも言った通り、王女クラスのドレスは急には作ってもらうことは……」

「いえ、そうじゃないんです! とりあえずドレス屋さんに行きましょう!」

今は説明している時間はない。
ボクを先頭にして、王都のドレス屋さんに向かうのであった。
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