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第42話:【幕話】:《剣聖》エルザ視点

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《赤髪の女剣士《剣聖》エルザの話》

エルザ=バンガロールは幼い時から、剣の天賦てんぶの才を有していた。
彼女が生まれ育ったのは“剣山”。大陸最高峰の剣の達人《剣神》の道場がある場所だ。

エルザは若干十歳にして大人の師範代を倒し、同期の中でも頭角を現しはじめる。
その後は十四歳の最年少で、大陸屈指の剣士の称号である《剣聖》の会得していた。

「ふん、たいしたことないわ! 同年代の男の剣士なんて、軟弱すぎるのよ!」

剣の才能がピカイチだったが、エルザは自分の才能を鼻にかける悪いクセあった。
そのため同年代の友だちは誰もいない。
いつも一人で剣の修行に明け暮れていたのだ。

そんなある日、師匠《剣神》から言われる。『エルザよ。外の広い世界に出て、仲間を見つけて、もっと自分を知るのだ』と。

そのため十五歳になったエルザは大陸の“剣山”を降りて、大陸を旅することになる。

「剣神様の話だと、もうすぐ魔王が復活する兆しがあるみたいだから、その前に魔物を減らしておかないとね!」

まずエルザが行ったのは魔物退治。
色んな街の冒険者ギルドにいって、強そうな魔物の依頼を片っ端から受けていく。

「ふん。剣神様の稽古に比べたら、魔物なんて雑魚だわ! これなら私一人でも楽勝ね!」

《剣聖》の称号を手にした彼女は、色んなスキルや加護を有していた。
そのため危険な魔物ですら、ソロで狩ることが可能だった。



だが、そんな連戦連勝中のエルザに危機が訪れる。

「ちっ……こいつは手強いわね……」

彼女が発見して、対峙したのは“魔神将ベリアル”。
魔族の中でも危険な《上級魔族》で、その中でも“名持ち”の強者だったのだ。

特殊な《魔王の加護》を有するベリアルに、エルザは押されていた。

『ぐっふぇっふぇっ! 噂ほどにものないな《剣聖》とやらも! 死ねぇせえ ん⁉ ――――グフッ!』

だが戦いの最中、事件が起きる。
ベリアル身体に“虹色の光”が飛来。

ヒューーー、ドーーーン!

直後、謎の衝撃が発生。
突然のことにエルザも吹き飛ばれてしまい、軽く意識を失ってしまう。

「うっ……」

すぐにスキルで身体に喝を入れ、なんと意識を回復。
立ち上がり、周りを見渡す。

「今の衝撃波は、いったい……ん⁉ そこのアナタ!」

気がつくとベリアルの近くに、見知らぬ男が立っていた。
黒髪の青年で、歳は自分と同じくらい。

剣を下げているから、冒険者なのであろうか。
だが鎧も装備しておらず、明らかに駆け出し冒険者風だ。

「危ないわよ! その魔人将ベリアルから離れなさい!」

エルザは即座に警告を発する。
何しろ駆け出し冒険者など、ベリアルにとって虫程度の相手なのだ。

「えっ? このウサギは死んでいるから、大丈夫ですよ。ほら、このとおり」

直後、黒髪の青年は驚愕の行動をする。
ベリアルの身体……死体を持ち上げて、地面に叩きつけたのだ。

「えっ⁉ な、なに、その怪力は⁉ それに、あのベリアルが死んでいる⁉ どうして⁉」

信じられないことが連発。
数百キロの重さはあるベリアルの巨体を、黒髪の青年は片手一本で軽々と持ち上げたのだ。

しかも地面に叩きつけられたベリアルは、既に死んでいた。
身体に大穴を開けて絶命していたのだ。

「もしかしたら……さっきの突然飛んできた“光の衝撃”が原因なの⁉」

エルザは直感で理解した。
先ほどの虹色の光……あれは遠距離攻撃だったことを。

とにかく信じられないほどの破壊力。
剣聖である自分が、なんど攻撃しても破壊できなかった《魔王の加護》を、いとも簡単に貫通していたのだ。

下手したら剣神と同じくらいの攻撃力……いや、それ以上かもしれない。
そしてエルザは疑問に思う。『虹色の攻撃を放ったのは、いったい誰なのか?』と。

明らかに怪しいのは突然、現れたこの黒髪の青年。何かを知っているのかもしれない。
聞き出そうと思った。

「えっ、もしかしたら、アンタが魔人将ベリアルを倒したの⁉ って、消えた⁉」

だが訊ねようとした次の瞬間、黒髪の青年は既に消えていた。
信じられない出来ごと。剣聖である自分の動体視力でも、まったく反応すら出来なかったのだ。

「今の動き⁉ 間違いないわ……ヤツが魔人将ベリアルを倒したのよ! でも、どうして逃げたの⁉」

魔人将を倒したことは、冒険者にとって何よりの栄誉。魔石も莫大な価値がある。
それなのに先ほどの青年は、興味すらなさそうに消えていったのだ。

「とにかく、さっきのヤツを探さないと。とりあえずこの辺で一番近い街……たしかハメルーンだったわね。そこでアイツを探してみないと!」

その後、黒髪の青年探しを、エルザは優先的に行う。
近隣のハメルーンの冒険者ギルドで、魔人将ベリアルのことを説明する。

受付の女の人に『魔人将すら一撃で倒す凄まじい魔法か、特殊能力の使い手がいる。見つけた情報提供者には、私が十万ペリカを払うわ!』と伝えておいた。

だが受付の女性は『黒髪の冒険者は当ギルドには一人しかいません。ですがその人は子鬼ゴブリンですら怖がる初心者なので、たぶん違います。他に見つかったら、すぐに連絡します』と返答してきた。

「ちっ……それなら違う街か。仕方がない、隣国の冒険者ギルドを、しらみつぶしに探していくわ!」

それからエルザは“黒髪の凄まじい魔法の使いの青年”を探す旅に、時間を費やしていく。
近隣諸国の冒険者ギルドで、魔物退治を受けながら謎の青年の行方を追う日々。
だが一向に青年の足取りは掴めなかった。



そんな半分、諦めかけていたある日だった。

「――――ん⁉ こ、この邪悪な気配は⁉」

旅をしていたエルザは、凄まじい嫌悪を感じる。危険な魔物が出現した気配だ。

「これは……ミカエル王都のあたり? いえ、ハメルーンの街に向かっているわ!」

エルザは《剣聖》の加護のお蔭で、邪悪な魔物を探知できる。急いでハメルーンへと向かう。

「ハメルーンにはたいした冒険者いなかったら、このレベルの魔物はマズイわ!」

最悪の場合、ハメルーンは国ごと滅んでしまう。
それほどまでの危険度の高い魔物の気配だった。

剣聖としての身体能力をフルに発揮して、エルザはハメルーンの街に到着。
だが周囲に危険な魔物姿は見えない。

「はぁ……はぁ……邪悪な魔物はどこ⁉」

ハメルーンの冒険者ギルドに到着したエルザは、すぐさま情報の確認。
目撃者の情報から、相手は漆黒の巨大な竜……暗黒古代竜エンシェント・ドラゴンバルドスだと判明した。

「暗黒古代竜エンシェント・ドラゴン……それはマズイわね……」

相手の正体を知り、エルザは思わず唾を飲み込む。

何しろ古代竜エンシェント・ドラゴンは大陸でも数匹しかいない伝説の魔物。
普通の竜とは別格の存在であり、剣神様ですら手出しをしていなかった存在なのだ。

「でも、相手は邪竜。ここで叩いておかないと……ハメルーンだけじゃなくて、大陸の危機になるわ!」

勇気を出してエルザ動く。《剣聖》のスキルを発動して、バルドスの詳細な位置を探る。

反応があったのはハメルーンの郊外の荒野。
意を決したエルザは、確認のために向かう。

だがエルザが到着する直前、不思議なことが起きる。
禍々しいバルドスの気配が、突然消えてしまったのだ。

そして現場に到着して、更なる驚きの光景を目にする。

「えっ、この素材は、もしかして、バルドスの⁉」

先ほどまでバルドスの気配があった場所に、膨大な量の素材が積まれていた。
大量の竜の爪牙や鱗、骨。
おそるおそる近づき確認してみたが間違いなかった。

「いったい誰が、あの危険な暗黒古代竜エンシェント・ドラゴンを倒したの⁉」

周囲には誰の気配もない。エルザ荒野の中で思わず叫んでしまう。

その後に到着したハメルーン軍から、エルザは情報を聞いていく。
だがバルドスを倒した者の姿を、誰も見ていないという。

唯一の目撃情報は、ハメルーンを襲っていたバルドスに対して、超遠距離から虹色の光の攻撃を放ち、邪竜の気を引きつけた者がいたことだ。

(虹色の光の攻撃……間違いない。ベリアルを倒した者と同じだわ!)

守備隊の目撃した存在……邪竜バルドスを討伐した者と、“魔神将ベリアル”を倒した人物は、同一人物の可能性が高いのだ。

その後、剣聖エルザはハメルーンの街の調査を再開。
目的は黒髪の青年を見つけ出すこと。だが一向に見つけ出すことは出来なかった。

でも、たまに彼女は妙な視線を感じていた。
……『うわー、あの子と顔を会わせると、“嫌な予感”がするんだよね。仕方がない、違う所にいこう』的な、不思議な視線を。

だが、視線を発した相手は、どこにもいないのだ。
結局のところ“黒髪の青年”を見つけることは出来なかった。

「どうしよう、これから? とりあえず邪竜の出現の最初の反応あった、ミカエル王都の調査をしてみるわ。アイツの情報がなにか得られるかも!」

こうしてハルクのことを執拗に探しているが、見事に規格外に避けられている剣聖エルザも、ミカエル王都に向かうのであった。
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