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第9話:鍛冶工房

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今は亡き友ゼノスのからの依頼を受ける。
新人冒険者として滅亡寸前の村スクルドを、立て直しをすることになった。

村の問題を解決するために第一段階として動きだすのであった。

「リンシア、まずは村の鍛冶場に案内してくれ。そこで問題解決の道具を作る」

「鍛冶場ですか?」

「ああ、村の外れにあるだろう?」

スクルドの村の奥に、鍛冶場の煙突を見かけた。
煙は出ていなかったが、場所はあるのだろう。

「えっ、はい。ですが、あそこは……」

「何か、問題があるのか? それでも構わないから、案内をしてくれ」

「はい、分かりました」

何やらリンシアは困った顔をしていた。
恐らく村の鍛冶場には問題があるのだろう。

だが今は恐れている場合ではない。
一刻も早く村の問題を、解決していく必要があるのだ。



リンシアの案内で、村外れにやってきた。
鍛冶小屋が見えてくる。

「ん? 随分と奇妙な建物だな?」

鍛冶小屋の外観は普通ではなかった。
村の建物とは明らかに違う。何かの呪いの人形も飾られている。

「実はあの小屋の職人は、ドワーフ族の方なのです」
「ドワーフ族だと?」

 思わず聞き返してしまう。
ドワーフ族は珍しい少数種族。王国内でもそれほど数は少ない。

だが彼らは生まれながらに手先が器用。しかも《鉄と火の神》に愛された種族だ。
多くの者は優れた鍛冶職人や鉱師として、大陸各地の要職に就いている。

普通はこんな辺境には住んでいない存在。
何故スクルドに住んでいるのだろうか。しかも、こんな村はずれに一人で。
しかもリンシアの先ほどの躊躇ちゅうちょした態度。

「何か、村の住人と、問題があるのか、ドワーフ職人が?」

「はい、ザガン様。実は今回の村の困窮の件で、村人と意見が割れてしまって。それで断絶状態になっていました……」

リンシアは言葉を濁しながら説明してきた。
ドワーフ族は優れた職人が多いが、性格もかなり独特。
それで村の住人と喧嘩しているのだろう。

「問題ない。それならオレが一人で話をつけにいく」

「えっ、ザガン様⁉」

リンシアの制止を振り切って、工房の中に入っていく。
中は鉄と炭の焼ける匂いがする。
ふむ、悪くない匂いだ。

「ふん! 入ってきたのは誰じゃ⁉ 村のために、もう道具は作らんぞ、ワシは!」

 いきなり工房の奥から怒声が飛んできた。かなりの声の圧力だ。

オレのことを交渉に来た村人だと、勘違いしているのだろう。帰れと言われる。

だがここで引き返す訳にはいかない。工房の奥へと進んでいく。

室内は照明が炊かれていているが、やや薄暗い雰囲気である。

「ほう、これは」

 奥の工房に入り、オレは思わず声をもらす。
奇妙な建物の外見とは違い、工房の中は見事に整っていたのだ。

 ふいご、金床など、使い込まれた鍛冶道具の数々が目に入る。
ドワーフ族の独特の道具もあるが、基本的には一般的な鍛冶の道具と同じだ。

「ふん! 誰じゃキサマは⁉ 勝手に入って来て、賊か⁉ それなら容赦はせんぞ!」

 奥の工房にいたのは、一人のドワーフ族の老人。
手には大きな戦斧を構えている。

彼らドワーフ族は小柄で樽のような体型だが、信じられないほどの筋肉質。
戦士としても一流の種族なのだ。

「バルドンさん! お待ちください。その方は賊ではありません! ザガン様という、村で雇った冒険者の方です!」

慌ててリンシアが割って入ってくる。心配になって駆けつけてくれたのだ。

「はん⁉ 雇った冒険者だと⁉ 今さら何をするつもりだ? 勝手にやっている。ワシはもう知らんと言っただろう、リンシア嬢よ!」

この老鍛冶師はバルドンという名なのであろう。

会話的にリンシアには、それほど怒りは向けられていない。
他の村人たちと……おそらく村長や老人会と、何か喧嘩をしているのだろう。

「で、ですが話だけもで聞いてください、バルドンさん……」
「リンシア。後はオレから話をつける」

優しい彼女では、このままではラチがあかない。話の主導権を譲ってもらう。

「さて、オレの名はザガンだ。駆け出しの冒険者で、縁あってスクルドの村を助ける任に就いている」

「はん⁉ 村を助ける任じゃと⁉ キサマはこの村に迫っている危機は、何も知らんのじゃろう⁉ 今さら駆け出しの冒険者一人きたところで、もう手遅れなのじゃ! だからワシがずっと前から警告していたのに、村の奴らに。それなのに、連中ときたらワシのことを……」

なるほど、そういうことか。
だいたいの事情が分かった。

おそらくドワーフ族で、勘が鋭いバルトンは以前から、村の森と湖の異変を感じ取っていたのだろう。

だが村人たちは警告を聞かずに、生活を続けてきた。
そればかりバルトンのことを『嘘つき』呼ばわりしてきたのだろう。

そして実際に村は窮地に陥った。
だからこの頑固な老鍛冶師は、ここまで憤っているのだ。

怒っているのは、話を聞かなかった村人たちに対して。
そして窮地に陥るのを防げなかった、自分自身を責めているのだ。

「さて過去のことは、今は置いておこう。それより、あんたに頼みがある、バルドン」

「なっ⁉ 今の話を聞いていなかったのか、キサマは⁉ ワシは協力などせんぞ!」

「協力は不要だ。鍛冶工房の端を……そうだ、あの場所を借りたい」

攻防の奥に、使っていない場所を発見。
おそらく予備の場所なのであろう。
オレが作業しても支障はなさそうだ。

「あそこを借りたいじゃと? キサマ、鍛冶師なのか?」

「いや違う。だが多少かじったことはある」

高ランカー冒険者になるためには、色んな技術が必須。
鍛冶スキルも冒険者時代に、会得していたのだ。

「なんじゃと⁉ ふん。それは見物じゃのう! 勝手に使え。じゃが、少しでも邪魔なら、すぐに叩き出すからな!」

「ああ、感謝する」

工房の主に許可は出た。
オレはリンシアと工房の奥に向かう。

「さて、作業に入るか」

収納魔法で自分の鍛冶道具と、材料を出していく。
材料は今まで集めてきた金属や木材、魔物と魔獣の素材だ。

「ん? 随分と変わった材料ですね、ザガン様?」

「ああ、そうだな。趣味で集めていたものだ」

本当は駆け出しの冒険者が、これらを集められる代物ではない。
だが一般人のリンシアが見ても、その価値は分からない。誤魔化しておく。

……「ま、まさか……あの金属……⁉ それに、あの魔獣の素材は⁉」

だが監視していたバルドンの声が、向こうから聞こえてくる。
どうやら材料の正体に、一瞬で気がついたようだ。
さすがにドワーフ族の職人。

いや、オレの見込みが外れていなければ、バルドンは“普通のドワーフ職人”ではない。
だが、それを聞くのは、もっと後。今は鍛冶作業に集中する。

「ふう……いくぞ」

自分の鍛冶道具を使い、作業にとりかかる。

金属を熱して、形を変えて加工。
同時に木材と魔獣の素材も、脇で加工していく。

かなり忙しい作業だが、冒険者に多くのスキルを習得。
今はレベル1に下げているが問題はない。

こうした作業で大事なのは、スキルレベルの高さではない。
経験と知識、そして物づくりに対する飽くなき集中力なのだ。

――――二時間後、目的の品は完成する。

「よし、出来たぞ。今後はこれを量産していく」

「えっ……これは弓ですか、ザガン様? 随分と複雑な形をしていますが?」

「ああ、そうだ。いしゆみの一種で、“連射式クロスボウ”という遠距離武器だ」

今回、オレが製造したのはクロスボウ。
普通のいしゆみの威力は高いが、単発でしか発射できない。

だが特殊な仕組みと魔獣の素材で、連射できるように改造したもの。
しかも特殊な仕組みで、子どもや老人でも扱うことが可能。

冒険者時代に発案したオレのオリジナルの武器で、今回の村の復興に使うものだ。

「そ、それがいしゆみじゃと⁉ 貸せ!」

いきなり駆け寄ってきた老鍛冶師バルドンが、オレの手から完成品を奪い取っていく。
食い入るように監察していた。

「なるほど……ここの仕組みで、連射を可能に……こっちはテコの原理で、力の弱い者でも扱えるようにしているのか……⁉」

 驚いたことにバルドン一瞬で、クロスボウの仕組みを理解していた。
 オレが編み出した特殊な仕組みを、次々と見抜いているのだ。

(ほほう? やはり、この職人は……)

その眼力に驚きながらも、オレは理解する。
やはりこの男は普通のドワーフ族の職人ではないのだ。

「さて、感心している場合ではないぞ。今度はお前が、それを再現するのだ」

だからオレは挑発する。
頑固な老職人を敢えて挑発したのだ。

「な、なんじゃと⁉ 何を言いだすのじゃ、駆け出しの冒険者のクセに?」

案の定バルドンは激怒する。
自分勝手な言い分だと、相手に思われていたのだろう。
だがオレは言葉を続けていく。

「まさか作れないのか? オレの知り合いのドワーフ族の職人は、この程度なら苦も無く再現できるぞ?」

「な、なんじゃと⁉ 誰に口をきいているのじゃ、この若造め!」

こうして工房の中に、険悪な空気が張り詰めるのであった。
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