99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

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最終話:おかえり

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バルマン攻防戦の勝利から、日が経つ。

 援軍として駆けつけた諸侯連合軍は、妖魔の残党を完全に駆逐したのを確認。
各領地に帰還していった。

「皆さま、本当にありがとうございました」

 残務処理があった私はバルマンの残り、去って行くみんなを見送った。
 騎士ラインハルトやジーク様との挨拶は、ちゃんとできずドタバタした別れ際だった

 何しろ彼らも急ぎ戻る必要があった。規律違反を冒してまで救援に来たからだ。
 ラインハルトとジーク様は勝手にペガサスを使い、無断で出陣してきたという。
 
 緊急事態とはいえ、これは立派な軍機違反。
急ぎ戻らないと、何らかのペナルティーを受けるという話であった。何も処分がなければ、よいのだけれど。



そういえばバルマンの街の復興は、急ピッチで進んでいる。

「街の再興に、当家は全ての財を放出する。更に復興期間は税も無税とする!」
 
 終戦翌日、バルマン“新”侯爵クラウド・バルマンの名において、そんな復興宣言が出された。
怪我を理由にお父様は引退。代わりに兄クラウドが新領主となったのだ。

 家族を失った市民や、倒壊した我が家に悲観して市民は、新当主のそんな温情に湧きあがっていた。
復興景気ともいえる活気で、バルマンの街へ復興が早くも始まっていたのだ。

「ですがクラウドお兄様。無税ですと、財源が大変なことになりませんか?」

大胆な政策を行った兄に、私はおそるおそる尋ねる。
市民にはありがたい特例だが、税収財源がなければ貴族は生きていけない。また城の修復にも莫大な費用がかかるのだ。

「その心配はない、マリア。先日在位された"新教皇”から、ケタ外れな多額の寄付の申し出が、バルマン家にあったのだ」

「教会から寄付金が? でも、どうして?」

「まぁ、今回の事件の手打ち金だな」

 クラウドお兄様から裏事情を聞く。
 
 今回のバルマン襲撃の首謀者は、自分たちの読み通り教皇ヒリスであった。
 だが問い詰めた教会からの返答は、次の通り。

……『“前”教皇ヒリスの独断による暴走行為』

 理由は不明であるが、ヒリスは昔からバルマン家に恨みをもっていた。
ゆえに教皇の権力を横暴に使い、今回の暴走に至ったという。

……『またヒリスは事件の“数日前”に、教皇を辞任。教会法により、教会は今回の事件には一切関係ない』

 教会からの返答はそんなものだった。
こちらは街ごと消滅する危機だったというのに、信じられない言い訳であった。

「寄付金の他に多くの補償があった。新教皇に貸しもできた。今回は痛み分けといったところだな。だから、そう怖い顔をするな、マリア」

「はい、分かりました。お兄様が。そう仰るのなら」

 消滅寸前であったバルマンであったが、市民の死傷者はそれほど大きくはない。
妖魔軍が街を襲撃せずに、城に向けて一直線に攻めて来たからだ。

一番の人的被害は、あの西門の守備兵たち。他の守備兵は、予想以上に死者が多くはなかった。
バルマン主力騎士団がほぼ無傷で残っていたために、軍事力に関しても今後も問題はなかった。

 また寄付金の他にも、バルマンには多くの寄付謝礼があった。
当主を引退したお父様には、帝都の大臣の席が与えられる。クラウドお兄さまにも新たなる爵位と、肥沃な領地が与えられた。

 加えて教会の保有する金山の一つが、バルマン家に譲渡された。
 これによりバルマンは侯爵家でありながら、帝国内でも有数の大貴族へと成り上がった。

(客観的に見たら、結果としてバルマン家の逆転勝ちか。でも、なんか納得いかないな……)

 貴族や聖職者たちによる権力争いは、この世界ではよくある話。今回の手打ちに関しては、キレイにこれで収まった方なのであろう。

教会が全面的に折れてくれたこともあり、誰もこれ以上の追及はせずにいた。間違いなくバルマンの勝利ともいえた。
 
(でも前教皇ヒリスは……謎の事故死、か)

だが私は不安と違和感をぬぐえなかった

 教皇ですらも簡単に葬り去る強大な力が、この帝国内にあることに。まだ事件は終わっていないような気がしていたのだ。



「では、学園に戻りますわ」

 復興の手続きがある程度済み、私が学園に戻る日がきた。
バルマン家の皆と挨拶をする。

「何か辛いことあったら、またいつでも戻ってくるのだぞ、マリア」

「お父様、それはマリアが勉学に集中できませんよ」

「うむ、そうか」

 私の乗る馬車を、お父様とお兄様が先頭に立ち、見送ってくれる。
 先日の事件以来、お父様は更に親バカで、心配性になった気がする。

あの時の勇ましい〝荒騎士エドワード卿”はどこにいったのであろうと、私は心の中で思う。
 でも、やっぱり、こんな暖かいお父様の方が、私は大好きかも。

「お父様、クラウドお兄様、お元気で」

 走り出した馬車の小窓から、最後の別れの挨拶をする。

 徐々に小さくなる家族の姿に、思わず目頭が熱くなる。なんか最近はいつもこうだ。
すぐに涙が出ちゃうというか、感動して感極まってしまう。

 歳をとったから……ではなく、この身体の私マリアンヌの影響かもしれない。
幼いころは優しくて、感動屋さんで多感な乙女だったのだ。

「ハンス、ハンカチをちょうだい……」

 こぼれ落ちそうな涙を拭こうと、若執事の名を呼ぶ。

 あっ……そうか。
 ハンスはこの馬車には乗っていなかったんだ。
 別の侍女が気づいて、ハンカチをくれる。

 涙は拭いたけど、心はぽっかりと穴が空いた感じであった。
 ハンスは私たちのために大けがを負って、今は学園で治療中だという話。心配で仕方がない。

「ハンス……ヒドリーナさん、エリザベスさん……それにクラスの皆さま。どんな顔をして会えばいいのかな……」

 揺れ動く馬車の中で、誰にも聞かれないように、小さくつぶやく。
自分はこれから数日かけて、ファルマの学園へ戻る。

 だが私はいったいどんな態度で、みんなに接していけばいいのか分からなかった。

(バルマン家を助けるために、ヒドリーナさんたちも、かなり無理を言ったのだろうな……)

バルマン家を救出のために、近隣各諸侯が援軍で来てくれた。
ジーク様の話では、ファルマ学園にいたヒドリーナさんやエリザベスさたちが、各実家の両親を遠距離魔道具で説得してくれたのだ。

 だが明らかに強引に出兵を頼んだのだろう。
もしかしたら今後の彼女たちの学生活に、悪影響を及ぼすかもしれない。

いや、卒業後の進路や爵位にも、大きな支障をきたすかもしれない。今回のことは明らかに令嬢の権限を越えていたのだ。

(私とバルマン家のために、みんなは無理をしてしまった。どうしよう……)

 どんな顔で皆と、何を話せばいいのであろうか?

 感謝すればいいのか?
それとも謝罪するのか?

分からない。
 気まずくて胸が締め付けられそうである。

「それに学園祭も、中止にしてしまった」

 ファルマの学園の一大イベントである学園祭は、既に終わっていた。
正確にはバルマンの事件が、ハンスによって伝わり中止になったのだ。

 全生徒があれほど楽しみにしていた今年の学園祭が、完全に無くなってしまった。
 私が知った情報の中で、これはある意味で一番辛かった。
 
 学園祭という大きな目標があって、私はクラスのみんなと少しだけ仲良くなれた。
ヒドリーナさんやエリザベスさんとも、距離が縮まって感じもする。

「予定通りに開催されていたら。きっと楽しかったんだろうな……」

 小窓の外の景色を眺めながら、失われた可能性をつい想像してしまう。



 バルマンを出発してから数日が経つ。
私を乗せた馬車は、学園都市ファルマに到着する。

 堅牢な城門をくぐり抜けて、馬車は街の大通りを真っ直ぐ進んでいく。

 久しぶりのファルマだけども、街の様子は全く変わっていなかった。
威勢のいい客引きの声が響きわたり、露店や市場を行き交う市民で賑わっている。

 誰も笑顔で活気のある学園都市の様子。まだ落ち込んでいた私には、眩しく映っていた。

「ふう……もうすぐ、学園の正門ね」

憂鬱だった心が、更に重くなる。
みんなにどんな顔をして、言葉を発すればいいか。ここ数日間、いくら悩んでも見当がつかなったのだ。

逆にみんなはどんな態度で、私に接してくるのかな?
もしかしたら怒ってくるのかな。それとも無視してくるのかな。
それとも今まで通りに、遠巻きに見てくるだけなのかな

今日は休日だから授業はない。
皆は優雅な時間を過ごしているはずだ。

でも明日から平日で、授業がある。
最初の授業時間は自分にとって、試練であり地獄の時間なのかもしれない。胸が苦しくなる。

「マリアンヌお嬢さま、正門が見えてまいりました」

「ええ……」

馬車を操る御者の言葉に、思わず気の抜けた返事をしてしまう。
いよいよ戻ってきてしまったのだ。

「あら? 随分と正門が騒がしいわね……」

いつもは厳重な警備が敷かれ、静かな学園の正門が、何やら人の声で騒がしい。
何事かと思い、私は馬車の小窓を少し開けて確認する。
自分がいない間に何かあったのであろうか?

「えっ……? 一般の方々が? それに、正門に装飾が?」

それは不思議な光景であった。
普段のファルマ学園の警備は厳重、一般市民の入場は固く禁じられていた。

だが小窓から見えた正門には、敷地内に歩いていく市民の姿が見えたのだ。
いつもは灰色で無機質な正門に、煌びやか花飾りやタペストリーで、装飾もされていた。

私のいない間に、学園にいったい何が起きたのであろう?
混乱したまま、馬車は広大な学園の敷地内を進んでゆく。



目的地に到着して、馬車が止まる。

でも、止まる場所がおかしい。
学園の校舎に前に止まってしまったのだ。

今日は休日で授業はないので、学生寮に真っ直ぐに向かう指示を出していた。
御者に確認をしないと。

「ここは場所が違いますわよ?」

「いえ。こちらで大丈夫でございます、マリアンヌお嬢さま。皆さまがお待ちでございます」

確認した御者が、不思議な返事をしてくる。
何のことを言っているのであろうか。
でも、この者は古くからバルマン家に仕える臣下で、信じられる人であった。

だったら何だろう?
待っているって何だろう?

不思議に思いながらも扉を開けて、私は乗っていた馬車から降りる。

「えっ……」

思わず声が出てしまった。

――――信じられない光景が、目の前に広がっていたのだ。

「なんで……こんな……」

目の前の様子を再度確認して、また声を出してしまう。

「マリアンヌ様、お待ちしておりましたわ」

校舎の正面玄関で、ヒドリーナさんが出迎えていてくれていたのだ。

「マリアンヌ様、お帰りなさいませ」
「マリアンヌ様、お疲れ様です」
「マリアンヌ様!」

出迎えてくれたのは、ヒドリーナさんだけではなかった。

同じクラス委員長さんと、クラスメイトのみんな。
それに学食でよく見かける同期の人たちもいた。

そして校舎にいたのは、彼女たちだけではなかった。
多くの市民や生徒たちが笑顔で、校舎の中へ出入りをしている。

更に校舎の横には、露店や臨時の市場も立ち並び賑わっていたのだ。

「これは……いった……?」

狐につつまれたような光景に、私は言葉を失う。

 休日の学園で、いったい何が起きているのであろうか。
まさかの光景に私は呆然と立ち尽くし、言葉を失う。

「おっ、マリア、偶然だな! 今、帰ってきたのか!」

「おい、ライン。ずっとここで待っていたのに。相変わらず、演技が下手だな」

「ライン? それにジーク様も⁉」

 二人の騎士の新たなる登場に、私は更に驚く。
いったい何が起きているのか見当もつかない。
頭を回転さて推測しようにも、考えがまったく及ばないのだ。

「これは学園祭が……開催されている? でも、なぜ?」

 信じられないことに今、ファルマの〝学園祭”が行われていたのだ。

 メイド服を着ているヒドリーナさんとクラスメイトたち。
市民に開放されている学園の状況。
間違いなく学園祭が開催されている真っ最中なのだ。

「はっはっは……どうだ、驚いただろ? マリア?」

 目を丸くして固まっている私に、ラインハルトはドヤ顔をしてくる。

「そうだ、マリア。今日は学園祭を開催中だ」

 ジーク様は静かに説明をしてくれる。
私の帰還を数日前に知り、中止になった学園祭を、急遽開催することになったことを。

 生徒会であるラインハルトやエリザベスさんが尽力して、全生徒や学園長を説得したことを。
 
 緊急開催ということもあって、今後の学園生活のスケジュールにも多少の無理はかかる。
だが全生徒と教師が、満場一致で賛成してくれたという。
 
「だからマリアは心を痛める心配はない。これは私たちが望んだ、今年の学園祭の形なのだ」

私に気づかいながら、ジーク様は事情を説明してくれた。

「そんな……皆さま……」

 ジーク様の説明を聞きながら、私は皆の顔を見る。
 自分も何か言葉を発しないと。お礼の言葉を伝えないと。

でも、こみ上げてきた涙で、胸が熱くなり、上手く感謝の言葉を口に出来なかった。

「マリアお嬢様、こちらをどうぞ」

 そっとハンカチが差し出されてくる。
涙を拭こうとしていた最高のタイミングで、誰かがサポートしてくれたのだ。

「ハンス⁉ あなたご無事で⁉」

 ハンカチをくれたのは、若執事ハンスであった。
 全身に大けがを負っていたはずなのに、それを感じさせないような、いつもの完璧な執事の姿だ。

「はい、この通り。これもお嬢様の貸してくれた、あの“護符の枝”のおかげです。私がこうして生きているのも……」

 ハンスは少しだけ語ってくれた。
 バルマンの街から学園都市までの、山越えの苦難の道を。
三日三晩、不眠不休で妖魔の群れの中を、駆け抜けてきた悲痛な物語を。

そんな中、ハンスが絶体絶命の窮地に陥ったその時。
私が渡した“木の枝くん”が、彼の“生きる道”を示し、命を救ってくれたのだという。

「そんなハンス……でも、無事で本当によかった……」

 何の変哲もない木の枝に、そんな力はない。
ハンスは信じ切っているけども、偶然の積み重ねであろう。
 
 でも、そんな偶然であっても、ハンスの命が無事でよかった。
 幼い時から付き合いである執事ハンスの無事に、拭いたはずの涙がまた出てしまう。

「マリアンヌ様、泣いている場合ではございませんわ」

 タイミングを見計らって、ヒドリーナさんが歩み寄ってくる。
その手に一着の女性服を持っていた。

「ヒドリーナ様……それは、もしかして私の……?」

 彼女が持っていたのはメイド服であった。
私が苦心してデザインして、オーダーメイドで作ってもらった思い出の制服。

「はい、こちらはマリアンヌ様の専用服ですわ。今日は当店の総括として、ご指導よろしくお願いいたしますわ!」

 私の言葉に、ヒドリーナさんは微笑みで答える。
そしてその後ろにいたクラスのみんなも、メイドスマイルを浮べてきた。

「皆さま、ありがとうございます……。ふう……それでは、参りますか。私の指導は少々厳しいですわよ!」

 涙を拭きとり、私は衣装を受け取る。
 時間は少し過ぎたけど、学園祭はこれからが本番だ。

せっかくみんなが無理を承知で、延期してくれたこの機会。
最後まで絶対に後悔したくない。

よし。ファルマの学園の史上初のメイドカフェ。
オープニング・セレモニーと行こうよ、みんな!

「じゃあ、オレ様たちが一番客でいこうぜ、ジーク」

「ああ、そうだな。ちょうど、あっちからエリザベスも来たからも、相手を頼むぞ、ライン」

私たちはメイドカフェ化した、自分たちの教室に向かう。
ラインハルトとジーク様もそれに加わり、賑やかで華やかな一行になる。

あとエリザベスさんも、ラインハルトの名を叫びながら、向こうから駆け寄ってきた。

 今日はこれから本当に、賑やかな一日になりそうな予感がする。

――――そして本当に楽しい、思い出の最高の学園祭になるだろう。



 こうして数週間遅れで、ファルマの学園祭は開催された。

 大幅なスケジュール変更で、教員生徒の負担は小さくない。

 だが不平不満を漏らす者は、誰ひとりいなかった。

 何故なら彼らは知っていた。
 マリアンヌ=バルマンが入学式以降、この学園で不器用ながらも、懸命に励んでいたことを。

 そして彼らを聞いていた。
 バルマンの街を救うために、勇気を振り絞りペガサスを駆け、勇ましい姿で輝いていたマリアンヌ=バルマンの逸話を。

 誰も口にしていないが、心の奥で感じていた。
 滅びの運命にある、この大陸を救う救世主メシア
〝伝説の乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダー”が、もしかしたらマリアンヌ=バルマンではないかと。



「もう私は一人ぼっちじゃないんだよね、きっと」

 メイドカフェを大成功に終えて、マリアンヌは幸せそうな笑みでそう呟いた。

 ――――だが、この時のマリアンヌは知らなかった。

 この後の後夜祭で、周りをドン引きさせてしまう事件を、自分がまた起こすことを。

 それによって学園生徒たちからまた一目置かれて、ぼっち街道に進んで行くことを。

「よし、これで私の死亡フラグも一人ぼっち街道も、おさらばね!」

こうしてマリアンヌ=バルマンの学生生活は、本格的にメインイベントに突入していくのであった。
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感想 6

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みんなの感想(6件)

ふく
2020.05.27 ふく

毎日楽しく読んでいます。

35話のクラス委員の話が重複して更新されていました。気のせいかな?とも、最初思ったのですがご確認お願いします。

解除
松竹梅
2020.05.26 松竹梅

35話が2回投稿されてます?

解除
智乃
2020.05.14 智乃

お花見、今年はできませんでした💧
一面のさくら、舞い散る花びら良いですね🌸

解除

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