99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

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第28話:中庭の散策

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 学食を逃げるように飛び出してきた私は、人気のない学園の中庭にきた。

「ここなら誰もいなそうですわ……」

 梅雨の合間で、運よく雨も止んで曇り空。
 頭上にあるどんより雲が、一人の私には妙に重く感じる。

 あー、それにしてもやってしまった。
 私は逃げてきちゃったのだ。
 
そういえば学食で声をかけてきた子がいた。
でも私は話を最後まで聞かずに、いきなり飛び出してきた。
何か申し訳ない感が全開だ。
 
彼女は何を言いたかったのかな?
『一緒にお茶……』とか聞こえたような気がしたけど、気のせいかなやっぱり。

とにかく今は、あの場所には戻れない。
ぼっちには学食には眩しすぎる場所なのだ。

 ふう……さて、これからどうしよう?

 昼の休憩時間が終わるまで、あと一時間以上もある。
 
 次の授業の教室に早く行っても、今日の教室でも一人。

あと食後の定番といえばティールームか。
いや、あんな陽の場所に、今行ったらぼっち爆死確定だ。

 よし、決めた。
こうなったら中庭を散策して、ギリギリまで時間をつぶそう。
 足腰の鍛錬にもなるから、一石二鳥だよ、きっと!

 よし、そうと決まったら、進む方角を決めないとね。

 おっ、こんな所に、ちょうど良い感じ“木の枝”が落ちている。
これが倒れた方角へ、散策に行こう。

 ころん。
 
 なるほど木の枝君。
私の向かうべき方角はそっちね。
大航海時代の羅針盤のような指針だね、キミは。

「では中庭の航海の旅へ、出港しますわ!」

こうして私は冒険に出かけることにした。
これまで入ったことのない、未知の中庭に向けて。

すたすた……

冒険は順調に進んでいく。

「あら、鳥さんごきげんよう。それにお花さんも、素敵なお召し物ね♪」

 中庭は自然が豊かであった。
道中で目にした動植物に声をかけながら、私はどんどん進んでいく。

ちなみに私には動植物と会話ができる、特別なスキルはない。
ただの独り言だ。

ぶつぶつ言いながら、木の枝を振り回しながら、散歩している豪華なドレスの令嬢。
はたから見ると怪しい光景。

でも人気のない中庭には、とがめる者もいない。
恥ずるべき相手の令嬢たちもいないのだ。

周りにあるのは美しい花々と、鳥たちの優雅なさえずりだけ。
まさに自由奔放な空間なのだ。

ああ、気持ちいい!

こうした自然を満喫するのは、久しぶりな感じがする。
 こちらの世界に来てからは、豪華なドレスを着込んで、立派な屋敷や学園での生活の日々だった。

でも前世の私は地方住まいで、小さい頃は近所の野山でよく遊んでいた。
令嬢であるマリアンヌさんとは真逆の幼少期。

えっ、マリアンヌさんも、同じなの⁉

そっか……私の記憶の中にある"マリアンヌさん”も、実は小さいころはおてんば娘さんだったのだ。
 
病床のお母様に、キレイなお花や木の実をプレゼントするのが日課。
屋敷の周りの林に、よく遊びに行っていた。

お母様が亡くなった後は、立派な侯爵令嬢になるために、堅苦しい習い事としつけの日々。
そうか……それは中々たいへんだったね、マリアンヌさん。

よし。
それなら今日はこの自然を、一緒に満喫しようね。私の中のマリアンヌさん!

 ふふふ……なんか楽しくなってきた。
あと、もう寂しくない。

 なぜなら私は今、新しいスキルを習得したのだ。

 その名も『自分の中のマリアンヌさんと、お友だちになって遊ぼう!』だ。

 えっ?
 はたから見ると危ない子だって?
独り言を言いながら、ニヤニヤしているって、私が?

 し、仕方がないでしょう。
 私はマリアンヌさんであり、マリアンヌさんは私なの。
少しくらいの自己妄想は、大目にみてよね。

 でも、ニヤニヤするのは気をつておこう、やっぱり。

ん?

――――そんな時だった。

 散策していた私の耳に、何かが聴こえてきた。
 すごくキレイな音だ。

 鳥のさえずり……じゃない?
風が枝葉と奏でる音……でもない

これは誰か人の想いが、風にのっているメロディーだ。
でも凄く自然に調和している。

誰が演奏しているんだろう……?

不思議と、その音に惹かれる。
私の足は自然と、その主の元へと向かっていた。

しばらく庭の中を進んでいく。

「あっ……誰かが……いた」

人影を見つけた。
ひと気のない中庭の一角。
誰かが美しい音色を奏でている。

 楽器はフルートみたいな感じ。
 逆光で顔はよく見えない。
着ている服から、きっと学園の騎士だ。

もう少し近くで聞いてみたい。
ちょっと人気のない中庭で、乙女は少し危険な状況。

でも私には『大丈夫』だという確信があった。
何故なら『こんなキレイな音色を出せる人は、悪い人ではない』と感じていたのだ。

 ああ……それにしても本当に澄んだ音。
 もう少し近づいて聞いてもようかな。

 あっ⁉
足元の木の根に、つまずきそうになる。

あぶない、私!
ふう……危なかった。
前に三歩ほど、“おっとっと”して立ち直すことに成功。

 とっさの踏ん張り、転ぶのだけは回避に成功した。

――――でも、隠れるのには失敗していた。

「誰だ⁉ そこにいるのは⁉」

静かにフルートを奏でていた騎士の方に、気がつかれしまった。
 
 騎士は警戒の表情と共に、目を細めてこちらを見つめてきた。
 
えっ?
この顔と声は……まさか?

「お前は……マリアンヌか……?」

私の顔を確認して、騎士はそうつぶやく。
少しキツメの口調だ。

「ジーク……フリード様?」

人気のない中庭で、フルートを奏でていたのはジーク様。

王国の王子の身分を隠して、ファルマ学園に通う"ジークフリード・ザン・ミューザス”だった。
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