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第26話:2-1=?
しおりを挟む満開だったサクラ、“ファルマの花”は惜しまれながら散った。
ファルマの街に梅雨の季節がやってきた。
この世界にも"梅雨”という概念があったのは、私も驚いた。
前世の日本と同じように、最近のファルマは毎日、小雨が続きの微妙な天気だ。
もちろん学園は雨でも、通常通りに行っている。
野外での軍事訓練の時間は減り、代わり室内での軍学の時間が増えた。
どちらかといえば身体を動かす方が好きな私マリアンヌにとっては、これは微妙な時期だ。
だって座学は大陸の歴史や過去の戦役について、ずっと勉強するのよ!
本当つまんないよね?
でも私の座学の成績は、実は一年生の乙女の中でも、かなりの上位なのだ。
えへへっ、凄いでしょ。
えっ? 『マリアンヌさん本体が優秀なおかげでしょ』って?
よ、よく、そんな細かいことを覚えているわね、私の設定を。
まあ、そんな感じで梅雨の時期になっても、相変わらず私マリアンヌは元気にしていた。
◇
そんな梅雨のある日の、昼食タイム。
「毎年この梅雨の時期になりますと、憂鬱ですわね、マリアンヌ様」
「私も毎朝の髪の毛のセット時間が、倍かかりますわ、ヒドリーナ様」
「確かにそうですわね」
校舎の豪華な学食で、ヒドリーナさんとオホホホしながら昼食会中。
もちろん相変わらずの二人ぼっちだ。
でも、おかしいな?
入学してから、けっこう月日が経っている。
そろそろ他の友だちが出来ても、おかしくないのに、未だに二人きり。
これは奇妙なことだ。
ねえ、ハンス。
他の女学生の皆さんから“友だちの申し込みの手紙”とか預かってない?
あっ、まったく無いですか。了解しました。
うーむ。これは本当におかしな現象だ。
この時期になると、他の女の子たちは何人かのグループを形成している。
出身地やクラス、貴族階級などに合わせて、色んなグループが出来ているのだ。
それが顕著になって見えるのが、このランチの時間。
ここの学食の席なのだ。
ちらっ。
こっそりと周りを見渡してみる。
女子グループが何組もあり、みんな楽しそうに雑談ランチをしている。
大体が四人~六人の女子グループ。
七人以上は滅多にない。
なみに、これには理由がある。
この学食のテーブルが"一卓最大六人まで”しか、座れないからだ。
そのため学園のグループの最大人数も、自然と六人になるようだ。
なんか有名な某RPGのゲームみたいだ、仲間は最大六人までとか。
そんな大人数のグループが、周りに沢山いる食堂。
私とヒドリーナさんは六人がけの大テーブルに、いつも二人でランチしている。
ヒドリーナさんは気にしていないようだけど、これはかなり寂しい光景。
誰もいないテーブルのすき間が、とても虚しく感じる。
ハンスと執事セバスチャンさん。
よかったら私たちと一緒に座って、昼食を食べませんか?
えっ? 『執事である自分たちは、立って控えているのが常識です』ですか。
はい、分かりました。
そんな訳で今日も広いテーブルで、ヒドリーナさんと二人きりを満喫中なのだ。
――――そんな時だった。
「あら、マリアンヌさん。今日も“たった二人”で、お食事かしら?」
そんな悲しみにくれている私に、声をかけてくる女性の声がする。
おー、これはもしや、仲間に入れて欲しい系な人が、ついに現れたのか⁉
……私の最初は、そう思っていた。
「……これはエリザベス様、ごきげんよう」
でも私は声をかけてきたのは、エリザベスさん。
そう……あの公爵令嬢なエリザベス様だ。
あの花見会の後から彼女は、何かと私に絡んでくる。
相変わらず、ちょっとキツメの口調で。
「あら、マリアンヌさん。友人を作る人心掌握も、私たち乙女指揮官にとって、需要な能力の一つでありますのよ?」
「ご助言ありがとうございますわ、エリザベス様」
精いっぱいの虚勢で、私は作り笑い。
上級生であるエリザベスさんを見送る。
キーッ!
あの人は、一体なんのよ⁉
花見会の時は、せっかくラインハルトの隣の席を、私が譲ってあげたのに。
かなり辛辣な態度が、未だに続いているのよ。
普通ならお花見会で好感度が上がって、『私、マリアンヌさんのことを誤解していましたわ』みたいな感じで、仲良くなれるはずなのに。
あれ、もしかしたら?
『エリザベスさんはラインハルトに好意ある』それが私の勘違いだったのかな?
とにかくエリザベスさんは、面倒くさい相手になっちゃった。
今後は私の変な死亡フラグが、立たないように気を付けないと。
そんな時、心配そうにヒドリーナさんが声をかけてくれる。
「私はマリアンヌ様が、お友だちでいてくれるだけで、十分に幸せでございますわ」
「ヒドリーナ様……ありがとうございます」
ああ……ヒドリーナさん、あなたはいい人だよ、本当に。
これからもずっと友だちでいようね、私たち。
あっ、そうか!
これが“ズッ友”というやつなのね。
前世の自分に、そんな友だちはいかなかった。
だからともて嬉しい。
「あの……マリアンヌ様、実はご報告があります」
あれ?
そんなヒドリーナさんが、少しだけ神妙な顔つきになる。
なんだろう、報告って?
「実は私の大お爺さまが、危篤になってしまったのです。少しの間、里帰りすることになりました」
説明によると、ドルム領にいる彼女のヒお爺ちゃんが、危険な状態だという。
年齢的にも最期を看取りに、里帰りするのだという。
うん、急いで駆け付けてあげてちょうだい。
私も前世ではお爺ちゃん子だったから、その心配な気持ちはすごく分かるよ。
大好きな家族の最期を看取れない時ほど、悔しいことはないからね。
あっ、お土産とかは全然いらないから。
特に前に貰った、あの"ドルム名産の激辛チョコレート”は、ちょっと。ごほっ、ごほっ。
「ありがとうございます、マリアンヌ様。明日からの昼食会は、少し寂しくなるかもしれませんが、私も早めに戻ってまいりますので」
ヒドリーナさんは、私のことを心配している。
でも何を心配しているのだろう?
ん?
あっ!
その理由に、私は気がついた。
(明日から……どうしよう……?)
明日からヒドリーナさんは、数日間いなくなる。
そして私にはヒドリーナさんしか、友だちがいない。
簡単な計算式だ。
【2人-1人=?】は何人になるでしょう?
は、はい……そこの、あなた正解よ。
そう、正解は……1人。
私は明日から、正真正銘の"一人”になるのだ。
この広大な学園のど真ん中で、誰も友だちがいない状況になってしまうのだ!
ど、どうしよう……。
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