99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

文字の大きさ
上 下
24 / 57

第24話:新しい風習

しおりを挟む
 騎士ラインハルトとジークフリードの登場に、お花見会場はざわつく。

 何故なら彼ら二人は普通の騎士ではない。
蒼薔薇騎士ブルーローゼス・ナイツ》と呼ばれるエリート騎士なのだ。
 
 ファルマ学園に入学している美男騎士は、全学年で約数百人。
 その中でも《蒼薔薇騎士ブルーローゼス・ナイツ》に入団できるのは、一握りの才能ある者たちだけ。

 剣技や法術、礼節に人格。
あらゆる分野で優れた者だけが入団できる、最強の騎士団。
それが“蒼薔薇騎士ブルーローゼス・ナイツ騎士団”なのだ。

 そんなエリート集団の中でも、彼ら二人は更に特別な存在。
入学当初の試験から優れた成績をおさめ、異例の飛び級で“一年生入団”に成功していたのだ。

“騎士ラインハルトと騎士ジークフリードは大陸の宝”

多くの関係者が絶賛する、将来有望な騎士たちなのだ。
 
――――そんな二人のいきなりお花見会に登場。

“大物令嬢二人の対立に、どんな決着がつくのか?”

 遠巻きに見ていた令嬢たちは、固唾をのんで注目していた。



私マリアンヌと公爵令嬢エリザベスさんが、対立する最中。
ラインハルトとジーク様が乱入してきた。

「ん? マリア。そんなところ突っ立って、皆で何しているんだ?」

「よく見ろ、ライン。マリアンヌたちは、今は取込み中だろうが」

「ん? そうなのか?」

 幼馴染ラインハルトは首を傾げながら、更に私に近づいてくる。
 “壁ドンの射程圏内”に、私をロックオンしてきた。

 うっ……相変わらず近いんだから、この人は。

それにしてもラインハルトは、“空気を読まない系”なのかな?
 こんな緊迫した状況に、割って入ってくるなんて普通ではない。

ゲームをプレイしていた時は、ラインハルトは自己中心的なオラオラ系キャラ、だと思っていた。

でも、こっちの世界のラインハルトは少し、印象が違う。
強引さにKYが足された感じなのだ。

 その証拠にジーク様は、普通な行動をしている。
クールな感じで、私とエリザベスさんとから距離をとっていた。

でも視線は氷のように鋭い。
私のことをジッと観察しているみたいだ。

――――そんな時、急に震えた声を出す人がいた。

「ラ、ラインハルト様⁉ こんにちわですわ」

 えっ?
この声は、エリザベスさんだ。
 
さっきまでのキツイは口調。
でも今は一瞬で豹変して、何か女の子っぽい口調になっている。
なんか可愛い声だ。

「ラインハルト様は、この方、マリアンヌ……様と、お知り合いなのでございますか……?」

「おっ、エリザベスもいたのか。こいつはオレの幼なじみでマリアだ」

「“マリア”……の愛称ですか⁉ それに“幼なじみ”だったのですか、ラインハルト様の……⁉」

 エリザベスさんの声は、何故かぷるぷる震え始める。
私の顔とラインハルトの顔を、交互に見て言葉を失っていた。
 
「なぁ、マリア! オレ様たちは幼馴染なんだよな!」

「ええ、一応は、そうでございますね、私たちは」

死亡フラグの可能性が高い、ラインハルトとはあまり仲良くしたくない。

でも、こうした状況なら令嬢として受け答える必要もある。
あまり視線を合わせないように、適度に答える。

ん?
あれ、周りの令嬢たちの視線が、何かおかしくなっているぞ?

ラインハルトとジーク様を見つめながら、皆の瞳がピンクのハートになっているのだ。

あっ、そうか。
この二人の騎士は、学園内の女子に異様に人気がある。

だから周りの令嬢たちは、目をハートにしているのだろう。
 
ん、あれ? 

エリザベスさんの瞳も、ハートになっているのかな?
ラインハルトのことを、ジッと見つめている。

(もしやエリザベスさんは、ラインハルトのことを……⁉)

 まさかの公爵令嬢様が、オレ様なラインハルトに片思い中?

まぁ、でも放っておこう。
人様の恋愛には首をツッコまないのが、私の信条だから。

――――ん、でも待てよ⁉ これは使える!

そんな時、私は閃いた。
この窮地を脱出するチャンスだと。

終わりの見えない、この対立構造な女同士のにらみ合い。
解決するために、ラインハルトにひと肌脱いでもらおう。

ふう……よし、マリアンヌモードを発動だ。

「エリザベス様、先ほどは大変失礼いたしました。お詫びといってはなんですが、よかったら、皆さんでお花見をしませんか? もちろん、“ラインハルト様”やジーク様も一緒に?」

 ラインハルトの名前を強調して、私はエリザベスさんに提案する。
喧嘩を止めて、ここで一緒に花見をしないかと。

「ラ、ラインハルト様と、私が一緒にですか……⁉」

 エリザベスさんは驚きながらも、顔を赤く染め、喜びの表情を浮かべている。

「おっ、マリア。それはいいな!」

ラインハルトも私の提案に、賛同してくれている。
よし、これで第一段階は成功だ。

「だが席がないぞ、マリアンヌ?」

 ジーク様の的確なツッコミが来てしまう。

うーん、たしかに。

 この場で空いているのは、四人がけの小さなテーブルだけ。
場所はあるけど椅子が、明らかに人数には足りていない。

一緒に花見をするのは状況的に。私とヒドリーナさん、ラインハルトとジーク様。
それにエリザベスさんと、取り巻きの先輩が四人。

全部で九人分の席が必要になる。
他の席は埋まっているし、どうしたものか?
 
……“まさか何も考えずに、提案していたのか?”

 そんな疑問の視線が、ジーク様から飛んでくる。
これは早く解決しないと。

うー、でも、どうしよう。
大人数でも椅子がいらない、花見の方法は、何かないかな?

――――あっ、そうだ!

ナイスアイデアが浮かんできた。
皆に伝えよう。
 
「私の故郷バルマン領では、昔は“このように花見の宴を楽しんでいた”と言い伝わっておりまわす。皆さんも、いかがですか?」
 
 みんなの視線が集まる中、私は新たなる花見の席を設ける。
 自分の持っていた野外用マントを、足元に敷き、そこに座る。

「えっ……地面に座るなど、なんて無作法な……」

 取り巻きの子が小さくつぶやく。
常識的に貴族にあるまじき、下賎な行為であるのだ。

「そうかもしれません。ですが、こうすると、満開のファルマの花を、いろんな角度から見ることができますのよ?」

 地面の上に敷いたマントにお嬢様座りをしながら、私は頭上で満開に花開くサクラの花を見つめる。

 うん……素晴らしい眺め。

やっぱりこの低い視線が、私的には一番しっくりくる。

豪華な貴族椅子の上からではなく、前世のようにより地面に近いこの視線が心地よい。

「おっ、これは確かに⁉ マリアの言う通りだ! ちょっと来てみろよ、エリザベス! それにジークも! ここからの花は最高だぞ!」

 私の真似をして、ラインハルトはマントを敷いて座り込む。
行動が早い。

 そして唖然としている二人を、強引に誘う。

「ラ、ラインハルト様が、そこまでお勧めするのでしたら、私も……」

「なるほど。これは悪くないな」

 それは不思議な光景だった。
 
公爵令嬢であり、王族の親戚筋にもあたる令嬢エリザベス。

エリート集団《蒼薔薇騎士ブルーローゼス・ナイツ》のラインハルトとジークフリード。
 
そんな三人が庶民と同じように、地べたに敷きものをして、笑顔で花を愛でていたのである。

「おい。そこで突っ立ってないで、お前たちもどうだ?」

「……ラインハルト様が、そう仰るのならば、私たちも……」

ラインハルトは取り巻き軍団も、強引に誘う。
彼女たちも野外マントを敷いて、地面に座り出す。

「ヒドリーナさんは、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます、マリアンヌ様!」

私は隣にヒドリーナさんを誘う。 

何かよく分からない状況になってきた。
でも、せっかくの花見会なんだから、皆で楽しまないとね。

――――そして“その流れ”は一気に、周囲にも広がっていく。

……「おい、我々も真似してみるか?」

……「いいな、のった!」

……「エリザベス様とマリアンヌ様、楽しそうにですわね……」

……「あら、それなら私(わたくし)たちも、習いましょう」

……「そうですわね」

 輪はどんどんと広がっていく。
 
今まで椅子に腰をかけていた騎士と令嬢たち。
彼らも真似をしてマントや布地を、地面に敷き花見を始めていく。

 誰もが最初は戸惑い、遠慮しながら。

「「「おお……この眺めは!」」」

戸惑いは、すぐに感動へと変わっていった。

初めの視界からの〝ファルマの花”の美しさに、誰もが言葉を失っていたのだ。

地面での花見会には、高価な紅茶セットやテーブルはない。

だが邪魔な物がない分だけ、隣の人と距離が近い。

誰もが新しい花の魅力に感動して、仲間たちと感動を共有していたのだ。



 これは後日談である。

後日、ファルマ学園に新しい風習が生まれた。
椅子やテーブルを撤去して、地面の敷き物から花を鑑賞する、新しいスタイルが流行していったのだ。
 
 この時が、長い伝統あるファルマ学園の風習が、変わった歴史的な瞬間だったのだ。



だが、この場にいた者たちは、心から花見会を楽しんでいた。

(うん、やっぱりサクラの花見は、こうじゃなくちゃね!)

 誰もが心から楽しんでいた光景に、私の心はほっこりしていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...